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女勇者の父、孤児院に行く

アルバインで初めて勇者についての噂を耳にしたのは俺がこの街について7日後のことだった。

その時、街の様子を確認しに行っていたのは俺とソフィアのコンビだった。

パン屋で会計をしている時にパンを袋に詰めながら店員のおばちゃんに「王都で将来の勇者様が修行中なんですってよ。あんたたちも勇者みたいに立派な子供を作りなさいよ!」と声をかけられた。

夫婦と思われているところをわざわざ否定するのも面倒くさいので「まあ、がんばりますね」などと適当に返したら店を出たところでソフィアに怒られた。




それから1日経った今日は街の至る所で勇者と賢者の噂を聞くことが出来る。

ただし、勇者の噂については「魔王と戦う」というところは隠して広められている。

聖大陸にも魔族が多く生活しており、今回の件は別とすればトラブルも起きておらず、まだ魔王が擁立されてもいないようなので混乱を避けるための配慮だ。

なんといっても噂の出所が俺なのだ。

これくらいはコントロールできる。

まあ、考えたのはケビン王国騎士団長殿なのだが。


「そろそろ次の行動に移っても問題ないな。」


俺とノアと奴隷の子供の内の1人が宿泊している部屋にいつものようにメンバー全員が集まっている。

噂が十分に広まったので、この子供たちを狙っていた魔族も自分が間違った情報に踊らされていたことにすでに気付いているだろう。

2人の奴隷の子供たちが勇者と間違えられて危険にさらされることはもうないだろう。


「はい、孤児院に連れていきましょう。」


役人の男が応えると、その場にいた全員が頷く。

昨日、噂がアルバインまで届き始めたことを確認した時点で役人と護衛の男が孤児院に事情を説明に行っていた。

俺とノアが勇者と賢者の父親だとバレると今度は俺たちの身が危ないのでそこだけは伏せてもらっているが。

孤児院の院長は奴隷の子供たちを囮にした王宮にひどく憤っていたが、子供たちを受け入れることは約束してくれたそうだ。




ホテルを出て、役人と護衛、御者と奴隷の子供2人という当初のメンバーに俺が加わり6人で孤児院に向かって歩き出す。

ノア、ソフィア、サミュエルの3人は少し離れたところで念のため周囲を伺いながらついてくる。

結局、警戒する必要もなかったようですぐに孤児院まで辿り着いた。


孤児院の院長という優しそうな中年女性にまだ思考力を低下させる薬が効いた状態の子供たちを預ける。

もう少し場所に馴染んでから薬の効果を消す薬を飲ませた方がいいそうだ。

最後まで元気な姿を見ることが出来なかったのが心残りではある。


「アベルさん、ノアさん、ソフィアさん、そしてサミュエル様。ここまで力を貸していただきありがとうございました。」


役人の男が俺たちに頭を下げる。


「私とボブは孤児院を手伝いながら、この街で次の仕事を探そうと思います。」


役人の隣で御者の男が頷く。

ボブというのが御者の名前らしい。


「昨日、アーサーに頼んで孤児院にお願いしてもらっていたのです。」


役人の方はアーサーという名前のようだ。


「そうか。それならこれはお前たちとその子供たち、そしてこの孤児院のために使ってくれ。」


俺は彼らを襲っていた山賊を退治した時にギルドで得た賞金と武器を換金した金を全て役人、アーサーの手に渡した。

馬を借りる時とホテルの宿泊費に少し使ったが、ほとんど手つかずのままだ。

俺から硬貨の入った袋を受け取ったアーサーと隣のボブは涙を浮かべながら何度も感謝を述べた。

落ち着いたらギルドに行って、アーサーに無事に護衛の依頼を済ませた証明をしてもらうという護衛の男を残し、俺たちのパーティー3人とサミュエルは孤児院をあとにした。


「では、私も王都に戻るとしましょう。短い間だったが諸君らと共に行動できて楽しかったです。」


サミュエルともすぐに別れ、久しぶりに俺たち『守護者達ガーディアンズ』だけとなった。

そういえば、このパーティーそんな名前だったな。


「まあ、でも子供たちを守って『守護者達ガーディアンズ』っぽかったんじゃない?」


ソフィアが楽しそうに言う。


「そうですね。リズとルナちゃんのことを考えると少し心配が残りますが、無関係の子供たちを危険にさらさずに済んだことは良かったと思います。」


ノアも満足げだ。

そんな2人の顔を見ながら咳ばらいをひとつして俺は言う。


「お前たちにパーティーのリーダーとして次の行動を指示する。」


ノアとソフィアが顔を見合わせる。


「アーサーたちが来る前にギルドに行って、稼げそうな依頼を受けるぞ!さっきので全財産を渡しちまって金がない!アーサーたちにそんなところ見られたらカッコ悪いからな!」


ギルドの方向に全力でダッシュする俺。

ノアとソフィアがその後ろを笑いながらついてくる。




こうして、ようやく俺たちの本当の冒険が始まったのだった。

最後まで読んでいただきありがとうございました!


明日の10時にノアが主役の番外編(とは言ってもこの話の続きです)を投稿します。


23時に通常の投稿も行えればと。

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