女勇者の父、ギルドに行く
まず、王都のギルドで俺とソフィアの冒険者登録を行うことにした。
ギルドは鍛冶屋の近くにある。
新しい装備に身を包んだ俺を先頭に3人で歩く。
ちなみに、ノアは皮の鎧の上にローブを羽織り、手には魔術師の必須アイテムである杖を持っている。
杖には魔法石と呼ばれる、魔力を魔法に変換するのをサポートしてくれる石がついている。
魔法石には色々な種類があるが、ノアの杖についているものは彼の髪の毛に合わせたのか真っ赤で大きい。
しかし、目立たぬように魔法石が付いている杖の先端には布を被せている。
魔法石の価値は色と値段で決まるらしい。
赤い魔法石の価値は分からないが拳2つ分くらいあるノアの魔法石はかなり高価なものだろう。
ソフィアも目立たぬようフード付きのマントを着させている。
なんと言ってもケビン王国騎士団長の娘だ。
顔を出して歩けばすぐに騒ぎになってしまうだろう。
「そういえば、ノアは普段はどこのギルドで活動しているんだ?」
「僕は家がサウスポートなので、そこのギルドですね。港町なので津波対策に土魔法で壁を作ったり、塩や干物を作るのを魔法で手伝ったりしています。王都のギルドからは毎年、闘気術の教科書の印税が振り込まれるくらいで、顔を出すことはありません。」
「じゃあ、ソフィアの顔さえ隠せばギルドで騒ぎになることはなさそうだな。」
ソフィアにフードを深くかぶって顔を見せないように指示してギルドの中に入る。
彼女自身も自分が注目されやすいことを理解しているのだろう、文句も言わずにそうする。
ギルドの建物は大きい。
扉から入って左側には普通の酒場1軒分の飲食スペースがある。
冒険者同士の情報交換や依頼から帰ってきた時の休憩場所として使用される。
今も昼食にはだいぶ早いが何人もの冒険者が酒を飲んだり、話し込んだりしている。
見知らぬ3人組が入ってきたため、値踏みするようにこちらを見ている者も少なくない。
入って右側はギルドの受付だ。
広さは酒場の半分程度。
カウンターの受付嬢に冒険者登録の申請をする。
「それでは、こちらの用紙にご記入をお願いします。」
3人分の用紙を出されたので登録する人数は2人だと伝え、1枚は返す。
俺とソフィアは必要事項を記載した用紙を受付嬢に渡す。
先に俺の用紙をテキパキと処理する。
次にソフィアの用紙を登録しようとするが、一瞬だけ動きが止まる。
しかし、すぐに作業を再開する。
ソフィアには偽名を使わせることも考えたが「悪いことをするんじゃないんだから偽名は使わない」と言う彼女の意思を尊重し、本名を書かせた。
王国騎士団長の娘が冒険者登録に来たことに気付きつつも、他の冒険者と同じように接する受付嬢の職人魂に敬意を表したい。
「手続きが完了いたしました。3名様で行動されるならパーティー登録はされますか?」
俺とソフィアはEランク冒険者カードを受け取る。
このままだと俺とソフィアはEランク依頼か誰でも受けられるFランク依頼しか受けられない。
しかし、Aランク魔術師のノアとパーティー登録してDランク以上のパーティーに認定されれば受けられる依頼の幅が増える。
ノアが「僕は構いませんよ」と魔術師カードを提出する。
「では、お預かりいたします。Eランク冒険者が2名様とAランクまじゅっ!?」
ケビン・コックスの娘まではかろうじて平静を装えた受付嬢にも、Aランク魔術師は耐えられなかったようだ。
ノアのカードを見たまま固まること10秒。
「……はっ、失礼しました!ギルドのパーティーランク登録規定により皆様はCランクパーティーとなります。パーティーとリーダーのお名前を登録お願いします。」
ノアとソフィアがリーダーは俺でいいと言ってくれたのでまずリーダー名にアベル・リードと書く。
