女勇者の父、敬語を使う
ドワーフ王国の首都テテに戻った俺たちはその足で王の待つ宮殿へと向かう。
王女であるププが同行しているのだからその住まいである宮殿に帰るのは当然のことなのだが。
宮殿に着くとすぐに謁見の間に通される。
俺とソフィアは聖剣が入った箱を持っていく。
城で働く使用人たちが持ってくれてもいいと思うんだが……ドワーフ族は背が低いけどみんな筋骨隆々でミスリル製のこの箱も軽く持ち上げてしまいそうだし。
謁見の間ではドワーフの王、ゾゾゾゾゾゾが待っていた。
ゾゾゾゾゾゾ王は使用人たちを下がらせ、謁見の間には王、ププ、リリ、そして俺たち3人だけとなる。
「よくぞ帰られた、ソフィア殿。第1王女ププの警護だけでなく聖剣まで持ち帰ってくれたと聞いておる。ごくろうだった。」
ゾゾゾゾゾゾ王がリーダーの俺でなく、人族の王国騎士団長ケビンの娘である青い髪の少女を労う。
まあ、この宮殿、謁見の間に相応しいのは俺よりも上流貴族階級で王立学校首席卒業、長身の美少女ソフィアであることは否めないが。
「もったいなきお言葉。至極、恐縮に存じます。」
(アベルはこんな風にちゃんと受け答えできないですから仕方ありませんよ)
ノアが視線で俺を宥める。
失礼な、俺だって敬語のひとつやふたつは使えるんだぞ。
三つ目は使えるか分からんが。
「お父様、将来の勇者様と賢者様はソフィアさんの従者であるアベルさんとノアさんのご息女ですのね。」
「なんと……」
ドワーフの国王はいささか驚いたという表情を作る。
ソフィアの従者という言葉は引っ掛かるが今日のところは置いておこう。
「先日ご面会いただいた際にはタイミングを逸し、申し上げるのが遅れてしまい誠にすみませんでした。改めて、ドワーフ族の勇者、いえ人族に対する友情に心より感謝を申し上げます。」
俺は片膝をつき、頭を下げてゾゾゾゾゾゾ王に名乗り遅れたことに対する謝意と、娘である勇者のために聖剣を作ってもらうことについての感謝の気持ちを表す。
まあ、ノアやソフィアたちに俺が敬語を使えるところを見せてやろうじゃないかというのも本音だが。
「ア、アベルが敬語を使った!?」
「アベル、あなた敬語が使えたのですね……。」
ソフィアとノアは俺が敬語を使ったのがそれほどショックだったのか上体を仰け反らせ、片足を半歩後退させている。
「ププ様、槍が降るかも。リリから、離れないで。」
リリも真剣な顔で上を向く。
宮殿の中だから槍が降っても大丈夫だし、そもそも槍なんて降らないし!
「あのな、俺は王都の商人の子供だぞ。敬語なんて小さい頃から聞き慣れてるし、それなりに使えるの。」
望まれなかった四男坊とはいえ、商家に生まれれば敬語やある程度の教養は自然と身につくものだ。
俺を追い出した実家への反発という訳でもないが、そこで身についた敬語を敢えて使ってこなかっただけだ。
今回は将来、娘がお世話になる国の王様が相手だから敬語を使おうと思ったのだ。
実家で蔑ろにされていた俺なのでちゃんとした教育は受けていないからこれが正しい敬語かは分からないが。
「アベル殿、ノア殿。」
ゾゾゾゾゾゾ王が俺とノアの名前を呼ぶ。
俺たちの名前も知ってはいたようだ。
「娘が勇者と賢者であることに対する複雑な気持ちは、娘を持つ親として痛いほど分かるつもりだ。我々、ドワーフ族として出来る限り協力はしよう。」
「「ありがとうございます!」」
俺とノアは可能な限り深く頭を下げる。
「それで、そなたたちはこの旅の果てに何を望む。」
「俺たちはまず勇者が何と、そしてなぜ戦うのかそれを知るために過去の勇者のことを調べようと考えています。」
実際は魔王と戦うというのは知っているが、これは公にしていない。
公にしてしまったら今は友好的な魔族とも不必要な軋轢を生むことになるだろう。
魔族にも穏健派が多く、その時が来たとして全てが魔王の配下になるかどうかも分からないのだ。
「そうか。ならば土大陸のエルフ族を訪ねるがよいだろう。あそこには世界樹がある。」
「世界樹……本当にあったのですね。」
ノアとソフィアが驚いたという顔をしている。
俺もよく分からないがそういう顔をした方がいいのだろうか。
「アベル、知らないなら説明しますから普通の顔をしてください。」
どうやら俺はよほど変な顔をしていたようだ。
ノアの話では、世界樹というのは土大陸にあるエルフ族のシンボル的存在らしい。その名は神話や伝説の中でエルフ族以外にも知られているが、他種族に対してエルフたちが存在そのものを隠しており、実在するかは議論が分かれるところなのだと。
「世界樹にはこの世界の『今』の情報がすべて集まり、葉の1枚1枚にこの瞬間に起こった出来事が書かれては更新され続けていると言われているわ。そして、『世界樹の神官』と呼ばれる者はすべての葉の中から必要な情報を瞬時に取り出し、求める者に望んだ知識を与えることができるそうよ。」
ソフィアが続ける。
「つまり、僕たちは世界樹の神官に勇者について聞けばよいのでしょうか?」
ノアがドワーフの国王に尋ねる。
「いや、ソフィア殿が言ったとおり、世界樹の葉に記されているのは今の出来事のみ。過去のことも未来のことも分からぬ。過去の勇者のことも、そなたたちの娘が将来何と戦うかも分かりはしないだろう。」
「では、僕たちは何を聞けば?」
「リュウジン……そう、リュウジンだ。」
「リュウジン?」
ノアもソフィアもその名前を知らないようだ。
俺はもちろん知らない。
「リュウジンとは龍人にして龍神。『神』が作りしこの世界の住人にして、この世界の最高位の存在である。この世界が誕生した時よりずっと『龍の庵』と呼ばれる場所に住み、これまでに起こったこの世界の全ての出来事を記憶していると言われておる。彼、もしくは彼女に会えばお前たちの知りたいことが分かるかもしれん。」
これは各大陸の王や首脳級の者だけに伝わる迷信じみた知識である上に、ドワーフ族の信仰する火山とその『神』は別物なのでゾゾゾゾゾゾ王も詳しくは分からないということだ。
「リュウジンがこの世界に実在するならば、世界樹で居場所を知ることが出来るはずだ。」
つまり、土大陸で世界樹に行く。
世界樹の神官からリュウジンの居場所を聞く。
リュウジンに会って勇者と魔王について尋ねる。
ということか。
俺たちは王に対し再度礼を述べ、宮殿を後にした。
石の巨人に叩き潰された俺の装備は忙しい合間を縫ってゾゾゾゾゾゾ王自ら準備してくれるらしい。
1週間後に取りに来るように言われた。
それまではまたテテの街の祭りを楽しむことにしよう。
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