表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
37/97

女勇者の父、盗賊に襲われる

テテの街に着く前日の夜。

ちょうど街と街の間隔が長い区間で、俺たちは野宿を余儀なくされる。

夜行性が多いトカゲ種だが馬車を引いている2匹は昼行性らしく、夜は睡眠が必要となるためだ。


火大陸は平地が多く、砂漠の中にいくつか岩山がある程度だ。

大陸の中央には大きな火山があり、ドワーフ族は火山そのものを神として崇めているそうだ。

聖大陸では俺たち庶民に広がるエリス教、王族や貴族のゼウス信仰といった多神教が主流なのに対し、ドワーフの火山信仰は広い意味での一神教と言えるだろう。

ちなみにエリス教はすべての神が同等に尊いとしているが、ゼウス信仰はゼウスという神を頂点に神にも序列を付けている。

そして、身分や職種によって庇護してくれる神が異なり、最高位であるゼウスの庇護を受けたのが国王を中心とする王族であり、したがって人々を統べる権利と義務があるとして王政を正当化させているのだ。

まあ、生まれてからずっと王政の下で育ってきた俺のようなボンクラ庶民にはそれが正しいとか間違っているとか考えることもないのだが。


基本的に平らな火大陸は、さらに海岸沿いに街道が作られているため見通しが非常によく、街の間を移動するに当たっては治安がいい。

それでも夜になるとたまに盗賊が出てくることがあるそうだ。

昼間の安全を保っている見通しの良さが、皮肉なことに夜間には盗賊が野営の灯りを見つける手助けをするのだ。




ということで俺たちのテントが盗賊の襲撃を受けた時、見張りをしていたのは俺とリリだった。

盗賊たちは野営の灯りを頼りに暗闇の中を進んできたが、遠くから聞こえる武器や防具の金属が立てる音をリリが見逃さなかった。

他種族に比べて体の小さいドワーフ族の彼女が王女の護衛をするに当たってそういった敵や危険を早期に発見する能力が重要なのだ。


「盗賊、3人」


音の数から判断した敵の数を、リリがいつものように最小限の言葉で教えてくれる。

相手が灯りを持っていれば盗賊かどうか判断に迷うところだが、暗がりを進んでくる以上は間違いないだろう。

俺がテントで休んでいるノアとソフィアを起こしている間に、リリは槍を手にして盗賊が来る方向を睨んでいた。

狭い洞窟では槍を持たずに投げナイフを武器としていたが、彼女の本来の得物は槍だそうだ。

リーチが短いドワーフ族が魔獣や他の種族と戦うことを想定した場合、槍が最適な武器になる。

そもそも近付かせないために投げナイフなどの技術も大切なんだそうだ。

そんな話を洞窟に行く前に聞いた時、弓矢は使わないのかと俺が尋ねると「弓矢、エルフのイメージ、強い。だから、イヤ。」とリリが答えた。

ドワーフ族とエルフ族は仲が悪いという物語はいくつも読んだことがあったが、どうやら本当らしい。


水弾ウォーターボール!」


近づいてくる盗賊の方向をリリに確認し、不意打ちで魔法を放つ。

相手に気付かれないために目立つ火弾ファイアーボールでなく水弾をノアは選択した。

殺傷能力が高い火弾を盗賊とはいえ人に向けるのは、人を殺めたことがないノアには抵抗があるというのもひとつの要因だろうが。


「ぶべっ!」


人の頭サイズの水のボールが盗賊の腹にぶつかったと思われる鈍い音と共に醜い悲鳴が聞こえる。

10キログラムの鉄の球が猛スピードで飛んできたのと衝撃的には変わらないはずだ。(ノア君、水弾も殺傷能力は十分高いと思うぞ。)

