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女勇者の父、エルフの里に着く

その後の行程は順調に進み、2日目と4日目にはエルフの里に泊まることができた。

とはいっても集落の片隅でテントを張らせてもらう程度で、歓迎された様子もなくエルフの里に来たという感慨はなかったが。


そして、いよいよ5日目。

土大陸に上陸してからは6日目にしてナラーシャの里が見えてきた。

この大陸の中枢ともいうべき里であるナラーシャは木で作られた壁に囲まれた広大な集落だった。

閉ざされた大きな門の前に2人の兵士が立っている。

さらに壁の上にも何人もの弓を持った見張りが配置されているのを確認できる。

門の前の兵士のひとりがサザァーエさんに気付く。


「おお、サザァーエ殿。その者たちは客人か?」


「そうだよ。アーリャ様のお客様だ。失礼のないようにね。」


「アーリャ様の?」


失礼のないようにとサザァーエさんに言われたそばから俺たちのことを値踏みするような目つきで兵士たちが見渡す。

エルフ族屈指の権力者の娘の客人にしては俺たちの見た目がちょっとやんちゃすぎたのかもしれない。

いちばん良い身なりのソフィアですらミスリル製の鎧を纏っているし、ガルウに至っては獣化することを見越してかダボダボのズボンに袖のないシャツを着ている。


「ワシの弟がアーリャの夫なんじゃ。アーリャにグルウの兄のガルウが来たと伝えてくれんかのう?そうすりゃ嘘をついとらんことが分かるはずじゃ。」


兵士たちの訝しがる視線など気にしないように、明るく友好的な口調でガルウが言う。

アーリャが獣人族と結婚したことは知っているのだろう、兵士たちもガルウの言葉を聞いて一瞬だけ理解の表情を覗かせるが、すぐに真顔に戻る。


「では、屋敷に行ってそなたたちを迎え入れていただけるか確認してきましょう。申し訳ないがそれまでそこの小屋でお待ちください。」


どうやら屋敷を訪問できるか兵士が聞いてきてくれるようだ。

言葉遣いも幾分か丁寧になっている気がする。

その兵士と入れ替わりで別の者が門番としてやってきて、俺たちは門の近くに設置された丸太づくりの小屋に案内される。




小屋に通されて30分を少し超えた頃、屋敷に向かった兵士が息を切らして帰ってきた。

アーリャの住む屋敷までは急いでも15分ほどかかるということだろうか。


「お、お待たせいたしました!ムリアーテ様がお会いになられるとのことです!」


アーリャではなく、その父ムリアーテのアポイントが取れた。

ムリアーテはエルフ族でも最も大きな地域であるこの一帯の実権を握る人物である。


「ワシはアーリャとその息子のグルーリャに用事があるんじゃがのう。」


ムリアーテに用事はないとガルウはぼやく。

世界樹について知りたい俺たちとは違い、ガルウにとっては直接アーリャに会わせてもらった方が話は早いのは確かだ。

だが、娘を持つ親として、大事を取って自分の目で相手を見極めてから娘に引き会わせたいという気持ちも十分に分かる。

俺たちがアーリャの義兄であるガルウをかたっている悪党である可能性だって否定できないのだから。


「それじゃあ、案内してもらおうかね。」


サザァーエさんが先ほどの兵士に言う。

彼女もついてくるようだ。

俺たちをエリューカの案内人ギルドまで連れ帰るまでが彼女の仕事であり、受け取る報酬の範囲なのだ。

ここでサヨナラという訳にはいかないのだろう。




ナラーシャを守る門が開かれる。

森と里を区切る壁の内側は、木が計画的に伐採され陽の光が眩しいばかりに大地を照らしている。

途中立ち寄った2つの集落は、森の中にある少ない日向を田畑に使い、人々の家は日陰にこぢんまりと建てられていた。

古い木製の家には苔が生え、蔦が絡んでいるものもあった。

ナラーシャの里は完全に『街』で、森を抜けてきた俺たちには家々が日光を存分に浴びて輝いているように見えた。


「今までの集落と違って、ここはちゃんとした『街』だな。」


「そうでしょ。でもね、基本的に自給自足だから畑もあるのよ。」


俺が漏らした感想にサザァーエさんが反応する。

サザァーエさんの言うとおり、里を守る壁の近くやそれぞれの家の隣には畑が整備され、ナスやトマトなどの夏野菜が収穫を待っているのが見える。


「美味しそうね!」


ソフィアが目を輝かせる。

