女勇者の父、再会する
リュウジンに会うために必要と思われることは世界樹の神官とリュウジン本人に聞くことができた。
できればリュウジンの住処だという龍の庵に足を運ばずに世界樹を通じて話をさせてもらえれば助かったのだが、リュウジンが暇だから来いというのでそこまで行くことになった。
(あと聞きたいことは……。)
ついでに世界樹の神官であるアーリャに魔王について聞きたいところであったが、その場にムリアーテとラウールがいたため話を出すことができなかった。
聖大陸で勇者と賢者が生まれたことは俺が実家であるリード商会を通して広めた噂ですでに各大陸で知るところとなっているだろうが、魔王については言及していない。
勇者や賢者とは英雄のひとつの称号であり、何も魔王と戦う者だけに与えられるものではないので不自然さはないはずだ。
人族よりも成長が遅い魔族なので、娘のルナと戦うという魔王はすでに誕生しているのだろうが、下手に魔大陸を刺激したくないということもあり、意図的に勇者が魔王と戦う使命を負っていることは伏せている。
(このチャンスを目の前にして歯がゆいな。)
そうは言ってもまずはアポイントを取ったばかりのリュウジンに会うことが大事だ。
俺たちが一度にできることなど知れている。
目の前にあることをひとつずつこなすしかないのだ。
(よし、リュウジンに会って必要な知識が得られなかったらもう一度、アーリャの力を借りよう。)
俺は仲間たちの顔を見渡したが特に世界樹の神官に聞きたいこともなさそうなのでアーリャとムリアーテに礼を言う。
「アーリャさん、ムリアーテ様。ありがとうございました。おかげで知りたい情報を得ることができました。」
「お役に立ててよかったです。」
そう言ったアーリャの顔は先ほどまでの厳かさが消え、柔らかい表情になっていた。
それでも息を飲むほどの美しさは変わらないが。
額に大粒の汗が浮かび、消耗した様子が見られる。
どうやら世界樹から知識を得るのはかなり体力を消費するようだ。
「しかし、皆さんが世界樹で知りたいことがリュウジンについてとは驚きました。」
ムリアーテが「驚いた」という割には笑顔を崩さずに言う。
この男も政治家として修羅場はそれなりにくぐっているのだろう。
心を揺さぶって感情と表情を揃えさせることは難しそうだ。
「私たちもリュウジンについてよく分かっていなかったのですが、先にムリアーテ様にその名前を出せばもっとスムーズに話を進められたかもしれませんね。」
エルフ族にとってリュウジンというのは耳なじみのある名前らしい。
世界樹の知識をエルフ族が使用することを禁止した人物を、彼らはどのように思っているのだろう。
神として畏敬の念を抱いているのか、それとも憎らしく思っているのか。
人族である俺には分からないことだ。
「どうでしょうね。もしかすると特に変わらなかった気もします。やはり行方不明事件を解決していただくことを、世界樹を利用する条件にしたでしょう。」
俺の言葉にムリアーテが正直に答える。
「それで、皆さんはこれからどうされるのですか?」
「そうですね。ひとまず聖大陸に戻って船を手に入れようかと思います。その船を使って龍の庵に向かいます。」
今度はムリアーテの質問に俺が答える。
文字通り海の真ん中に位置するというリュウジンの住まいまでは船で行くしかないだろう。
そのためには多少の伝手が利く聖大陸に戻るのがいい気がする。
王国騎士団長のケビンの力を借りるのは難しいかもしれないが、建材を扱っている俺の実家であるリード商会なら同じ木材を使用している造船所に繋がりがあるかもしれない。
「ワシもアベルたちと一緒に帰らせていただきますじゃ。」
この1ヵ月のナラーシャの里での生活でガルウも少しずつ敬語を覚えたようだ。
俺が敬語を使っているのを見て、自分も使えないと恥ずかしいと思ったそうだ。
まだまだ不自然だが、ガルウなりに一生懸命なので茶化すようなことはしない。
「ガリューおじさん、帰ってしまうんか?嫌じゃ!」
ずっとガルウに抱っこされたままだった甥っ子のグルーリャが、太い首にしがみつく。
ガルウの真似か、父親であるグルウもそんなしゃべり方をしていたのか、グルーリャはガルウと同じような話し方をする。
育ちの良さが顔に出ている少年のしゃべり方としてはギャップがあって微笑ましい。
「ワシもグルーリャと離れるのは辛いが、いつまでもここにいる訳にはいかんのじゃ。また必ず遊びにくるからそれまでいい子で待っているんじゃ。」
「本当か?」
「本当じゃ。」
「約束じゃぞ?」
「約束じゃ。」
ガルウが立てた太い小指に、グルーリャの小さい小指が絡みつく。
6歳のグルーリャが、涙が出そうになるのを眉間に力を入れてぐっとこらえているのが分かる。
彼もガルウのように強い男に育つのだろう。
「アーリャよ、今度はグルウも連れて来たいのう。」
「そうですね。楽しみにしています。」
エルフ族の寿命に比べて獣人族の人生は恐ろしく短い。
ガルウの弟であるグルウが病を治して妻子に会いに来られる日が来ることを俺も祈る。
***
数日後、俺たちは土大陸に上陸した時に利用した港町エリューカに戻ってきていた。
もう8月も終わろうとしている。
5ヵ月間に渡るこの旅だが、スタート地点である聖大陸に戻ることになった。
「ケビンなら船を手配してくれるだろうか?」
「さすがに内陸の王都にずっといるパパには無理じゃないかしら。」
王立騎士団長であるケビンの伝手で船を借りられないかソフィアに尋ねてみたがやはり難しそうだ。
「僕の伝手で船を借りるとしたらサウスポートの街ですが、龍の庵に行くことを考えると大陸の反対側ですからね。」
聖大陸の南の港町に住んでいたノアは船を借りる当てはあるが、場所が悪い。
聖大陸の北の海にある龍の庵に行くためにはできれば北の港町ノースポートから出航したい。
せめて東のイーストポートか西のウエストポートだろう。
「そしたらやっぱりリード商会を頼るしかないか。」
「どうして船が必要なのかは知りませんが、聖大陸で船を手配するのは無理だと思いますよ。」
横から俺の呟きに応えたのは、久しぶりに見る顔だった。
「サミュエル!」
突然現れたのは聖大陸で王国騎士団長ケビンの補佐をする男だった。
俺たちが聖大陸から西に移動する際に色々あって行動を共にしていたことがある。
「久しぶりだな!お前も土大陸に来ていたのか!?」
一瞬だけ懐かしそうに俺たちに笑顔を見せたサミュエルだが、真面目な顔になり、作ったように事務的な声を発した。
「ソフィア様、ノア殿。おふたりには聖王国への帰還命令が出ております。」
最後まで読んでいただきありがとうございます!
いよいよ物語が大きく動き出す……かもしれません。




