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女勇者の父、新しい武器をもらう

ドワーフ王国のゾゾゾゾゾゾ王が俺の装備を用意してくれる間、俺たちは7月いっぱい続くという火大陸の祭りを楽しむことにした。


中央に広大な砂漠と岩山地帯が広がる火大陸では、大きな街は全て海岸沿いに作られている。

南の王都テテを中心に、西のスス(ここは聖剣の洞窟に行くときに立ち寄った街だ)、東のトト、北のタタの4つが特に栄えている。

王都テテから西のススまではトカゲの馬車で4日かかったが、トトまでは半分の2日で行けると聞いた俺たちはテテの街は観光しつくした感もあったので東の都を訪れていた。




「あっまーい!」


幸せそうな顔で頬いっぱいにトトの街で獲れたというメロンを詰め込んだソフィアが言った。

口の中がメロンでいっぱいなので実際には「ふぁっふぁー」としか聞こえないがたぶん「甘い」と言っているのだろう。

1ヶ月に渡る雨季が始まる前に収穫したメロンをカットして、魔法で冷凍保存していたものだそうだ。

雨が降らない期間には生活用水を確保するために活躍する人族の魔導士たちは、雨季になると雨季前に収穫した野菜や果物の冷凍保存の仕事をしているらしい。

聖大陸では7~8月がメロン生産の盛りだが、より温暖な気候を持つ火大陸では4~5月にメロンが収穫できるらしい。

まあ、収穫の時期が雨季と被らないように作付けているというのもあるのだろう。

冷凍保存されるメロンは完熟になる前に雨季を迎えてしまったものが多いらしいが、カットして種を取った上で冷凍保存すると甘みが増すようだ。


「まるでリスですね。」


メロンが詰め込まれ大きく膨れ上がったソフィアの頬っぺたを見て呆れたようにノアが笑う。

俺はそんなソフィアの姿に、遠く離れた娘を重ねていた。


「ウチの娘もメロンが好きでな。食べてる姿がソフィアにそっくりだ。」


「誰が6歳児よ!」


相変わらず「ふぁふぁふぁふぁふぁふぁふぁふぁふぁ」としか聞こえないが、言いたいだろうことは何となく伝わる。

トトの街へはパーティーの3人だけで来ているのでソフィアも羽を伸ばせているようだ。

王都テテでは第1王女であるププと常に一緒に行動させられていたからな。

もちろん、ププも悪い子ではないのだが、この国の王女様だ。

俺やノアのような庶民には逆に雲の上の存在すぎて実感はないが、聖大陸では上流貴族の娘であるソフィアにとっては一緒に行動するのはプレッシャーがあるのだろう。


「いえ、ププ王女やゾゾゾゾゾゾ王がいて緊張しないのはアベルだけですからね。」


この3ヵ月半の旅でノアはすっかり俺の考えを読むのが上手くなった。


「おいっしーい!」


先ほどまで俺を睨んでいたソフィアだが、メロンを頬張った瞬間には「ふぁあふぁあ」言いながらもう笑顔になっている。

ププが一緒だったら小さく切ったメロンの欠片をフォークでお上品に口に運んでいたことだろう。


「ああ、うまいな。ルナにも食べさせてやりたい。」


俺もメロンを1カット手に取り、かじりつく。

娘のルナはメロンが大好きだ。

2歳の頃にはメロンの味を覚え、食卓に並べば自分の分を一瞬で食べつくし「ルナちゃんのメロンなくなっちゃった」と悲しそうにつぶやくので、思わず俺の分も差し出してしまったものだ。


