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女勇者の父、オアシスに着く

サンドワームを倒してからもオアシスに着くまでに何度か魔獣との戦闘があった。

しかし、巨大筋肉ミミズに出会ったのは先ほどの1回だけで、あとは事前にリリがサンドワームの接近を知らせてくれたり、いそうな場所を避けたりした。


(さっきのはやっぱりソフィアの剣の有意義性を示すためにわざとサンドワームを近づけたっぽいな。)


サンドワームは対峙してしまえば大きいだけでスピードがないのでさほど脅威ではない。

しかし、突然足元から飲み込まれる可能性があり、危険度は相当高い。

サンドワームに丸呑みされる危険性を限りなく小さくしてくれるリリの存在はこの砂漠ではありがたい。

そんなことを口にすれば「砂漠以外でも、感謝して」とか調子に乗りそうなので口が裂けても言わないが。


「リリがいると砂漠も安心して歩けるわね!」


「そんなこと、言われると、照れる。」


俺の予想から外れたやり取りがされているのは、相手がソフィアだからだろう。

日光を避けるために被ったフードの中で、リリはピンク色の髪の毛の下の顔を真っ赤にさせている。

以前、ププにお礼を言われた時にも感極まっていたし褒められ弱いのかもしれない。

これは弱点を見つけたかと思ったが、これを活用するためにはリリを褒めなくてはいけないので諸刃の剣だと気付く。

生意気な少女の弱点探しは他を当たることにしよう。


スパッ!


飛びかかってきたドラゴンリザードをゾゾゾゾゾゾ王からもらった剣で切り裂きながらそんなことを考えていた。




砂漠を歩くこと約4時間。(時計はないがリリが太陽の位置からそう判断した。)

ようやくオアシスに到着する。

タタの街から5キロメートルということだが、砂漠を魔獣に邪魔されながら歩くとだいぶ時間がかかった。

街道を普通に歩くのに比べると3倍以上の時間がかかったことになる。


「水の匂いがするわね!」


ソフィアが感慨深げに言う。

確かに砂漠の中を歩いてきたせいか、普段は意識することの少ない水の匂いを強く感じる。

直径10メートルほどの大きめの池のような水場を中心に背の低い草がまばらに生えている。

草が途切れた辺りには背の高い木が数本生え、その間に何軒かの家が建っている。


「草の匂いも強く感じますね。長い時間、砂漠にいたせいで普段は気にしないような香りまで意識してしまうのでしょうか。」


まだ日が高いが、オアシスに着いたということでフードから顔を出したノアが言う。


「さて、アサガオ屋を探すか。」


集落の詳しい地理は聞いていないが、狭い範囲に数軒の建物があるだけなのですぐに分かるだろう。

俺たちが集落の敷地に入ったあたりからこちらを見ていた住人に話をする。


「すまないが、アサガオの種を売っている人のことを教えてくれ。タタの街の薬屋のババに仕入れを頼まれたんだ。」


俺に話しかけられた住人はその言葉にピンときたようですぐに答えてくれる。


「あすこの家だあ。」


「ありがとう。」


後から聞いた話だが、砂漠に住む人たちは熱気が入らないように口をあまり開けずに話すので言葉に訛りがあるらしい。

そのため聞き取りにくかったが、単純なやり取りだったので困りはしなかった。


俺たちは教えてもらった家に向かう。

オアシスの集落の建物は、テテやタタのような土づくりではなく、砂漠に点在する岩場から運んできたのであろう石を重ねて作られていた。

テテなどの都市もそうだが、昼間は基本的に家の入口は開けっ放しのようだ。

扉のない入口に向かって声をかける。


「誰かいるか?タタの薬屋のババの遣いで来たのだが。」


「あいよぅ!」


すぐにドワーフ族のオッサンが出てくる。

身長はドワーフ族の成人男性の平均である130センチメートルほど。

家の中でくつろいでいたところだっただろう。

帽子を被っていないため禿げあがった頭が傾きかけた陽の光を浴びて輝いている。

口元には少なくなった頭髪の代わりとでもいうように、これでもかと髭をたくわえている。

今まで見てきたドワーフに比べると体つきがだらしない気がするのは、オアシスでは誰もが鍛冶を行っているという訳ではないからなのだろう。

他の都市では一般家庭からも聞こえてきた金属を叩くトンカチの甲高い音が、このオアシスでは全く鳴っていない。


(なるほど、ドワーフの都市部では雨後の筍のように鍛冶屋を見たが、それぞれの家庭で鍛冶の真似事をやっているからどこに需要があるのかと思っていたんだ。こういう集落の人たちが仕事を頼んでいるのかもしれないな。あとは観光客や火大陸で働く人族か。)


「薬屋のババぁん遣いってこだぁ、アサガオの種けぇ?」


「そうだ。話が早くて助かる。」


「毎年、雨季の後は都市部の連中は祭りで盛り上がっっちまっでよぉ。業者もなかなか取りにこねえんだわ。いつでも出荷できるように用意はしであっがらな。」


オッサンはアサガオの種がいっぱいに詰まった頭陀袋を持ってきてくれる。

提示された金額が薬屋から聞いていたものとほぼ同額だったので適正価格と判断し、言われたとおりに支払う。


「この集落には宿なんてないよな?」


「そっだらもんはねぇなぁ。」


「だよな。水辺にテントを張らしてもらってもいいか?」


「大丈夫だぁ。旅のモンはみんなそうやっでっからよぉ。」


オッサンがそう言ってくれたので俺たちは遠慮なくラクダから荷物を下ろし野宿の準備をする。

この集落ではアサガオ以外にも数種類の植物を育てており、タタの街に卸しているそうだ。

特に薬屋のババは得意先らしく、世話になっているからと集落の中央にある小さな湖で養殖しているという魚を分けてくれた。

俺は聖大陸のものとは少しずつ異なる植物たちについて集落の住人たちに質問したり、逆に聖大陸の植物について教えたりした。




次の日は暑さが本格的になる前にオアシスを離れ、タタの街を目指す。

気温が上がる前に移動できたこともあり、行きは4時間かかった道のりも帰りは3時間もかからなかった。

そして、ついに俺たちは酔い止めの薬を手に入れることができたのだった。


「これでいよいよ土大陸を目指せるぞ!」

最後まで読んでいただきありがとうございました!


思ったより火大陸編が長くなりましたが、いよいよ土大陸へと物語は進んでいきます。

しかし、土大陸編の終わりは見えているのですが始まりの方がまだ決まっていないという……。

でも、私は明日の自分を信じてます!

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