女勇者の父、ふりだしにもどる
今後のことを話し合うため、元々昼休憩をする予定だった次の町までは進むことにした。
サミュエルには襲われていた方の馬車に乗ってもらい、次の町に着くまでにノアとソフィアとパーティーとしての意見をまとめる。
「自分たちの娘の安全のために、他の子供が犠牲になるなんて絶対に認められません!」
先ほど、サミュエルに向かって言った言葉をノアがもう一度口にする。
ソフィアも「当然よね」とばかりに首肯する。
「俺も同じ意見だ。ノア、あの奴隷の子供たちを殺させないため、同じように危険な目に遭う子供を出さないために俺たちの子供が勇者と賢者だと公表する覚悟はあるか?」
「……もちろんです。」
正直を言えば、俺は積極的にはなれない。
ノアだってそうだと思う。
他の子供が自分の子供の代わりに危険な目に遭わないように、狙うべきは自分の子供だと宣言するのだ。
だけど、俺の子供のために他の子供が死にますと言われて見て見ぬふりをするなら、俺は娘に胸を張って会えなくなってしまうだろう。
俺は、自分が考えた作戦とも呼べないような思い付きを2人に説明した。
2人もそれに同意してくれた。
町に着くと、まずギルドで山賊のボスの頭と武器を換金する。
数が多く、部下には大した賞金首もいなさそうだったので今回はボスの頭だけを持ってきた。
ボスを仕留めたのはサミュエルだが、冒険者ではないし目立ちたくもないとのことで手柄を譲ってくれた。
ボスの賞金が20万G。
15人分の武器が200万G。
いきなり金持ちになってしまったな。
「町までの街道に生き残りの山賊を木に縛っておいた。8人いる。」
「では、あとで衛兵に連絡しておきます。」
その後、サミュエルと待ち合わせ場所とした食堂に行く。
奥の大きなテーブルにサミュエル、役人、護衛、役人たちを乗せた馬車の御者、そして奴隷の子供2人が揃っている。
俺たち3人も空いている椅子に腰を下ろす。
まずは役人に知っている情報を確認する。
「私は上司から『この子供たちは保護された奴隷で、子供たちの故郷であるアルバインの孤児院に届けるように』と言われただけなのです。」
本当に何も知らないようだ。
アルバインの孤児院に無事に届けられれば役人として仕事を続けることは可能だろうが、国はそれを望んでいない。
途中で山賊や盗賊、もしくは魔族そのものの襲撃により子供たち殺されれば、最低限、役人としての立場は確保されるかもしれないが、もはや出世は見込めないだろう。
本人に向かっては言えないが、国としては彼が山賊に殺されることすら想定しているのかもしれない。
そんな俺の考えを読んでか、役人が言葉を続ける。
「私も孤児院の出身なのです。我々のような弱い立場の者が平和に、豊かに、幸せに暮らせる国を作る手伝いをしたくて役人を志しました。必死に勉強し、なんとか役人にはなれました。しかし、私の願いは虚しく、今の国は子供の命に優先順位を付け、勇者や賢者のためなら奴隷の子供は死んでもいいという考えです。私はこの子たちの屍の上に立ってまで役人の仕事を続けたいとは思いません。そもそも、国も私に生き残ってほしくないのかもしれませんね。」
役人は力なく笑う。
その後で、覚悟を決めたように真剣な顔で俺たちとサミュエルに向かって言った。
「私は役人の仕事に戻る気はありません。だからといってこの子たちを守る力もありません。ですから、この子たちを死なせないために皆さんの力を借りたいのです。」
「俺にひとつ案がある。」
薬で思考力を失っている子供2人以外の全員の視線が俺に集まる。
俺は馬車の中でノアとソフィアに話した内容をもう一度説明する。
その案に反対する者はいなかった。
ただ、話題の勇者と賢者の父が俺とノアと知り、サミュエルたちは驚いていたが。
俺はパーティーを離れ、町で馬を借り、来た道を引き返す。
目的地は王都だ。
馬車では半日の道のりだが、馬を走らせれば昼過ぎに出ても夕方には着く。
他のメンバーはアルバインの孤児院を目指す。
役人の話では子供たちを届ける予定だった孤児院はきちんとしたところらしく、ここに預けても悪いようにはされないだろうとのことだった。
護衛の男もギルドで依頼を受けている以上、アルバインまで送り届けたという事実がなければ任務失敗となる。
役人も御者も王都には居づらくなるだろうということでひとまずアルバインまで行き、その後はどこかで仕事を探すつもりらしい。
狙ってくださいと言わんばかりの豪華な馬車は町の近くの森の中に隠したが、またどこで襲われるか分からないのでサミュエルとノアとソフィアも一緒に行かせる。
王都に着いた俺はそのままケビンの屋敷に向かう。
出発してたった1日で旅のスタート地点に戻ってきたことになる。
ケビンは騎士団長としての仕事で城に行っているとのことだったが、ケビンからコックス家の紋章入りのメダルをもらっており、客人扱いの俺は前回と同じ部屋に通してもらえる。
夜になり帰ってきたケビンにこの2日間のことを説明し、俺の考えを話す。
ケビンも最大限の協力を約束してくれた。
王国騎士団長の助力は不可欠だった。
翌朝。
俺はよく知った場所に9年ぶりにきていた。
