女勇者の父、ププを知る
本日より試験的に午前中10時を投稿時間とさせていただきます。
よろしくお願いします。
プププププ・ラ・ペペ。
俺たちというかソフィアに声をかけてきたドワーフの少女(?)。
彼女の名前の『ラ・ペペ』というのはドワーフの国の第1王女という意味らしい。
言われてみれば思い当たる節がいくつかあった。
まず、コックスというソフィアのファミリーネームで王国騎士団長のケビンをすぐに連想できたこと。
次に、街の事情にあまりに詳しすぎること。
最後に髪、いや顔を隠すように麦わら帽子を被り、祭りの準備の場に近づかないようにしていたこと。
他国の騎士団長レベルの名前も記憶しており、街のことにも異常に詳しく、目立たないように行動している点である程度の地位にいる者だと予想は出来ていた。
だからこそ確認のために料理長に彼女の名前について尋ねたのだ。
それでも、料理長から帰ってきた答えが想像以上の肩書きだったので驚いた。
「今はプププププ第1王女がラ・ペペを名乗られておいでです。」
間違いないようだ。
「ちなみに、名前の長さもその人の身分によって決まっております。市民は3文字、貴族は4文字、王族が5文字です。」
「じゃあ、あんたは貴族なのか?」
料理長の名前は『ロロロロ・ピ・ピピ』だったはずだ。
「いえ、私は料理の腕が認められ上級市民として貴族と同じように4文字の名前を名乗ることを許されたのです。元々はロロロ・ピピという名前でした。」
貴族の皆様にもご愛顧いただいておりまして、そういうレストランの料理長が市民では貴族の格に関わるということで上級市民にしていただいたのかもしれませんね、とロロロロは続けた。
「変わるたびに周知するのも面倒なので我々市民は名前を2文字に省略して呼び合いますが、貴族など格式を大切になさる方は4文字にこだわりますね。」
「なるほど。引き留めてすまなかったな。」
「こちらこそ長話にお付き合いさせてしまい申し訳ございませんでした。引き続きお食事をお楽しみください。」
頭を深く下げると料理長は厨房へ戻っていった。
「まさか、王女様だったとは驚きですね。」
ノアが言い、俺も同意する。
もちろん、ソフィアも……
「私は知ってたわよ」
「「えっ!?」」
思い出せば、確かにププに対してのソフィアの態度は常に貴族としての、それも上位の者に対する時のものだった。
いや、貴族の上下関係における接し方の違うとかしらないけど、そんな俺から見てもやけに丁寧だなという印象だった。
「私だって王都ではそれなりの貴族だもの。他国の王族の名前くらいある程度は把握してるわよ。むしろ、ププ様がお父様のことを知っていて驚いたわ。」
黙っていたのは確証を得られなかったからだそうだ。
まあ、街中でいきなり友達になりましょうなんて声をかけてきた人物をすんなり王女として受け入れろという方が難しいだろう。
それでもソフィアが聞いていた人物像に近かったこともあり、念のため本物の王女と接するつもりで振る舞っていたらしい。
「ソフィアをケビンの娘と知っていて近づいてきたのでしょうか?」
「どうかしら。私がコックスを名乗った時は驚いていたように見えたから。」
「本人が言ってたように同世代の人族の女の子が珍しくて友達になりたかっただけなのかもな。」
「私もそう思う。」
身なりを見ればソフィアは高級そうな装備だし、顔からは貴族としての品位が漂っているのである程度の身分の者と判断できる。
そこまでププ王女が見ていたかは分からないが、ソフィアに危険を感じず純粋に友達になりたかっただけなのかもしれない。
「そういえば、ププって何歳なんだ?他種族は成長や寿命が俺たちと違うから見た目では判断できないって聞いたが。」
「ドワーフの寿命は私たちと変わらないし、成長速度も同じみたいよ。ププ様は今年で15歳のはずだから、私の方が1つ年上ね。」
ソフィアの話では寿命と成長速度が違うのはエルフ族と魔族だけらしい。
両種族とも寿命は人族のおよそ10倍で、中には1000歳近くまで生きる者もいると言われている。
エルフは成人するくらいまでは人族と同じように成長するが、その後は死ぬまで若いままだそうだ。
魔族は肉体の成長も人族の10倍かかり、人族が15歳で一人前と呼ばれるのに対し、魔族は150歳で1人前らしい。
「ドワーフは女性も髭を生やしているなんて物語もありますが、そんなことはないようですね。」
ふと思い出したようにノアが言う。
「あれは種族間で交流が始まった頃に、ただでさえ背の低いドワーフ族の女性の職人や商人が他種族にナメられないように男装していたことが間違って伝わったらしいわ。」
その知識量に感心するが、そういえばソフィアって王立学校を首席で卒業してるくらいの才女なんだよな。
ウチのルナは王立学校で勉強についていけているだろうか。
遠く離れた娘のことが心配になりつつも、話をププに戻す。
「明日も来るって言ってたよな。」
「お祭りを案内してくれるって言ってたわね。」
「王女様自らですか……。」
ププは悪い子ではないし、これが市民の子供なら全く問題ないのだが、相手が王女様となれば恐縮というより申し訳ないが有難迷惑ですらある。
確かにソフィアは上流貴族だ。
ドワーフの国の第1王女であるププとパイプができるのは悪い話ではない。
だが、今の彼女は冒険者でもあるのだ。
もっと気楽に街を散策したいという気持ちもあるだろう。
「そもそもププ様はソフィアにしか興味がないみたいで、基本的に僕たちの存在を忘れていましたしね。」
「ソフィアを生贄にして、俺たちは自由に楽しむってのも手だよな。」
「そんなことは絶対に許さないわよ。」
にこやかにソフィアが俺の提案を却下する。
もちろん、その額には今にも千切れんばかりに張り詰めた血管が何本も浮き上がっている。
俺はわざとらしく大きなため息をひとつ吐き出してから言い直す。
「明日もみんなでププ王女のお祭りガイドを楽しもう。」
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