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女勇者の父、裏事情を知る

山賊のボスは頭を射抜いた矢によって絶命した。

俺たちは矢が飛んできた方向、つまり自分たちが乗ってきた馬車を見る。

馬車の前で、俺たちと一緒に乗ってきた唯一の客がクロスボウを持って立っていた。




まだ息のある山賊たちを縛り上げ、死体となった山賊たちを火葬する準備をする。

掘った穴に7つの死体を並べ、ノアに火弾ファイアーボールで燃やしてもらう。

さすがの威力で皮の鎧もろともあっさりと焼き尽くす。


「すごい火力だな。」


襲われていた馬車の護衛がノアの魔法を見て呟く。

山賊の数が多く、処理に手間取ることが予想されたため今日は手伝ってもらった。


「さて、何から確認するか……。」


確認することが少なくとも3つある。


1つは襲われていた馬車の件。

2日連続で同じ馬車が山賊に襲われる。

山賊はそんな頻繁に現れるほど労働意欲が旺盛ではない。

貴族の馬車が狙われやすいからといって、街道で出会う機会などそれほど多くはないはずだ。

この馬車が2度も山賊に襲われたのは偶然なのか。


2つ目は1つ目と被っている点も多いが、山賊のボスが死ぬ前に口走った言葉。

「話が違うじゃねえか」と奴は言った。

事前に何らかの情報を得ていたと考えられる。

つまり、誰かに唆されてこの馬車を襲ったのか?


3つ目はクロスボウで山賊のボスを射抜いた乗客の正体。

俺たちが乗ってきた馬車から山賊のボスの位置まで50メートルくらいある。

風は吹いていないとは言ってもこの距離で人の頭を正確に射抜く技術は普通じゃない。

敵ではないと思いたいが何者なのか?




俺は燃え残った山賊の骨を埋葬しながら、隣で同じように死体に土をかけている護衛の男に声をかける。


「なあ、あんたが護衛している馬車が狙われるような理由に心当たりはあるか?」


「まさか。あったらこんな目立つ馬車の護衛を1人で引き受けたりはしないさ。」


話を聞くと、この男は王都のギルドでアルバインまでの護衛を頼まれただけで、馬車の所有者の従者ではないそうだ。


「馬車の中には誰が乗っているんだ?」


「アルバインに住んでいるっていう貴族の男と、子供が2人だ。貴族の方も違和感があるが、子供たちの方はもっと様子がおかしい。虚ろな目をしたまま何もしゃべらないし、促されるまで全く身動きしない。」


おかしいという子供たちの様子だが、思い当たる節はあった。


「子供たちは奴隷か?」


「ああ、そうだろうな。買われた奴隷は逃げられないように薬で思考能力を奪われた状態で輸送される。」


仕えるべき家に辿り着き、逃げられない状態になったところで再度薬によって思考能力を戻される。

それは俺も、この護衛の男も常識として知っていることである。


「じゃあ、何がおかしいんだ?」


「服装だな。普通、買われた奴隷が輸送される時は買われた時のままボロを纏っているか、引き取り先の使用人の制服を着せられる。しかし、馬車に中にいる奴隷はわざわざ市民の子供の服を着せられているのだ。」


確かに、貴族が奴隷を運搬する時に着せる服は護衛の言うような2通り、もしくは貴族の子供が着るような見栄えのよい服を着せることもある。

わざわざ市民の子供のような恰好をさせる必要はない。


しかし、護衛の男と話していてもそれ以上のことは分からなかった。

なので2つ目の疑問を調べる。


「おい、そこの割と元気な山賊」


ノアの水弾ウォーターボールを喰らって気絶していた内の1人に声をかける。


「な、なんでしょうか!?」


「お前たちはなぜこの馬車を襲った?誰かに唆されたのか?」


「俺たちは親分に言われたとおりに行動しているだけでして。あ、でも親分が誰かに頼まれたっぽくて、俺たちにも新しい武器をくれたみたいなんです。ほら、あれを見てください!」