例え鎧を着ていたとしても不意打ちで喰らえばひとたまりもない。

これで1人無力化できた。


洞窟で石の巨人に装備を叩き潰され、まともな武器がない俺は全員の補助に回るしかない。

焚き火から何本かの木を松明代わりに取って盗賊の来る方向に投げ置く。

だいぶ近づいてきていた盗賊の姿が照らされる。

リリの予想通り盗賊は3人だったようで、背こそ低いが筋骨隆々といった強面のドワーフが2人そこにいた。


「ちっ!」


盗賊たちは自分たちの姿が照らされたことに気付くと舌打ちしながら一気に攻撃を開始した。

2人の盗賊は人族が使う片手剣ほどの長さの剣を両手で使っていた。

体のサイズに合わせた両手剣なのだろう、握りの部分はソフィアが使う大剣と同じくらいの長さがある。

向かってくる2人をソフィアとリリが牽制する。

得物の長さではこちら側に分がある。

そして、技術でも正式な訓練を受けているソフィアとリリに対し、盗賊ごときでは相手になるはずもなかった。

俺とノアは彼女たちのサポートをいつでもできるようにしておく。


「はっ!」


リリの槍が、鎧で守られていない盗賊の顔面を貫く。

さすがに王女の護衛だけあって強いし、短い戦闘の中でも戦い方が洗練されているのが見て取れた。


一方、ソフィアも盗賊を圧倒してはいたが決め手に欠けていた。

ノアと同様に人を殺めたことがない彼女は大剣を使いながらも斬るということが出来ず、剣の側面で殴り続けたが、聖大陸の盗賊や山賊と違い、鍛冶の盛んなドワーフの国では盗賊ですら一端の装備を調えているようで十分なダメージを与えられない。

盗賊もソフィアが人を殺せないということに気付いたのか小さな体をフル活用し、上手く衝撃を殺しながら隙を伺っていた。

ソフィアが焦りの表情を見せ始める。


「えいっ!」


思わずソフィアが大振りをしてしまったところを盗賊がバックステップでかわし、攻勢に移ろうとする。


土壁アースウォール!」


しかし、盗賊がバックステップで着地しようとした手前にノアが土の壁を出現させる。


「なに!?」


予想しないタイミングで土の壁に当たりバランスを崩した盗賊の喉元を素早く俺がナイフで切り裂く。

これで盗賊全員を無力化できた。

最初にノアが水弾で気絶させた盗賊もすでにリリがとどめを刺していた。

少女のような見た目に反して、盗賊を殺すことに躊躇はなさそうだ。

そうでもなければ王女の護衛などできないだろう。

平然とした様子のリリとは対照的にソフィアは死体を見て苦しそうな顔をしていた。

聖大陸でも何度か山賊と戦い、俺やその時に行動を共にしていた仲間が人を殺すところを見ていたが未だに慣れないらしい。

俺は彼女がそんなことに慣れる必要はないと思うので、ソフィアには殺さずに相手を無力化できるくらい強くなれとだけ言っている。




リリの話では盗賊の死体は砂漠に捨てておけば夜行性の魔獣が勝手に処分してくるとのことだった。

街道から大陸の内部に進めばすぐに砂漠だ。

へこんでいるソフィアと、ププの護衛があるリリを残し、俺とノアの2人で3つの死体を無理のない範囲でなるべく野営地から離れたところまで運び、捨ててくる。

ノアは青い顔をしていたが我慢してもらった。




戻ってくるといくらか元気を取り戻したソフィアと戦闘中はテントの中で待機していたププ、そしてリリが焚き火の前に座っていた。


「おつかれさまですのね。」


全員、目が冴えてしまったのでしばらく焚き火を囲んで話すことにする。

俺はノアと目配せをして死体を捨てに行きながら話したことを確認したあとで、ププとリリに俺たちが勇者と賢者の父であることを伝える。

娘のために聖剣を作ってくれるププやその護衛であり、共に行動してきたリリにこのまま話さないというのも不誠実だと思ったのだ。


「ずっと黙っていてすまなかったな。なかなか言うタイミングがなくて。」


「あら、そうだったのですのね。」


ププはさほど驚かなかった。


「ソフィアさんほどのお方があまりに品のない方々を連れているので何か訳ありとは思っていましたが、これで納得できましたのね。」


「ノア、このお姫様に何か言ってやってくれ。」


「僕はアベルに比べればまだ品があると思いますよ。」


「そうじゃない!」


そのやり取りを見てソフィアが大声で笑いだしたので、俺もそれ以上は文句を言わなかった。

最後まで読んでいただきありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