女勇者の父、デコ馬車に乗る
翌朝、ププに指定された時間に宿の外に出るため出入口のドアを開ける。
「……」
思わず無言でドアを閉める。
俺はまだ夢を見ているのだろうか。
「私、まだ夢を見ていたみたい。」
「奇遇ですね。僕もです。」
ソフィアとノアも同じ夢を見ていたようだ。
「念のためもう一度確認しよう。」
俺は再びドアノブを押してみる。
「夢ではありませんのね。」
「うわっ!」
開いた扉の隙間からププが飛び出してきた。
今日は帽子を被っておらず、肩の上で切り揃えられたオレンジ色の髪が朝日に照らされて黄金色に輝いている。
濃紺の簡易なドレスの肩からは、ドワーフ族の特徴か、王女とは思えないほど引き締まった腕が見える。
その先の手首と指にはドワーフの王女らしく高級感を漂わせたアクセサリーがこれでもかと付けられている。
なるほど、あの腕の筋肉がなければ装飾品の重さに耐えられないのかもしれない。
「ドアが開いてソフィアさんのお顔が見えたと思ったらまた閉まってしまったので馬車から降りて呼びにきたのですのね。」
そう、俺たちが先ほど無言でドアを閉めたのはププを見てではない。
その時は宿の前にププはいなかったのだから。
ププが降りてきたと言ったこの馬車が原因だ。
ドワーフ族の装飾技術の全てをここに集めたと言わんばかりの豪華な馬車は朝日を反射して眩い光を放っていた。
まるでドワーフ族が作る装飾品の見本市のようなその馬車は思い思いに飾られているせいで統一感がなかった。
「す、すごい馬車ですわね。」
ソフィアがいかに王立学校首席卒業の才女でも、もはやその馬車には「すごい」以外の言葉が出ない。
「デコレーション馬車、略してデコ馬車と呼ばれていますのね。」
ププの装飾品にしても、馬車にしても何人もの貴族や商人からの献上品なのだろう。
そのせいで統一感がない。
そうかと言って取捨選択してしまうと角が立つ。
王女様も辛いのだ……たぶん。
本人の趣味だったらすまんな。
「これに乗るのか?」
「そうですのね。お嫌ならソフィアさんだけでもよいのですのね。」
思わず「どうぞどうぞ」と言いたくなるがソフィアの目が冷たいので「喜んでご一緒させていただきます」と愛想笑いで応える。
王族、しかもドワーフ族の馬車だけあって見た目に反して乗り心地は最高だった。
サスペンションという技術で揺れや衝撃を和らげているそうだ。
聖大陸で乗った馬車とは比べるのも申し訳ないくらい素晴らしい。
デコ馬車の乗り心地に感動していると、いつの間にか街の中央に見えた宮殿の近くまで来ていた。
街の建物や壁が赤色の土でできているのに対し、宮殿は白い石で造られている。
中央の大きな建物とそれを囲むように建っている4つの棟のてっぺんには金色の大きな玉ねぎのようなものが乗っている。
「聡明なソフィアさんならお気付きと思いますが、ワタクシはこの国の第1王女ですのね。」
間もなく始まるであろう祭りへの最終チェックに勤しむ街を抜けてデコ馬車が宮殿に入っていく。
ここまで来ればププも自分がこの国の王女であることを隠しようがないと思ったのだろう。
「ええ。プププププ王女におかれましては、私のような者に多大なご配慮を賜り光栄の至りでございます。」
ソフィアは鎧の胸に手を当てながら小さく頭を下げ、馬車の中で出来る範囲で最大限の感謝を表す。
「昨日も申し上げましたが、ワタクシとソフィアさんは友達ですのね。あまり堅苦しいのはなしですのね。」
「ありがとうございます。」
ソフィアが俺たちには見せない貴族スマイルで返す。
「それから、ワタクシのことは昨日までと同じようにププとよんいただきたいのですのね。」
「分かりました、ププ様。」
宮殿の敷地に入り馬車が停止する。
馬車の扉側に座っていたププの従者が最初に降りる。
ドワーフの少女で身長はププと同じくらいで120センチといったところか。
ピンク色の髪でタヌキの耳のように2つおだんごを作っている。
よく見るといくつものキズのあとがあるので護衛なのかもしれない。
俺たちが馬車から出ると、最後にププがその少女に手を添えられながら降りてくる。
ドワーフの王女は手を差し出した少女に声をかける。
「ありがとう、リリ。」
「もったいなきお言葉!」
リリと呼ばれたピンク色の髪の少女が畏まる。
逆にププはとても親しみを込めた目でリリを見ている。
「さて、ソフィアさん!朝早くにここに来ていただいたのはお祭りをより楽しんでほしいからですのね!」
ププが目を輝やかせてソフィアの手を引き宮殿の中に消えていく。
「あなたたちはこっち」
リリが俺たちを別の部屋へと案内する。
案内された部屋には着替えが用意されていた。
タキシードだ。
「今日はパーティー。あなたたちも出る。」
意味が分からなかったのでリリに詳しく聞いてみると、今日は祭りの一環として宮殿内でもパーティーがあるらしい。
それに俺たちも出席してよいとのことだ。
「ソフィア様、姫の友達。あなたたち、ソフィア様の従者。出席するの当然。」
「ノア、俺たちって従者らしいぞ。」
「身に余る光栄で涙が出そうです。」
とはいえ、ただで美味いものが食べられるならと喜んでタキシードに袖を通す。
ドワーフ族ようだったらどうしようと思ったが、ちゃんと人族用だった。
客人用にいくつか大きいサイズを用意してあるらしい。
「アベルが着てるタキシード。昔、人族の王も着たもの。」
それこそ身に余る光栄だった。
ルナ、パパは今、王様と同じ服を着ているぞ。
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