胴体と一緒に腕も縄でグルグル巻きにされているため、山賊は顎を使って自分たちの武器を差す。

そこにあったのは昨日の山賊が持っていたものに似た斧や剣、盾だった。

他の山賊にも聞いてみたがどれも同じような答えで、それ以上の情報は得られなかった。


「直接、馬車の中の貴族に聞いてみるか。」


これ以上、足を突っ込むのもためらわれたが乗りかかった船というやつだ。

毒を食らわば皿まで、ともいう。


御者に馬車の扉を開けてもらう。

中には昨日見た男と、護衛の話どおり虚ろな目をした子供が2人乗っていた。

子供たちの年齢は2人ともルナやリズと同じくらいだろうか。

昨日、窓から貴族の男しか見えなかったのは窓枠よりも子供たちの背が低かったためだろう。

普通の子供なら立ち膝で窓の外を眺めていてもおかしくなかったが、先ほどの話のとおり子供たちはぴくりとも動かない。

これが奴隷の思考能力を奪う薬の効果か。


子供のことは置いておいて、俺は青い顔で震えている貴族の男に尋ねる。


「なあ、あんた。誰かに襲われる心当たりはないか?」


「い、いや、私は……この奴隷たちをアルバインに運ぶように命じられただけで。こんなことになるなんて……。」


「命じられた?誰に?」


「それは私が説明しましょう。」


その声の主は、先ほどクロスボウで山賊のボスの頭を打ち抜いた、あの乗客だった。




「アベル様、ノア様、そしてケビン様のご息女であられるソフィア様ですね。私は王国騎士団の団長補佐のサミュエルと申します。団長であるケビン様の命を受け、皆様と行動を共にしておりました。」


謎の乗客の正体は、王国騎士団の団長ケビンを補佐する人物だった。


「この者は王国の下っ端役人で、事情を何も知りません。ここから先の話は私から説明させていただきますが、くれぐれもご内密に願いたく、よろしいでしょうか。」


俺たち3人は頷く。


「今からおよそ6年前、ここから遥かに東の田舎町で魔王と戦う勇者となる運命を背負いし赤子が誕生しました。また、時をほぼ同じくして勇者と共に戦う、将来の賢者も南の港町に生まれました。この2人の赤子の誕生については城の予言師が神の啓示を受けており、誕生した翌日には国の遣いがその存在を確認しております。」


その勇者と賢者の父親がここにいることを騎士団長補佐のサミュエルは知らないらしい。


「勇者と賢者が生まれたことは王国でもごく一部の限られた者にしか知らされておりませんでした。万が一、魔王を擁立し、戦争を企てようなどと考えている魔族に知られれば命を狙われかねないからです。」


確かに、俺やノアと逆のことを考える魔族がいてもおかしくはない。


「しかし、王宮の中に魔族と通じている者がいたのです。すでにその者は内々に処分されましたが、時すでに遅し。勇者誕生の情報は魔族側に渡っておりました。幸いなことに誰が勇者と賢者までかは知られておらず、平民の家に誕生したということだけ知られていたようでした。そこで宰相ルイス様は、奴隷の子供を勇者と賢者に仕立てて、アルバインに移動するという噂を流し、魔族の手によって始末させることで敵を欺こうとしたのです。」


つまり、昨日と今日の山賊たちは魔族の差し金ということなのだろう。


「そんなことは許されません!」


ノアが珍しく大きな声を上げる。


「勇者や賢者のために他の子供が囮に……犠牲になるなんて絶対に許されません!」


「お父様もそれを許可なされたのですか?」


ソフィアがいつになく真剣な目でサミュエルに問う。


「いえ、反対をなされたのですが、国政についての発言権は宰相であるルイス様の方が上。聞き入れていただくことは叶わず。そこで、ケビン様は子供たちを守るため、騎士団でも比較的自由に動ける私を遣わしました。私は子供たちが乗る馬車の御者に指示し、私たちの馬車に合わせて移動する時間やスピードを調整させました。また、襲われた時にソフィア様たちが行動を起こさなければ、私が山賊を討伐するつもりでした。」


それを聞いてソフィアは少しだけ安心した表情をする。


「そして、ソフィア様たちが子供たちを助けようとした時は正直に事情を話し、協力を取り付けるようケビン様より仰せつかっておりました。」


「昨日、アクションを起こさなかったのは、俺たちが馬車の中の子供に気付いていなかったからか。」


「それもありますが、失礼ながら話したところでお三方が本当に頼れるか疑問だったこともあります。しかし、今日の山賊との戦いを見て実力も間違いないと思い、ご協力をいただきたくお声をかけさせていただいた次第でございます。」

最後まで読んでいただきありがとうございました!

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