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女勇者の父、聖剣を見つける

扉の先はこれまでの赤茶色の土の壁ではなく、大理石のように艶のある石材で作られた部屋だった。

光沢のある壁にランタンの赤い光がよく反射し、部屋の様子がぼんやりと浮かび上がる。


「中央に……箱があるな。」


おそらく聖剣が保管されている箱なのだろう。

思わず『棺のような箱』と言いそうになったのを飲み込んだ。


「細長くて棺みたいね。」


俺の努力も知らずにソフィアが聖剣の入れ物を死体入れ扱いする。

その棺の中に入っているものが俺の娘の聖剣を作るための死霊……もとい資料となるのだ。


「縁起でもないこと言うな!」


俺はソフィアの脳天にチョップをかます。

涙目で頭を押さえるソフィアを無視して、俺はその箱の前に立つ。

全長2メートル近くある大きなミスリル製の箱。

千年以上前の品であり、さすがに傷みにくいミスリルといえどもところどころ黒ずんでいる。

逆に言えば、千年放置されてもこの程度の腐食で済んでしまうのがミスリルのすごさだ。

おそらく先ほどの石の巨人を動かす仕掛けにもミスリル製の歯車やバネが使われているのだろう。


「さて、中身はどうかな?」


「ゴホン!」


俺が箱に手を付けようとしたところでわざとらしくリリが咳をする。


「あ、すまん。」


そうか。

俺はまだププやリリに自分が勇者の父と伝えていない。

だとすれば、この箱を開けるべきは聖剣を作り、勇者に授ける役目を担っているドワーフの時期王女ププだ。

そもそも俺が勇者の父としてもここで箱を開けるのはププの方が相応しい気がするな。


「ププ、頼む。」


「はい、ですのね。」


俺と入れ替わりでププが箱の前に立つ。


「開けますのね。」


ププが箱の上蓋を持ち上げる。


「こ、これは……」


中から出てきたのはソフィアの持っているような両手剣だった。

箱の大きさから予測は出来たが。

刃の幅が20センチ、全長は180センチあろうかという大剣である。

当時の勇者は怪力だったのか。

ちなみにソフィアは闘気法という体内の魔力により身体能力を強化しているため両手剣も軽々持てるらしいが、その闘気法をノアが確立したのが10年前なので当時の勇者は習得していなかっただろう。


「……両手剣ですね。」


遠慮がちにノアが言う。


「……両手剣ね。」


気まずそうにソフィアも言う。


「……両手剣だ。」


そして、奥歯に物が挟まったように俺も言う。


「ボロボロの、両手剣。」


リリが率直に言う。


「ボロボロの両手剣ですね。」


遠慮なくノアが言う。


「ボロボロの両手剣ね。」


はっきりとした口調でソフィアも言う。


「ボロボロの両手剣だ。」


そして、俺も歯に衣着せずに言う。


箱の中に収められていた聖剣は錆びでボロボロだった。

ランタンの灯りに照らされていることを差し引いても全体が茶色く染まり、ところどころ小さな穴が空いていた。

可愛い娘勇者にこんな切ない聖剣の姿を見せずに済んだことを俺は安堵した。


「どうやら聖剣はオリハルコンで出来ているようですのね。」


「オリハルコン?」


ププの口から聞きなれない金属の名前が出てきたのでアホみたいにオウム返しする。


「ええ、オリハルコンはミスリルよりずっと硬い超希少金属ですのね。ただし、扱いが難しく、手入れを怠ればすぐに錆びてしまいますのね。」


「そうか。ボロボロの剣だが材料だけでも分かってよかったな。」


「いいえ、それだけではありませんのね。ここを見てくださいのね。」


ププに促され、剣身の中央を見てみると錆びの中に薄っすらと文字が見て取れる。


「古代ドワーフ語の祈りの言葉ですのね。おまじないのようなものかもしれませんが、聖剣を作る上で必要なのかもしれませんのね。」


剣身に文字を掘るだけで神秘な力が付与されるなどとは考えられないが、やはり雰囲気というのも大事なのだろう。

ププも満足げな顔をしているし、収穫は十二分にあったということだ。


「では、帰りましょうのね。」


見るべきものは見たということだろう。

ププの言葉で俺たちは撤収を始める。


「あら、ちょっと待つのですのね。アベルさん、この聖剣を箱ごと持ち帰っていただきたいのですのね。」


「え?」


「オリハルコンは超希少な素材ですのね。どれだけお金や時間を費やしても手に入れることが叶うかは分かりませんのね。ですので、この聖剣を次の勇者のための素材にしますのね。」


オリハルコンというのは簡単に購入したり、発掘したりできる種類の金属ではないようだ。

であれば、これが貴重な過去の聖剣とはいえ、ププの判断は正しいのだろう。

幸いなことにこの聖剣は大きい。

作り直すにも十分な量の素材となるだろう。


かと言ってひとりで持てるものでもないのでソフィアに手伝ってもらって持つことにする。

ミスリル製の箱は鉄よりは比重が小さいとはいえ、体積があるのでそれなりに重い。

しかし、この中に愛する娘を守る聖剣の素材が入っていると思えば屁でもないのだ。

ソフィアは闘気法で身体能力を上げられるから大丈夫。

俺の可愛い娘のために頑張ってくれ。


潰れてしまった俺の装備も一応、持ち帰る。

これはノアに運んでもらうことにした。

あんなところに鉄製品を置きっぱなしにしたら石の巨人が次に目覚めた時に困るだろうからな。




洞窟の入口では馬車とトカゲたちが来た時と同じ様子で待っていた。

このトカゲは大人しいというより怠け者で、馬車を引く時以外はほとんど動かないそうだ。

そのおかげでこうやって馬車を降りて用事を済ます間の留守番も安心して任せられるらしい。

リリがトカゲたちに餌をやっている間に、俺とソフィアは馬車の荷台に聖剣が入ったミスリル製の箱を乗せる。

わずかに荷台の方が大きかったため、辛うじて乗せることができた。


「では、帰りますのね!」


ププの号令で2匹のトカゲが引く馬車はテテの街に向かって走り出した。




途中、来た時と同じようにビビ砂漠を根城にする魔獣に何度か襲われたが返り討ちにした。

俺は石の巨人に潰された鉄の棒で必死に戦った。

唯一無事だった武器であるドワーフの国王からもらったナイフは間合いが狭く、ジャイアントスコーピオンのような尻尾に毒をもつ魔獣と戦うには不向きだったからだ。




無事、テテの街に着いたのは洞窟を出て4日後だった。

最後まで読んでいただきありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] ボロボ…歴史ある聖剣回収!! オリハルコンが錆びるという展開、物体にまで大切に話を積み重ねられていると感じました。
2020/06/29 20:42 退会済み
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