「我が家のリズはスイカ派ですね。」


ルナとリズは仲良くやっているだろうか。

パパ同士は考えていることが読まれてしまうくらいに仲良くなったぞ。


「メロン、美味しい。」


豪快にメロンを頬張るソフィアの横では、ピンク色の髪をおだんごにしたドワーフの少女リリが小さな口でメロンにかじりついていた。

トカゲの馬車の運転係として俺たちに同行してくれたのだ。

ププ王女専属の護衛と思っていたので最初は遠慮していたが、他にも護衛はいるからとププ自身が言ってくれたので結局、リリに一緒に来てもらった。

身長は120センチメートルほどなのでちょうど娘のルナと同じくらいだが、種族と年齢の違いで体型にはいくらか違いがあった。

メロンにがっついていない点を加味すると、この瞬間だけを切り取ればソフィアの方がルナに似ている気がする。


「そういえば、王立学校もそろそろ夏祭りの時期ね。」


ソフィアが言った。


「夏祭り?」


「そうよ。火大陸と風大陸では7月にお祭りをするの。それで、王立学校では異文化理解って名目でこの時期にお祭りをするのよ。」


「楽しそうですね。」


そうは言いつつも、ノアはピンときてないようだ。

もちろん、俺もイメージが湧いていない。

聖大陸に住む俺たちにとっては祭りといったら秋の収穫祭だからだ。


「各クラスで出し物をするのよ。飲食店やアトラクションもあるけど、小さい子たちのクラスは劇や合唱をするわね。」


「それは見たかったな。」


「はい、そうですね。」


「まあ、親も含め生徒以外は参加できないのよね。」


ソフィアの言葉を聞いて安心した。

もし、この旅のせいでルナの一世一代の晴れ舞台を見逃したとあっては後悔しかねないからな。




そんな感じでトトの街で3日間過ごした俺たちは2日かけてテテに戻り、リリと馬車を返しながら約束通り王に謁見するために王宮に向かった。


「待っておったぞ、アベル!」


すぐに謁見の間に通されると、何やら興奮気味のゾゾゾゾゾゾ王が待っていた。

ドワーフの国王が家臣たちに合図をすると剣と盾、鎧が運び込まれた。


「さあ、手に取るがよい。」


どうやら俺のために用意してくれると言っていた装備らしい。

遠慮なく剣を手に取る。

外見は俺が使っていた鉄の剣と同じように飾り気がなくシンプルで、実用性のみを追求したという感じだ。

鞘から抜くと白銀に輝く美しい刀身が姿を見せた。

どうやらミスリル製のようだが、その刃紋の形に見覚えがある。


「もしかして、この剣は王様が俺のために?」


刃紋が以前、ゾゾゾゾゾゾ王からもらったナイフと似ている。


「そうだ。久しぶりに本気で剣と向かい合ったぞ。どうやら少々気合が入りすぎたようだ。私の最高傑作といっても過言ではない出来でな、お主にやるのがもったいないくらいだ。さらに娘のププは将来、勇者殿に聖剣を作るというのに、私がお主ごときというのも納得いかんが、我慢してやろう。」


この部屋には俺が勇者の父ということを知らない者も多くいる。

ゾゾゾゾゾゾ王も気を遣って口にしないが、後半の話は勇者の父に剣を作ることになったことを面白がっているようにも感じる。

本当に納得してなかったら申し訳ないんだが。


ゾゾゾゾゾゾ王が作ってくれたのは剣だけで、盾と鎧はテテの街の職人が俺の元の装備を参考に作ったようだ。

鎧は皮のメインに胸など数カ所にミスリルのプレートが埋め込まれているようだ。

盾も鉄とミスリル製だったのがミスリルだけに変わっている。

ここ火大陸では鉄鉱石が取れず、性能の割に鉄が高値であるためほとんど流通していないためだろう。

見た目は大きく変わっていないが、素材がミスリルになっている分、耐久性が向上し、軽量化もされているはずだ。


「身に余るご配慮をいただき、心より感謝申し上げます。」


俺は片膝をついて頭を下げてドワーフの王に敬意と感謝を示す。


「よいよい、私も久方ぶりにいち職人として剣と対話ができて楽しかったわ。国や国民のことも忘れて不眠不休で剣を打っておったわ。わはは!」


「国王、今の発言はちょっと」


髭を生やしたドワーフがゾゾゾゾゾゾ王をたしなめる。

ちなみに、ドワーフの成人男性はほとんどが髭を生やしているので『髭を生やした』ではドワーフを識別するための特徴としては弱い。


「むろん、冗談だ!」


「分かっております。」


冗談ではないことは分かっております。

ゾゾゾゾゾゾ王を除いたこの場にいる全員がそう思ったのだった。

最後まで読んでいただきありがとうございました!


本日から当面の間、投稿時間を7時に変更してみます。

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