そして、パーティー名……
「保護者会」
「却下。私は保護者じゃない!」
「父兄参観日」
「却下。だから私は父兄じゃないし、もはやパーティー名じゃないわよ!」
すでに20個は出した俺とノアの意見がことごとくソフィアに却下される。
「あなたたちに任せてたら永遠に決まらないわ!私が考える!」
いや、ソフィアが否定しなければすぐに決まりそうなんだが……。
「そうね、『守護者達』にしましょう!」
こうして、俺たちはCランクパーティー『守護者達』になった。
俺とノアの気分は『保護者達』だが。
旅立つ前にギルドの食事が食べてみたいというソフィアの意見に乗っかって、決起集会を行うことにした。
テーブルの上には山盛りのポテトフライ、ハム、パン、そして3人分のオレンジジュースが乗っている。
ノアとソフィアはアルコールが得意でないらしく、俺も2人に付き合うことにした。
「「「かんぱーい!!!」」」
「私も今日から冒険者かあ。」
深くかぶったフードの奥でソフィアが目を輝かせる。
どこのギルドも大半の料理は量が多く、味はイマイチというのが定番だ。
それでもポテトフライ、ハムなら不味くは作れないので迷ったらこれを頼むのが無難だとソフィアに教える。
しかし、そのポテトフライも一度に大量に揚げるせいで油の温度が下がるのか、揚がり具合が不均一で、まだ半生という部分もある。
「もうギルドでは食事しない」
日頃から美味しい食事に慣れているソフィアの口には合わなかったようだ。
ノアもあまり口が動いていない。
「でも、名物料理があるギルドもあるぞ。港町なんかだと魚介が美味い。ノアの住んでたサウスポートも何かあったよな?」
「魚の香草焼きが有名ですね。ギルドが依頼を出して国中から集めた香草を使って、サウスポートで獲れたての魚を蒸し焼きにするんです。冒険者以外も食べにくるくらいの名物料理ですよ。」
「次の目的地はサウスポートね!」
「残念ながらサウスポートには行かない。分かってると思うが俺たちの最終目的地は魔大陸だ。そのためにはまずこの聖大陸から北西の火大陸に渡らなければならない。」
聖大陸は横長のひし形に近い形をしている。
それぞれの角に港町がある。
南端にある港町が先ほどから話題になっているサウスポートだが、ここからは火大陸に行くための船は出ていない。
「火大陸に行くならウエストポートからですね。」
パーティーを組む前から同じルートを検討していたであろうノアが俺の言葉に続く。
聖大陸の中央に位置する王都から西に進みウエストポートに行く。
ウエストポートから船で火大陸に渡り、火大陸を北上する。
さらに船で土大陸に移動し、土大陸も北上する。
そして、土大陸の北側から魔大陸に渡る。
「風大陸と水大陸のルートは?」
ソフィアが言うもう一方のルートは東から魔大陸へと渡るルートだ。
聖大陸のイーストポートから風大陸に渡るまではいいが、水大陸を俺たちが通過するのは難しい。
水大陸の本土は海に沈んでおり、途中で立ち寄れるのは小さな島ばかりだ。
船旅が長くなるのはそれだけで危険性が増す。
ソフィアにそう説明する。
「海に沈んだ大陸とかロマンがあるじゃーん!」
「別に滅んだ文明とか遺跡がある訳じゃないからな。普通に海人族が生活しているんだぞ。」
海人族は肺呼吸とエラ呼吸を使い分けることで陸上でも水中でも活動できる。
また、特殊な能力で水中でも会話ができるらしい。
「あ、そうなんだ。じゃあ、火大陸からでいっか。」
ということで、次の目的地は決まった。
そこまでギルドの依頼を受けながら進んでいくことにする。
「ウエストポートも港町だし、美味しい魚介料理があるといいな!」
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