女勇者の父、案内人に会う
翌朝、ギルド職員に指定された時刻の少し前に案内人ギルド前でソフィアとリリが合流する。
狭い床で雑魚寝した俺とガルウやベッドに荷物を置かれて寝づらそうだったノアと違い、彼女たちはよく休めたようだ。
うん、よかった。
「それじゃ、行くか。」
案内人ギルドの入口に視線を向け、俺がそう言うと全員が頷く。
いよいよ土大陸での冒険の扉が開く。
ギィイイイ……
ちなみに今のは案内人ギルドの扉が開く音だ。
「あ、アベルさん。こちらです!」
昨日の若いギルド職員が俺たちを見つけて声をかける。
まだガルウに対して苦手意識があるのか、そちらには視線を向けない。
ガルウはそんなことを知ってか知らずか、非常にフレンドリーにギルド職員に話しかけている。
「おう、ニイちゃん!ワシらのためにいっちゃん上等な案内人を選んでくれたんじゃろな?」
「い、いえ、ウチの案内人はみなさん素晴らしい方ですから……」
「そうか、そうか!」
何が楽しいのかガルウはガハハと大声で笑い、犬のような尻尾が左右に揺れる。
「早速だが、案内人を紹介してもらおうか。」
カウンター越しにギルド職員に絡むガルウの巨体を引っぺがし、案内人を紹介してもらえるように頼む。
「はい、今お呼びしますね!」
ガルウを引き離してもらえて安心した顔のギルド職員がカウンターから離れて別室に移動する。
案内人の控室なのだろうか。
ギルド職員がその部屋から出てくると隣に海人族の中年の女性を連れていた。
身長はソフィアと同じくらいで170センチほどだろうか。
筋肉質だが細身のソフィアと違っていささかふくよかではあるが、森の中を行き来する案内人だからかそれなりに筋肉もついていそうだ。
ウエーブのかかった濃い藍色の髪を後ろで束ねており、日に焼けた小麦色の顔の横からヒレのような耳が見えるので海人族と判断できる。
(あれが案内人かな?急にパーティーの平均体型が大きくなったな。)
俺は175センチで、体重は70キロ。筋肉はそこそこ。
ノアは165センチ。体重は55キロくらいか?筋肉量が少なく、痩せている。
ソフィアは170センチと女性にしては大柄だし、筋肉質だが元々の線が細い。
リリは元々王宮の護衛をやっていたくらいなので鍛え上げられた肉体をしているが、そもそもドワーフ族で身長が120センチ程度だ。
土大陸で行動を共にすることになった獣人族のガルウは身長190センチで、肉厚の胸板と丸太のように太い手足をしている。
もし、俺が森の中で突然ガルウに出会ったら灰色熊が現れたと腰を抜かしてしまうだろう。
そして、案内人としてこのクジラのようなおばちゃんが加わるのだ。
俺たちのパーティーに2人が加わったのか、俺たちが入れてもらったのか体積だけでいうと判断が難しいところだが、分は悪そうだ。
「あたしがアンタたちの案内人のサザァーエ・イスオノだよ!よろしくね!」
「ああ、ナラーシャまでよろしく頼む。」
俺はサザァーエと名乗った海人族の中年女性と握手を交わす。
その手は大きく、かなりゴツゴツしていた。
「可愛くない手だろう?昔は漁師をやっていてね。土大陸に直接魚を売りつけにきている内にこっちに住むようになっちまってねえ。その時のお客さんの伝手でこうやって案内人をやらせてもらってるのさ。」
俺たちは順番にサザァーエさんに自己紹介をする。
「俺はアベル・リードだ。一応、このパーティーのリーダーだ。」
「あら、よく見ると男前だねえ。あたしがあと10歳若かったら放っておかないんだけどねえ。」
10年前でも結構な年齢じゃないかと思ったが、女性に年齢の話をしてはいけないというのが亡くなった祖母の教えなので黙っている。
「ノアです。よろしくお願いいたします。」
「こっちの男の子はかわいいねえ。あたしが20歳若かったら放っておかないんだけど。」
俺の時より10歳も増えてるぞ。
身長が低く、赤い癖っ毛と丸いメガネが幼く見せるがノアは俺より1歳年上なのに。
「ソフィア・コックスです。」
「リリ。よろしく。」
「お嬢ちゃんたちは2人とも可愛いわねえ。思わず食べちゃいたいくらいだわ!」
