女勇者の父、ミミズと戦う
俺の足元から、体のすぐ脇を上に向かって通り抜けたのは火大陸の砂とほとんど同化したような赤茶色の見た目をした巨大なミミズ型の魔獣、サンドワームだった。
まだ体の大部分を砂の中に残しながらも、目に見えている部分の長さだけで5メートルはありそうだ。
太さも1メートルではきかない。
体の先端では口と思われる穴から触手のような無数のうねうねが俺を喰らえなかったことを悔しそうに蠢いている。
はっきり言って気持ち悪い。
サンドワームは砂の中に潜み、獲物が上を通った瞬間に顔を出して丸呑みする。
ドラゴンリザードの血の臭いにつられてやってきたが、抑えきれない食欲に負けて、ついつい目測を誤って顔を出してしまったというところか。
サンドワームを見つけるのが得意なリリがギリギリ直前とはいえ気付いてくれたのも助かった。
「ちっ!」
俺はサンドワームと距離を取るためにバックステップしながら、すぐ横にあった大木の幹のようなミミズ型の魔獣の胴体を斬りつける。
ジャイアントスコーピオンの硬い外骨格すらまるで紙のように切り裂いた刃がほとんど抵抗なくサンドワームの肉を通り抜ける。
刃が通ったところから赤い血が一瞬だけ滲むが、肉体を構成する高密度の筋肉の層が傷口を塞いでしまう。
この巨体が砂の中を潜り、進めるのは高密度の筋肉が層を作り、ミミズのような構造になっているおかげらしい。
いくら切れ味がよいといっても、片手剣の刃渡りではよほど密着しなければサンドワームに致命傷を与えられそうにない。
「ソフィア!こいつの息の根を止められるのはお前だけだ!」
最初に狙われた俺が、更に危害を加えたことでサンドワームの注意は完全にこちらに向いている。
俺は囮になるべく、そのまま筋肉ミミズの意識を自分に向けさせることにする。
「ほら、デカブツ!お前の餌はここだぞ!」
ダメージが低いことは分かっているが、剣で斬りつけて挑発する。
サンドワームは体こそ大きいが、スピードは大したことがない。
砂の中に完全に潜られてしまうとやっかいだが、姿さえ見えていれば人並みの運動神経を持っていれば逃げることは容易い。
挑発が効いたのか、サンドワームが触手だらけの口をこちらに向けて迫ってくる。
かわすのは簡単だが、そのまま砂の中に潜りこまれたら危険だ。
「ソフィア、今だ!」
「任せて!」
ズバァッ!
ソフィアの両手剣は全長150センチメートルほどある。
刃渡りだけなら120センチといったところだろう。
その刃がサンドワームの胴体にめり込むように侵入していく。
ブチブチと筋肉が千切れる音が聞こえてきそうだ。
「たあああああ!」
気合一閃。
砂に潜る前にサンドワームの体が2つに分かれる。
「風刃!」
詠唱の完了するタイミングを計っていたかのように砂の上に転がったサンドワームの体をノアの風魔法が切り刻んでいく。
真っ二つに分かれても暴れていたサンドワームの肉体が、風の刃で削られ、ついには活動を停止する。
「俺の剣にしかできないこともあるが、お前の剣にしかできないことだってたくさんあるさ。」
ゾゾゾゾゾゾ王からもらった剣がジャイアントスコーピオンをいとも簡単に切り裂くのを見て自信を喪失しかけていたソフィアに声をかける。
「うん、武器にも人にもそれぞれ得意なことかあるのよね!」
切り替えの早さというのは戦場では何より大切な能力のひとつだ。
王国騎士団の長を父に持つ戦のサラブレッドであるソフィアはいつものテンションに戻っている。
そういう意味ではサンドワームが近づいてきたのはよいタイミングだったとも言える。
「ブイ」
リリが俺にだけ見えるようにピースサインを送ってくる。
やけに簡単にサンドワームの接近を許したと思ったが、ここまで見越してのことだったのだろうか。
だとすればなかなかの策士である。
(最悪、俺がサンドワームに食われてもいいとか思ってないだろうな?)
俺の視線の意図に気付いたのかリリは再度ピースサインを送ってくる。
それはイエスかノーなのか。
とりあえず、砂漠ではリリに逆らわないでおこう。
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