その場所はリード商会社長であるハリー・リードの家、もしくは俺の実家ともいう。
婿入り先の候補がないからと生まれた時から蔑ろにされ、15歳で勘当も同然に追い出された家である。
「ハリー・リードの4男、アベル・リードがケビン・コックスの客人として来たと父か兄に伝えよ。」
上流貴族であるコックス家にも引けを取らない大きな門の内側で庭木の世話をしていた使用人にコックス家のメダルを見せて言う。
家の中に入った使用人と入れ替わるように慌てて飛んできた執事が俺を応接室へと案内する。
応接室の様子は最後に入った9年前と大きく変わらない。
この家の持ち主は内装や調度品を更新するよりも、金を貯めるのが好きなのだ。
勝手にソファに座って待っていると間もなくハリー・リードがやって来た。
商売人らしく一歩家を出れば営業スマイルが貼りついて決して剥がれないその顔も、今は明らかな怒気と侮蔑が浮かんでいる。
「何の用だ。金の無心か?貴様などに渡す金はないぞ。」
「自分が欲しいものを相手も欲しいと思うのは止めた方がよろしいですよ。今の私は王国騎士団長であるコックス家の客人の身分です。何も不自由していません。」
金色に輝くメダルを見せる。
彼にも本物だと伝わったようだ。
このメダルがある以上、勘当した息子であっても追い出すことはできないだろう。
「あなたに報告があります。私は8年前に結婚して、今は娘もいます。」
「そうか、おめでとう。祝いの金でも差し上げればお帰りいただけるかな?」
「いえいえ、お金などいりません。ただ、お祝いをいただけるならもう一度、私を、私たち家族をリード家の一員として認めていただけませんか?」
それを聞くとハリー・リードの怒気と侮蔑が半々だった表情は完全に俺を軽蔑するものに変わった。
「ふん、貴様のような役立たずをリード商会に迎え入れたところで私に何の得があるというのだ?」
本来、家族というのは役に立つとか得をするとかで成り立っているものではないのだが、この男がそれを弁えていればそもそも俺はこの家を出ていないだろう。
「父上……」
今まで、父とは呼ばないようにしていたが、ここで初めてその言葉を口にした。
予想通り、ハリー・リードが心底不愉快だという表情を作る。
俺は気にせず続ける。
「俺の娘、つまりあなたの孫は勇者です。」
俺は父に娘が生まれてからのことを説明した。
最終的にはそのおかげでこうしてコックス家の客人として扱われていると言ったことで父も納得したようだ。
そして、孫が勇者だと分かると手のひらを返したように態度が一変した。
「いやあ、私も実は昔から兄弟の中でお前のことを一番目にかけていたのだ。しかし、可愛い子には旅をさせろというからな。15歳になったお前に広い世界を見てほしくて、泣く泣く家から出したのだ。知見を広げ立派な人物になってくれると信じてはいたが、まさか勇者の父として帰ってきてくれるとは私も鼻が高い。ジークのようなすねかじりの役立たずはこの家から追い出して、今日からアベル、お前がリード商会副社長で跡取りだ!わーはっはっは!」
クズもここまで徹底されていればむしろ清々しい。
こういう男だからこそ利用できる。
「いえいえ、俺がお願いしたいのは娘が困ったときに後ろ盾になっていただきたいということなのです。将来の勇者ルナはリード商会の庇護下にあると父上から各方面に宣伝していただきたいのです。また、娘と共に魔王と戦うという賢者、エリザベスという少女も同様に扱ってもらえませんでしょうか。」
「うむうむ、よかろう!任せるのだ!」
こうして俺の名はリード家の末席に復帰した。
そして、その日の午後には建築資材を扱うリード商会から「勇者印の材木」とか「賢者も選んだ屋根瓦」といった謎の新商品が大々的に売り出された。
また、王立学校に通うルナという生徒は将来の勇者でリード商会の孫娘であり、エリザベスという賢者の卵と共に修行中であるという噂が王都中で囁かれる。
妹が情報発信力のある貴族に嫁いでいたというのも利いたのか、すでに王都の外にも噂が広がっているようだ。
しばらくすれば例の奴隷の子供たちが魔族に狙われることもなくなるだろう。
さらに夜が明け、噂が十分に広がったのを確認した俺は仲間に合流するため再び王都を発つべくケビンに挨拶する。
「アベルの狙いどおりの展開となったな。あとは我々王国騎士団に任せるのだ。」
「ああ、元からそのつもりだ。ルナとリズを頼む。」
これで奴隷の子供たちに向けられていた魔族の矛先はルナとリズを狙うことになるはずだ。
王国騎士団長であるケビンが、王立学校周辺、いや構内を含めての警備を約束してくれた。
元々、山賊を差し向けるくらいで目立った行動を魔族はしてこなかった。
当分は大人しくしているだろうというのがケビンの見立てだった。
また、ケビンは俺とノアの妻たちの保護も約束してくれた。
人質になどされたらたまったものではないからだ。
娘が生まれてすぐに町の衛兵が増え、その宿舎が俺たちの家の近くにできるなど十分に守ってもらっていたが、娘が寮に入った後も妻のために警護してくれるそうだ。
俺はケビンに礼を言って、先に進んでいる仲間たちの元へと急ぐのだった。
最後まで読んでいただきありがとうございます!




