女勇者の父、戸惑う
受け取るべきものを受け取ったのでそろそろ謁見の間から帰ろうと考えていると、ドワーフの王ゾゾゾゾゾゾが不思議なことを言う。
「それでは旅の無事を祈っておるぞ、4人とも。」
俺、ノア、ソフィア、俺。
4人か。
いや、それはおかしい。
しかし、何度数えても俺たちのパーティーは3人しかいない。
俺が混乱していると、思いがけない人物が王の言葉に応える。
「要望聞いていただき、感謝。」
第1王女ププの護衛であるリリだ。
「うむ。今までの働き、誠にご苦労だった。気心の知れた貴様がいなくなると娘も寂しいだろうが、意思は固いようだな。」
「はい。姫様……いってまいります。」
「いつになってもいいから、必ず帰ってきてほしいのね。」
薄っすら涙ぐんだププ王女がリリを抱きしめる。
最初は恐縮していたリリだが、別れが名残惜しいのかいつの間にかその腕でププの体を包み返していた。
「あのー、全く話が見えないんだが?」
本人たちにはとても感動的な場面なのかもしれないが、恐らく当事者にして何も聞かされていない俺は戸惑いの声を上げさせてもらう。
「リリ、アベルたちについていく。」
「そういうことなのね。」
「そういうことだ。」
リリ、ププ、ゾゾゾゾゾゾ王がさも当然とばかりに言う。
なんだか俺が間違っている気すらしてくるから不思議だ。
「いやいや、いつ決まったんだよ?ってか、誰が許可したんだよ?」
「決まったのは、トトに行く前。」
「許可したのは私だ。」
リリとゾゾゾゾゾゾ王が俺の質問に答えてくれるがそういうことじゃない。
「いつ俺とノアとソフィアが許可をしたんだ?」
「アベルたち、私がいっしょなの、嫌?」
上目遣いでリリが尋ねる。
「うーん、嫌って訳ではないんだが。」
「僕も反対って訳ではありませんよ。」
「私もリリちゃんと一緒に旅が出来るのはちょっと嬉しいかも。」
急に言われて戸惑っているだけで、リリを拒絶している訳ではないのだ。
そもそもこの火大陸でしばらく共に旅した仲だ。
悲しそうな顔で見つめられると無碍にはできない。
「では、許可が下りたようだな。」
俺たちが明確には拒否しないことを確認してゾゾゾゾゾゾ王とリリが親指を立てて頷く。
ふたりとも悪そうな笑顔をしている。
なんだか嵌められた気もするが、リリが来てくれるのは正直ありがたいところもある。
腕もそれなりに立つし(少なくとも俺よりは強そうだ)火大陸の地理に明るい。
これから土大陸に渡るために火大陸を縦断しなくてはならないのでリリがいるのは心強い。
同世代の女の子がいるのはソフィアにとってもいいことだろうし。
無理矢理に理由をこじつけ、俺は自分を納得させた。
「家族はいいのか?」
最後に、娘を持つ親として確認しておきたいことを聞く。
「家族、いない。」
「リリは赤ん坊の頃にこの宮殿の前に捨てられていたのね。それをお父様が拾って私専属の従者にしたのね。」
「ちょうどププが生まれた頃でな。どうせ1人育てるのも、2人育てるのも同じだろうと思ったのだ。まあ、私は育児にあまり参加しなかったから妻やメイドたちからだいぶ文句を言われたがな。」
ドワーフの国王は何が面白いのか「わはは」と豪快に笑い飛ばす。
「ププの友達にと思っていたが、試しに教えてみたら武術、特に槍術の筋がよくてな。あれよあれよという間に娘の護衛にまで成長しておった。それでも娘にとっては双子の姉妹みたいなものであろう。」
「そうなのね。だから、リリには家族はいないなんて言ってほしくないのね。家族ならここにいるのね!」
「ププ様!」
あまり表情を動かさないリリが、顔をくしゃくしゃにして跪く。
小さな嗚咽と鼻をすする音が聞こえる。
そんなリリのピンク色の髪の毛をププが優しく撫でる。
「先ほども言ったけど、必ず帰ってきてほしいのね。あなたの帰る家はここなのね。」
「はい!」
「ソフィアさん、リリを頼みますのね。」
「なんだか流れが納得できないところもありますが、ププ様の大切なご家族を謹んでお預かりいたしますわ。」
こうして、ドワーフの少女リリが俺たちのパーティーに加わったのだった。
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