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女勇者の父、ムリアーテに会う

エルフ族の最高権力者のひとりであるムリアーテの屋敷は内部も木造ではあったが、要所に太い柱や大きな一枚板を使い、外観以上の気品と重厚な雰囲気を醸し出していた。

もちろん、巨体のガルウやサザァーエさんが歩いても床の軋む音などしない。


「こちらの部屋へお入りください。」


屋敷の使用人であるエルフ族のラウールが、自身の身に着けている赤茶色の燕尾服と同系色のドアを開けて俺たちに中に入るよう促す。


「失礼します。」


中にムリアーテがいることを予想し、部屋に入る前に断りを入れてみる。

ガルウを先頭にすると何をしでかすか分からないので一応、俺がいちばん前にいる。


「どうぞ、お入りください。」


男性にしてはやや高めで、響きの柔らかい声が返ってくる。

ムリアーテの声だろうか。

その声にワンテンポ遅れて中に入ると、長いテーブルの奥に深い緑色の髪の生え際が頭のてっぺんまで後退したエルフがいた。


(禿げたエルフは初めて見たな。)


エルフ族は老けないので、髪だけが薄くなり顔は若いままというのがいくらかアンバランスだ。

全員が部屋に入ったところで禿げたエルフが挨拶をする。


「ようこそいらっしゃいました。この館の主であるムリアーテと申します。」


やはり、この男がムリアーテだった。

パーティーを代表して俺が挨拶する。


「アベルです。ムリアーテ様におかれましてはご多忙の中、突然の訪問にも関わらずお時間を作っていただき心より感謝いたします。」


俺の敬語にガルウだけでなく、ノアとソフィア、リリまでも驚いた顔をしている。

だから、俺は敬語もそれなりに使えるの!

聖大陸の王都でそれなりの規模の商会の子供として育ってきたから、ちゃんと習った訳ではないけど、小さい頃から敬語は耳にしてるんだからな。


「さあ、みんなもムリアーテ様にご挨拶をするんだ。」


俺は腹の中の思いを声に表さないように気を付けながらパーティーメンバーたちにこの家の主に挨拶するように促す。


「あ、ああ。ガルウじゃ……いや、ガルウですじゃ。」


「ノアです。」


「ソフィア・コックスと申します。」


「リリ、です。」


「サザァーエ・イスオノでございます。エリューカからナラーシャの里までの案内人をさせていただいております。」


「サザァーエさんにはナラーシャの里全体がいつもお世話になっているのに、こうして直接お会いするのは初めてですね。ご挨拶が遅れて申し訳ありませんでした。あなたが旅人を連れてきてくれるおかげでこの里にも外貨が入る。大変感謝しております。」


「いえ、そんな!あたしの方こそ里のみなさんにはよくしていただいて。それもムリアーテ様のご指示のおかげと聞いております。」


「ははは。心をこめてお客様をもてなすのは当然のことですよ。」


どうやらこのムリアーテという人物は、サザァーエさんに聞いていた以上に人格者のようだ。


「それで、みなさんの訪問の目的はアーリャとグルーリャに会うことでよろしいのでしょうか?」


「そうじゃ!……そうですじゃ。」


「そんなに畏まらないでください。話しやすいように話していただいて結構ですよ。」


「そうか、助かるのう。なあ、アベル?」


俺を敬語が使えない者として同列扱いしたいガルウに見せつけるように、俺は自分なりの敬語で話を進める。

ちゃんとした教育を受けていない俺に正しい敬語かどうかなど分からないが、どうせガルウにも分かるまい。


「ムリアーテ様のおっしゃる通りでございます。このガルウはアーリャ様の夫であるグルウ殿の兄にてございます。そして、お孫様であるグルーリャ様の叔父にあたります。」


「うむ。その銀色の髪は孫から聞いていた『ガリューおじさん』の特徴と一致しますね。」


「そうじゃ。グルーリャはワシのことを『ガリューおいたん』と呼んでいてのう。舌足らずで可愛いんじゃ。」


「風大陸からこちらに戻った時は4歳になる直前でしたね。5歳になった今ではだいぶ言葉もはっきりしてきて『おじさん』と言えるようになりましたよ。ただ、あなたのことは『ガリュー』で覚えてしまっているらしく、今でも『ガリューおじさん』と言っています。」


