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女勇者の父、アルバインに着く

王都を出発して2日後の午後、俺はアルバインに到着する。

すでに午前中には他のメンバーが乗った馬車もこの街に着いているはずだ。

木を隠すなら森の中、ではないがこの大陸でも王都に次ぐ2番目に大きな都市であるアルバインなら身を隠す場所にも困らないだろう。

無事にどこかで身を潜めているはずだ。


俺は事前の約束どおりギルドへと向かう。

先行していたメンバーたちとはお互いに落ち着いたらギルドで落ち合う手筈になっている。

何の問題もなければノアが迎えにきてくれるはずだ。


アルバインの街には様々な種族がいる。

俺たち人族ひとぞくの王が住む王都では人族史上主義とまではいかないが、それでも他の種族にとっては住みにくいのか、エルフやドワーフ、獣人族や海人族はほとんど見られない。

しかし、アルバインは大陸の西の玄関口、サウスポートが近いためか、特にドワーフの姿が多い。

ドワーフが多く住む火大陸へはサウスポートから定期船が多数出ている。

ドワーフ以外にも、エルフ、魔族、獣人族、海人族と全ての種族を目にすることができる。


将来的には魔王が誕生し、我々人族と戦争になると予言されている魔族だが、今は普通に交易がある。

だから、奴隷の子供たちを狙った魔族がいるかもしれないからといって片っ端から捕まえるような真似はできない。

俺たちのように予言の内容を知っていた内でもごく一部の過激派が行動を起こしたにすぎないのだ。


ドワーフは背が低く、体ががっしりしている。

手先が器用で、ゴツゴツした手で装飾品や家具を作って生計を立ててる者が多い。

繰り返しになるが、この聖大陸の北西にある火大陸出身の者が多い。


エルフは耳が長く、男女ともスタイルがよく顔も整っている。

人族の10倍は長生きするが、人生の大部分を青年の姿で過ごす。

そのため、他種族の友人が老いて死にゆくのを若い姿のまま見送るエルフの悲しみを描いた物語が数多く存在している。

ドワーフの住む火大陸のさらに北に位置する土大陸にエルフたちの王国がある。


獣人族は人族と同じ耳の他に猫や犬のような耳が頭の上の方に付いていて、尻尾もある。

人族よりも平均身長が高く、基本的な身体能力も高いと言われている。

一方で、不器用で、細かい作業が苦手という面もある。

聖大陸の北東にある風大陸が獣人の国で、聖大陸の東にある俺の家がある町でも獣人は多く見られる。


海人族は耳のところにエラのような突起がある。

また一部の海人族は水の中では泳ぎやすい形態に変身する者もいるらしいが、もちろん陸上では見ることができない。

風大陸の北、海の中に沈む大地とそれを中心としたいくつもの島々からなる水大陸に海人族の多くが住んでいる。


魔族は日焼けしている訳でもないのに肌が暗く、髪の中にヤギのような2本の角が生えている。

本来は角の大きさは魔力に比例しているらしいが、そういう者ほど普段は特殊な魔法をかけて角を小さくしているという。

まあ、長い角が頭に生えていたら生活するのに邪魔だろうしな。

ドアに角をぶつけたり。

魔族は土大陸の北東、水大陸の北西にある魔大陸にいくつかの国家を作って暮らしている。

一部に魔族至上主義のような過激な思想を持つ国家もあるらしく、今回の騒動はそういった輩の仕業らしいとケビンが言っていた。


おのぼりさんよろしく街並みをキョロキョロと眺めながら歩いていると目的のギルドに辿り着く。

王都のギルドよりも大きい。

住人の数でいえは王都の方が多いが、先程の理由で人族以外も含めて旅人や観光客のような交流人口の数ではアルバインの方が上だ。

ギルドの利用者もこちらの方が多いのだろう。


ギルドの造りは相変わらずで、入って右が受付、左が飲食スペースだ。

俺は受付をスルーして飲食スペースにノアの姿を探す。