確かにトマトの健康的な赤が食欲を誘う。


「当然ですけど、待ち行く人はみんなエルフ族ですね。」


エルフ族は人族の美的感覚でいうと整った容姿をしている者が多い。

また、成人後は老けないという特徴もあって里の中は美男美女で溢れかえっていた。


「リリはエルフ族の里ってどうなんだ?」


リリたちドワーフ族は、エルフ族と不仲という話を聞いたことがある。

パーティーメンバーとして同行しているが、彼女は気まずい思いをしていないだろうか。


「別に、何も。ドワーフ族、エルフ族のこと、嫌いじゃない。」


「え、そうなの?」


「他の種族、誤解している。だから、エルフ族に、近づかない。」


リリの言葉では分かりにくかったが、よく聞くとドワーフ族もエルフ族も他種族から仲が悪いと思われているが、そんなことはないらしい。

ただそういう誤解がある以上、仲良くしたり、互いを肯定したりすると仲が悪くないことを説明することになり面倒なので興味のないふりをしているそうだ。


「たまたまそういう物語が有名になってしまったということですか。」


俺たち人族の親が幼い子供に聞かせるおとぎ話のレパートリーの中に、仲の悪いドワーフ族とエルフ族の物語があり、それによって刷り込みが行われていたようだ。

俺も娘のルナにそんな物語を読んでやった記憶がある。

いつか訂正してやらないとな。

言われてみればナラーシャの街を歩くリリは平気な顔をしているし、すれ違うエルフ族たちもドワーフ族の彼女を見て気にする素振りがない。


「もしかして、前に弓を使わないのもエルフのイメージがあって嫌だって言ってたのも『エルフ族と同じものを使うのが嫌』なんじゃなくて『エルフのイメージが強い弓を使うことで他の種族からとやかく言われるのが嫌』ってことだったのか?」


「そう。」


「おっと、ムリアーテ様のお屋敷が見えてきたよ。」


15分ほど歩いた頃、遠くに白い柵で囲われた大きな木造の屋敷が見えてきた。

聖大陸で見られる貴族の豪華絢爛な建物に比べればまだ小さめではあるが、ナラーシャの里では群を抜いた大きさを誇る立派な屋敷だった。

見栄えばかりを気にした貴族の屋敷よりも、実用性と環境との調和を大事にしたようなムリアーテの家は庶民の俺には好感を持てた。

ソフィアの父であるケビンの屋敷にも雰囲気が似ている気がする。


「里のほぼ中央にムリアーテ様のお屋敷があって、広場を挟んで反対側に里長様のお住まいがあるんだよ。」


サザァーエさんの話から判断すると里の端から端まで2キロメートルほどあるようだ。




ムリアーテの屋敷を見つけて数分で、敷地を囲う柵の中央に設けられた門の前に着く。

俺たちを先導してきたエルフ族の兵士が、門の中で待っていたエルフ族の男に声をかける。


「先ほど連絡しました者たちを連れてまいりました。」


「ご苦労様です。あとはこちらで行いますのでどうぞお仕事にお戻りくださいませ。」


「はっ!」


兵士は門の中の男に敬礼をすると俺たちに視線で挨拶をして里の入口の方に帰っていった。


「今、門を開けますので少々お待ちください。」


赤茶色の燕尾服を着たエルフ族の男が白い手袋をはめた手で門を開ける。

白に近い金髪をオールバックにしており、その下の顔は年齢が分からない。

人族でいえば20歳から30歳の間というところだが、エルフ族は死ぬまで老けないのだ。

開いた門の中央で、そのエルフ族の男が仰々しく挨拶をする。


「遠路遥々ようこそおいでくださいました。お疲れとは存じますが、我が主ムリアーテがお待ちでございます。先に皆様のお話を伺ってもよろしいでしょうか。」


「ああ、ワシも早くアーリャとグルーリャに会いたいんじゃ。」


「……ガルウ様でいらっしゃいますね。申し遅れましたが、ワタクシはこの家の使用人をしておりますラウールと申します。よろしくお願いいたします。」


俺たちはラウールの後ろについて屋敷に向かう。

屋敷の玄関までの通路の脇には畑があり、途中で見たものと同じようにナスやトマト、キュウリの実が陽の光を浴びて輝いている。


「どうぞお入りください。」


玄関の扉を開き、ラウールが中に入るように促す。

いよいよエルフ族の最高権力者のひとり、ムリアーテとの面会だ。

最後まで読んでいただきありがとうございます!

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