「そうかそうか!早く会いたいのう!」


孫と甥っ子。

同じ人物のことを思い浮かべながら初対面の2人が微笑む。


「もうすぐグルーリャの誕生日じゃろ。弟のグルウから誕生日プレゼントを預かっておってのう。なんとか渡させてもらえんじゃろか。」


「いいでしょう。別室にて娘と孫を待機させています。ラウール、ガルウ殿を案内して差し上げなさい。」


「かしこまりました。」


使用人のラウールに連れられてガルウが部屋から出ていく。

家族水入らずというやつだろう。

さて、俺たちはどうするべきか。


「アベルさんたちはここでお待ちください。その間にお茶でもいかがですか?」


その言葉を待っていたように、メイドがティーセットをテーブルの上に並べ始める。

ムリアーテに促され俺たちが席につくと順番にカップに紅茶が注がれる。


「ソフィアさんはコックスと名乗られましたが、あのケビン・コックス様のご血縁の方でいらっしゃるのですか?」


「はい、ケビンは私の父でございます。」


さすが聖大陸が誇る王国騎士団長。

エルフ族の最高権力者にまでその名を知られているようだ。


「アベルとノアはコックス当主である父ケビンの客人でもございますわ。それにリリは先日までドワーフ族のゾゾゾゾゾゾ王に仕えていたのですが、縁あって私たちと共に行動しております。」


俺とノアは客人の証としてケビンにもらったコックス家の家紋の入ったメダルを見せる。

ムリアーテは満足気に頷く。


「なるほど。みなさんは武芸にも覚えがありそうですね。」


ムリアーテは部屋の片隅に置かれた俺たちの剣や槍を見て感心したように言う。

旅装のままこの部屋に来たので、それぞれに武器を持ち込んでいる。

異国の要人と会う場所に武器を持ち込むなど本来であれば許されないと思うのだが、特に咎められることもなくこの部屋まで通された。

考えすぎかもしれないが、そこに何らかの意図を感じる。

この質問にはソフィアでなく俺が答える。

謙遜してもいいところだがすでに身元が確かなことを伝えてあるし、ここは強気に出てもさほど警戒はされないだろう。

むしろムリアーテは世間話というより何か探りを入れてきているようだが、あえてそれに乗ってやろう。

虎穴に入らざれば虎子を得ず、エルフ族の懐に入らざれば世界樹の情報を得ず、だ。


「リリとガルウはそれぞれの国の軍で正式な訓練を受けているので腕は確かです。ソフィアは王立学校を首席で卒業していまし、ノアは聖大陸でも10人いるかとされるAランク魔術師です。おっと、ということは私以外は全員優秀ですね。」


「ははは、アベルさんは面白い方だ。パーティーのリーダーはあなたなのでしょう?このような素晴らしいメンバーを纏めるリーダーが優秀でないはずがないではありませんか。」


「リーダーには2種類います。優秀な仲間を従え、思いのままに操る更に優秀な者。優秀な仲間が思わず支えたくなるほどの無能な者。恥ずかしながら私は後者でしてね。そして、ムリアーテ様は前者だと思いますがいかがですか?」


このやり取りに何かの意図があるならばムリアーテが切り出しやすいように話を振ってみる。

こちらの思いを汲んだのだろう、ムリアーテはすぐに乗ってきた。


「私の思ったとおり、アベルさんは頭の良い方だ。しかし私はね、アベルさんが思っているような優秀な人間ではありません。里長のご厚意で政治に携わらせていただいていますが、それに見合う能力など持ち合わせていないのです。この頭を見てください。エルフは本来、禿げないはずなのです。ですが、能力に見合わない仕事をこなすストレスから髪が抜け始め、気が付いたらこうなっていました。」


ムリアーテが頭頂部まで広がったおでこを指さして力なく笑う。

しかし、ここからが本題だ。


「エルフ族の最大地域の政治を一手に担うのはさぞ大変でしょうね。私たちで何かお役に立てることがあればいいのですが……。」


「お客様にこのようなことを申し上げるのは心苦しいのですが、どうしても私たちの手だけでは解決できなさそうな問題がありましてね。」


さて、鬼が出るか蛇が出るか。

この話が世界樹につながっていてくれればいいのだが。

最後まで読んでいただきありがとうございました。


いつもと違う雰囲気のアベルはいかがでしたか?

私は書いていてとても楽しかったのですが、皆様を置いてけぼりにしてないか不安です。

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