先に俺に気付いた、赤髪で眼鏡をかけた男が俺に向かって小さく手を上げていた。


「待たせたか?」


ギルドの飲食スペースには似合わない、上品なティーカップが1つだけ乗ったテーブルにいるノアに声をかける。


「いえいえ、予定よりだいぶ早いんじゃないですか?」


俺だけ王都に戻るためにパーティーを離れた時に、王都でやるべきことをこなし、成果を確認でき次第追いかけると約束していた。

早ければパーティーメンバーたちがアルバインに到着する今日の午後には追いつけるので、それ以降は定期的にノアがギルドで待っていてくれることになっていた。

ソフィアも交代でギルドにきてくれると言ったが、彼女のような少女がひとりでギルドに居座っているとトラブルに巻き込まれそうなので遠慮してもらった。


「食事はもう済みましたか?」


「いや、まだだ。さっき着いたばかりでね。ここで食べて行っても構わないか?」


「もちろん。」


俺は昼食を済ましてから他のメンバーと合流することにさせてもらった。




遅めの昼食を取り終わると、ノアたちが現在隠れ家にしているホテルに向かった。

隠れ家といっても、俺と別れて以降は馬車を変えたこともあり襲撃には遭っておらず、落ち着いているとのことだ。

念のため俺たちパーティー3人と、奴隷の子供2人、サミュエル、役人、護衛、御者の9人が3組に分かれて隣り合った部屋に泊まれるよう大きめのホテルを取ったようだ。

俺が到着しなければノアと護衛と子供、ソフィアとサミュエルと子供、役人と御者という部屋割りの予定だったが、ノアの部屋に俺が、代わりに護衛の男が役人たちの部屋に入ることになるそうだ。

役人たちとは孤児院に子供たちを連れて行くのは勇者と賢者が王都にいるという噂がこのアルバインの街にも広まってからと話している。

そうしないと孤児院が狙われたり、そのせいで奴隷の子供たちが居づらくなったりする恐れがあるからだ。

また、孤児院に入れるまで思考力を下げる薬の効果は消さないようにしている。

薬が効いている間は記憶が曖昧になるらしく、万が一に孤児院に行くまでに襲われてもトラウマにならずに済むようにという判断だ。




街並みに比べ新しめなレンガ造りの大きなホテルに着くと、全員がノアが部屋に集まっていた。

この部屋だけ他の2部屋に比べて間取りが大きいらしいがさすがに9人入ると窮屈に感じる。


たった3日離れていただけだが、皆が俺のことを労い、歓迎してくれる。


「王都の方は全て作戦通りだ。間もなくこの街にも勇者と賢者の噂が広がるはずだ。」


俺は実家であるリード家での父親との会話や、その後のリード商会の動きについて説明した。

『勇者印の材木』や『賢者も選んだ屋根瓦』の話には一同苦笑していたが、噂の広まる速さには感心していたようだ。


「それで、学校の方は大丈夫なの?」


ソフィアが俺とノアの娘、つまり本物の勇者と賢者のことを心配して尋ねる。


「ああ、そこはケビンが王国騎士団で警備してくれると約束してくれたからな。それに、魔族も王都では目立った動きはまだ仕掛けてこないだろうと言っていた。旅立つ前に聞いたとおり、魔王の方の準備が出来ていないらしいからあちらも本格的に戦争になるのは避けたいらしい。それに魔族も一枚岩でなく穏健派もかなり多いそうだ。」


「それでは私もこの件が片付いたら急いで王都に戻っておふたりのお子さんの警護に当たらせていただきたいと思います。」


王国騎士団長ケビンの補佐であるサミュエルが言う。


「ああ、あんたにも世話になる。娘たちを頼む。」


「お願いします。」


俺とノアがサミュエルに頭を下げる。




それからは交代で街の様子を見に出かけた。

勇者と賢者の卵が王立学校で修行中という噂がアルバインの街に届いたのは俺が着いてから1週間後だった。


最後まで読んでいただきありがとうございました!

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