娘、お祝いをもらう
王立学校の特待生待遇。
それを使って娘に勇者としての教育を受けさせろと言う。
「ルナが……娘が勇者だというのは本当なのか?」
「予言は絶対だ。それは間違いない。」
これまでも何度か予言があり全て的中してきたからなのか、他の理由があるのかは分からないがケビンに迷いはない。
「ルナ殿が勇者である以上、王立学校で教育を受けて文武共に成長されるのが最善と思う。」
「……申し訳ないが、昨日生まれた子供が勇者だから7歳になったら王立学校に通わせろと言われても全く実感がない。すまないが少し考えさせてくれないか。」
正直なところ、俺にはまだ父親としての自覚すら曖昧なのだ。
ケビンの来訪と言葉は唐突すぎた。
「妻のアンジェリカともよく話さないといけないだろうし。」
「分かった。それでは3年後に返事を聞きに参ろう。もちろん、王立学校に入学していただけるものとして動きはするが、本格的に活動するならそれが限度だ。」
「ああ。」
ケビンとトマス町長を玄関まで見送る。
「なあ、ケビンさん。予言では俺の娘が『魔王と戦う勇者』ってことだが、『魔王を倒す勇者』ではないんだよな?」
俺はずっと引っ掛かっていたことを口にする。
魔王を倒す勇者と言ってくれれば不安も少しは解消するのだが。
「うむ。どうやら予言では勇者と魔王の勝敗までは分からないらしい。だからこそ、ルナ殿の安全のためにも王立学校で最大限の教育を、と思っているのだ」
「生まれる日と場所まで分かっていても勝敗は分からないっていうのも変なもんだな。」
「予言のシステム上、仕方ないことであるのだがな。」
「ん?」
「いや、なんでもない。忘れてくれ。あと、すまないがせっかくなのでルナ殿のお顔を見せてもらってもよろしいかな?」
断ることもないかと寝室に行き、娘を抱いたアンジェリカごとルナを連れてくる。
「こちらは王国騎士団の副団長のケビンさん。たまたまトマス町長のところに用事があったらしく、昨日子供が生まれた家があると聞いてお祝いにきてくれたらしい。」
先ほどの玄関での俺とトマス町長の会話を聞いていただろうからちょっと矛盾するがこの場はそれくらいの説明でいいだろう。
「あら、それはご丁寧にありがとうございます。娘のルナです。」
アンジェリカも一瞬だけ訝しげな顔をするが何かを察したのか笑顔で娘の顔をケビンに向ける。
ルナは幸せそうに眠っている。
先ほどまでおっぱいを飲んでいたのだろうか。
「ほう、なんと愛らしい。将来が楽しみですな。」
アンジェリカに向けてルナを褒めるケビンの目元はその肩書が嘘のように柔らかい。
彼にも娘がいるのかもしれない。
「だいぶ長居してしまった。おっと、これは娘さんの出産祝いだ。あくまで『私個人から』なので遠慮なくもらっていただきたい。」
そう言うと小さな袋を取り出した。
おそらく硬貨が入っているのだろう、動かすとシャランと微かに音がする。
ケビンが『私個人から』と強調したのは、これを受け取ったなら王立学校に娘を入れろとは言わないということだろう。
少し気が引けるがありがたく頂戴しよう。
「気遣い、すまんな」
「はっはっは。全ての赤ん坊はこの国の未来、光だ。アベル殿も精いっぱい子育てに励まれい!」
予言とやらは全く信用はできないが、このケビンという人物のことは少し信用してもいいのかなと思えた。
そして、ケビン達一行を見送り、部屋に戻る。
アンジェリカにケビンから聞いた話をしなくてはならない。
最後まで読んでいただきありがとうございました!
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予定では娘の成長記録的なものを入れる予定でしたがここまでが長くなりすぎたので過去編はここまでとし、次回からいよいよ主人公アベルの冒険を始めようと思います。
娘の成長記録編は気が向いた時や必要と思った時にところどころ挟んでいきます。