娘、勧誘される
ユウシャ。
昨日、生まれた俺の娘がユウシャだそうだ。
「いや、ウチの娘は先ほどルナと名付けた。ユウシャという名前ではない。」
「うむ。では、そのルナ殿が勇者なのである。」
「ルナはルナであってユウシャではない。誰の遣いか知らんが、例え国王であろうと俺の娘に勝手に名前を付ける権利はないはずだが。」
なんだ、この男は。
いきなり家にやってきたと思ったら俺の娘を知らん名前で呼び始めたぞ。
俺の鉄拳でその性根を叩き直してやろうかと思ったが今日のところは勘弁してやろう。
今の俺は子供が生まれて気分がいい。
ルナと、お前のガタイとその肩書に感謝するんだな。
「ケビン殿。勇者というのはあの物語に出てくる魔王やらドラゴンやらを倒すアレのことでございますか?」
「そのとおりだ、トマス町長。ルナ殿が、昨日この町で生まれる子供が将来、魔王と戦う勇者になる者だと予言があったのだ。」
「予言ですか?」
「申し訳ないが、詳しいことは話せないのだがな。」
申し訳ないと言いつつも、その声色はこれ以上の詮索は許さないと伝えている。
「アベルよ、お前の娘のルナが勇者であることをケビン殿は王都から遥々伝えにきてくださったそうじゃ。」
アベル。
確認するまでもなくそれが俺の名だ。
「頼んだ覚えもないし、それを聞いたところで何も嬉しくないが」
ケビンとやらが俺の娘が勇者だと言っているのは最初から分かっている。
だからと言って「はいそうですか」と誰が受け入れられようか。
しかし、眉唾ものだが王都からこんな田舎まで来て嘘をついたところで誰にも得がない。
「で、ケビンさんは俺の娘、ルナが勇者だと伝えるためだけに来たのか?」
「いや、ここからが本題である。ルナ殿が7歳になる年、王立学校に入学させていただきたい。」
「王立学校だと?」
王立学校は王都にある王族や上流貴族の子女が通う学校だ。
将来、国を支えるエリートを育てるための学校で、基礎的な学問の他に帝王学や剣術なども教えている。
王国騎士団の半数もこの学校の出身で、もしかしたらケビンもその出身なのかもしれない。
「ルナ殿には特待生として王立学校に入学していただく。授業料や生活費も全て王国が面倒を見させていただこう。」
王立学校には特待生という制度があった。
王族や貴族以外でも優秀な人材を青田買いするための制度で、適用されれば授業料を免除される。
「王立学校に通えば、勇者として必要な知識や能力を学ぶことができるだろう。悪い話ではないと思うがいかがかな?」
お読みいただきありがとうございます。
もっと面白い物語が書けるよう日々精進いたします。