女勇者の父、聖剣を見つけたい
魔王を倒した勇者は人族の国に帰る前にドワーフの国に立ち寄りました。
聖なる剣を返すためです。
勇者はドワーフの王様に聖剣を貸してもらったことに対するお礼を言いました。
ドワーフの王様も勇者に「魔王を倒してくれてありがとう」と言いました。
ふたりはドワーフ族と人族が永遠に友達であることを確認しました。
ドワーフの王様は人族との友情の証として聖なる剣を大切に保管しました。
そして、人族が困ったときはまたこの剣を貸してあげることにしました。
(ダダダ・シシ著 ドワーフの伝説第7巻『勇者と聖剣』より)
高貴な女性の着替えとはこうも時間のかかるものなのだろうか。
朝早くに別々の部屋に案内されたソフィアと再会できたのはパーティーが始まる昼前のことだった。
ソフィアは青い髪をアップにし、恐ろしく高級そうな髪飾りとイヤリングをしている。
ドレスも髪に合わせたのか淡いブルーで、首元や腕にもアクセサリーが輝いている。
薄く化粧された(じっさいは薄く見えるようにものすごく丁寧にじっくり化粧されたらしい)その顔は普段、一緒に旅をしている剣士とは別人のようだった。
会場に集まり始めた来賓たちからもソフィアに視線が集まっているように感じる。
「どうかしら?」
不安げな表情でソフィアが俺に尋ねる。
「ちょっと力こぶを作ってみろ。」
言われるがままに腕を曲げるソフィア。
「うん、この筋肉はソフィアだな。間違いない。ふごぉっ!」
思いっきりボディーブローを喰らう。
魔力を肉体の強化に使う闘気法をマスターしたソフィアの全力のパンチだ。
あまりの速さにソフィアに注目していた来賓たちですら誰一人見えていないだろう。
俺も喰らって初めて気付いたくらいだ。
「とても似合っていますよ。童話の中からプリンセスが飛び出してきたのかと思いました。」
ノアがフォローし、ソフィアが嬉しそうに「ありがとう」と言う。
「俺もとってもきれいだと思います、はい。」
だから俺の足をハイヒールで踏むのはやめてください。
パーティーが始まった。
ドワーフの国王、ゾゾゾゾゾゾ・デ・ペペ(ドワーフの王だけは名前が6文字だそうだ)が開会と乾杯の挨拶をし、その友人何人かがスピーチをする。
俺たちはそれを聞いているふりをしながら料理を食べる。
きらびやかな黄色いドレスに着替えたププも最初は王女として来賓たちに挨拶をして回っていたようだが、途中でソフィアを迎えに来て一緒に行動し始めた。
「ソフィア、ププと一緒に挨拶回りしてるぞ。このままじゃ火大陸中のお偉いさんと知り合いになるんじゃないか?」
「見てください、国王様にも紹介されてますよ。」
だが、聖大陸の王国騎士団長の娘という肩書きを考えればそこまでおかしいことでもないのかもしれない。
だからこそ、ドワーフ族の王女であるププの紹介とはいえ、招待客たちも誠意をもって接しているのだろう。
「まあ、俺たちの出番はなさそうだ。」
「そうですね。隅の方で料理を楽しみましょう。」
結局、パーティーが終わるまでソフィアは開放してもらえなかった。
「つーかーれーたー!」
パーティーが終わり、宿に戻ってくるとソフィアが俺たちの部屋に来て不満をぶつけてくる。
「まあまあ、人脈を広げられてよかったじゃないですか。」
「俺たちだって本当はご来賓の皆様にご挨拶したかったんだぜ。でも、俺たちなんかじゃ相手にされないから、仕方なく諦めたって訳だ。」
「言ったわね。あんたたちの娘が将来、勇者と賢者として活躍して祝賀パーティーを開いた時は覚悟しなさいよ。その場にいる来賓、偉い順に全員紹介してやるんだからね。食事なんて1秒もさせないんだから。」
「「あはははは……」」
笑えないぞ。
「そういえば、火大陸にも勇者と賢者の話が広まっているみたいね。パーティーでも話題になってたわよ。」
「おお、そうか。それで、誰か聖剣について知っていそうな人物はいたか?」
「ううん。聖剣の管理は王族がやっていて本当に国の中枢にいるごく一部の人しか保管場所を知らないみたい。」
「王族か……。」
第1王女のププなら知っているのだろうか。
俺はオレンジ色の髪の少女のことを思い出していた。
俺たちがこの火大陸で目的としているのが聖剣探しだ。
勇者が魔王と戦う物語は数多くあるが、ほとんどの作品で勇者はドワーフからもらった聖剣の不思議な力で魔王を倒す。
その後、勇者は聖大陸に帰る途中で火大陸のドワーフ族に聖剣を返す描写がある。
史実が物語のとおりならば、過去に魔王と戦った勇者が残した聖剣がこの火大陸のどこかにあるはずなのだ。
パパはルナがきちんと調べれば聖剣の場所が分かるのか、行くまでに危険がないか下調べをするんだ!
最後まで読んでいただきありがとうございました!