口の大きいサザァーエさんに本当に丸呑みされそうで2人はわずかに後ずさりする。
「ガルウじゃ。よろしく頼む。」
「あら、こっちもお兄さんも素敵じゃない。死んだ旦那にそっくりだわ。」
「旦那さん、亡くなっちょるんか?」
「随分、昔のことだけど、フグって魚の毒に中っちまってね。まあ、湿っぽい話はなしだよ!さあ、ナラーシャに向かって出発進行よ!」
用事が済んだ案内人ギルドを出る時に「世話になったの、ニイちゃん!」と若いギルド職員にガルウが声をかける。
ガルウから解放された安堵からか、彼は満面の笑みで俺たちを送り出してくれた。
エリューカの石造りの街並みを内陸へと進み、森へと入る。
森の中は馬車でも通れるほどのしっかりとした道が整備されている。
「この道は土大陸の主要な里と港町をつないでいるんだよ。もちろん、ナラーシャにもつながっているのだけど、広い森の中で一筆書きみたいに決められたルートを通るように整備されているから直接向かうよりは遠回りになっちまうのさ。」
そう言うとサザァーエさんは今まで歩いていた広い道から、人ひとりが通れるほどの狭い道へと入っていく。
「さあ、こっちだよ!」
先導するサザァーエさんは昔漁で使っていたという銛を手に持っている。
護身用ということだが、元漁師というだけあって似合っていた。
狭い道なので前に突き出せる武器というのは有効なのだろう。
後ろから魔獣が来た時のために、槍使いのリリに殿を頼む。
こういう狭い道だとソフィアが両手で振るうような大剣は不向きだ。
念のために俺がゾゾゾゾゾゾ王からもらったナイフを持たせている。
俺も剣と盾を構えて何かあればすぐに対応できるようにする。
「アンタたちはナラーシャで何をするつもりなんだい?」
「ワシの弟の嫁さんと甥っ子がナラーシャにおっての。弟に代わって会いに行くところなんじゃ。」
旅の目的をガルウが答える。
「アンタは獣人族だろ。じゃあ、義理の妹さんってのはアーリャ様のことかい。」
「知っちょるのか?」
「ナラーシャがエルフ族にとっては大きな里と言っても、他の種族の街なんかよりはずっと狭い世界だからね。住んでる人のことならだいたい知ってるよ。獣人族と結婚して、ハーフエルフを生んで戻ってきた話も、ねっ!」
しゃべりながらサザァーエさんは銛を木に向かって放つ。
刺さった銛は蛇型の魔獣の頭を見事に貫いていた。
「そのアーリャさんっていう人の家はナラーシャの中でも地位が高いのか?」
「アーリャ様のお父様がナラーシャのナンバー2、副里長だね。今の里長様が政治や外交にあまり関心がないお方でねえ。実質的には里長様をサポートしている副里長様がナラーシャを中心とする土大陸で最大の地域を動かしていると言っても過言ではないんだよ。」
アーリャのことを人族でいう貴族くらいのイメージでいたが、実際はかなりの家柄だったようだ。
聖大陸でいえば宰相くらいの位置になるんじゃないか。
聖大陸がひとつの国なのに対し、土大陸はいくつかの里が集まり複数の集合体を作っているという違いはあるが。
「そのような地位の方のお宅に急にお邪魔して大丈夫なのでしょうか?」
不安げにノアが言う。
「アーリャ様のお父様、ムリアーテ様は出来た人らしいから悪いようにはされないと思うよ。私も直接会ったことはないけど、ムリアーテ様の使用人とはやり取りをさせていただいたが、丁寧に接してくれて、感じがよかったよ。」
「それなら安心じゃのう。」
「そうは言ってもお前もある程度は礼儀正しくしろよ。」
俺はガルウに釘を刺す。
まあ、俺が勇者の父としてなるべくきちんとした態度を取るように心掛けるようになったのもごく最近のことなので偉そうなことは言いたくないのだが。
最近というか、火大陸でゾゾゾゾゾゾ王に謁見してからそう考えるようになったのだが。
案の定、ノア、ソフィア、リリから「お前が言うな」とツッコミが入ったのだった。
最後まで読んでいただきありがとうございました!
サザァーエさんの名前がひどいですが、本筋に絡むキャラではない(予定)なのでご容赦ください。




