女勇者の父、パーティーを組む
ソフィアの青い髪と整った顔、白銀に輝く鎧、そして細かな装飾が施された大剣。
その全てが絵画の中から戦の女神が飛び出してきたかのように美しかった。
昨日のドレス姿も綺麗だったが、鎧姿の方がしっくりくるのは騎士団長の血筋だろうか。
「私も行くから」
さも当然とばかりにソフィアが俺とノアに向かって言う。
「は?」
「どういうことですか、ケビン様?」
呆気に取られている俺の隣で、ノアがソフィアでなくケビンに問いかける。
「昨日、腕が立つ者を同行させると言ったのを覚えているかな?」
「「まさか……」」
「ソフィアのことだ」
俺の想像とだいぶ違った展開になってきた。
昨日、ケビンから同行者の話が出た時は彼の知り合い、そう例えば騎士団出身者で訳あって退団した猛者を想像していたのだ。
それがソフィア?
王立学校を先月卒業したばかりの少女?
「ソフィアの実力に不安を覚えているのかな?」
本人とその両親の手前、はっきりと肯定をすることは出来ない俺たちだったが、ケビンは沈黙をイエスと取ったようだ。
ソフィアは俺たちのそんな態度に少し不満げである。
「ソフィアは王立学校を首席で卒業している。主に武術の成績が抜群でな。王立騎士団に幹部候補として入ることも可能だったが本人は世界を旅することを強く希望している。」
「だって、騎士団に入ったら世界を見て回るチャンスなんてなくなっちゃうのでしょう?私はもっと広い世界を知って、自分に出来ること、本当にやりたいことを見つけたいの。それに、世界中の美味しいものを食べて回りたいわ。」
王立学校の首席がどれくらいの実力なのか俺には分からない。
騎士団長のケビンが『腕が立つ』というのだから信頼できるのだろうか。
しかし、娘のことになると冷静になれないことがあるのは俺がよく知っている。
ケビンだって娘を持つ親だ。
俺と同じで親の欲目、ひいき目ということもあり得るだろう。
「ソフィア様は昨年度の卒業生なのですよね?ということは闘気術の授業は受けていらっしゃる?」
「ええ、受けているわ。」
闘気術?
初めて聞く言葉だ。
「アベルは知らないかもしれませんが、王立学校では闘気術という授業が9年前から行われています。つまりソフィア様が入学した年からですね。」
ノアの説明によると、魔法は術者の体内に蓄積した魔力を必要な形に変化させて放出するものだが、魔力を体内に蓄積するという行為には先天的な才能が不可欠らしい。
しかし、魔法が使えない者も魔力を持っていない訳ではなく、魔力が体内に留まることなく常に全身から排出されているそうだ。
その排出される魔力を体の表面に留まらせて肉体の強化をすることを、魔法に対し闘気法と呼ぶ。
それを学問の体系にしたのが闘気術だということだ。
ケビンが付け加える。
「その闘気法の概念を提唱し、学問として闘気術を確立したのがノアなのだ。」
「僕がAランク魔術師なのは闘気術が評価されたからです。提唱した10年前にBランクに上がり、王立学校でその有効性が証明されて3年前にAランクになりました。5年前に王立学校で闘気法をマスターした10歳の少女が15歳の首席候補を剣術で負かしたことが評価のきっかけと聞いていましたが、それがソフィアだったのですね。」
ケビンやノアが更に闘気法について教えてくれた。
闘気法を使いこなすには幼い頃からの訓練が必要であること。
そのため、今の王立騎士団には闘気法を使える人材が不足していること。
闘気法を王立学校で覚えた新米騎士たちはすでに実力でいえば騎士団でも中位から上位に入ること。
特にソフィア程の人材は騎士団としてなんとしても囲い込みたいこと。
ちなみに王立学校の教科書の印税だけでノアには十分に暮らしていけるだけの収入があるらしい。
「そこまで言うなら断る理由もないか。」
「ええ、いいんじゃないですか。」
俺とノアが顔を見合わせて頷く。
「娘を頼むぞ。実は卒業以来、世界を見て回る旅に出ると聞かなくてな。しかし、ひとり旅というのも危険だし、どこの馬の骨とも分からん者とパーティーを組まれても不安だ。ちょうどお前たちが旅に出ると聞いて渡りに船と思ったよ。」
なるほど、変な男と旅に出られたら親としては不安だろう。
俺とノアならお互いに見張り合ってソフィアに手を出さないだろうという考えなのかもな。
2人で旅するなら助っ人を出すって言ってたし。
まあ、俺は娘に誓って妻一筋だけどな!
「それでは、この3人で旅に出るとするか。」
「はい!」
「ええ!」
Aランク魔術師に闘気法とやらをマスターした凄腕剣士。
パーティーのメンバーとしては恵まれすぎている。
この時はまだそう思っていた。
***
王都を出る前に鍛冶屋に寄らせてもらう。
昨日、頼んだ装備を受け取るためだ。
ドアを開けるとカランカランと鈴が音を立てる。
「へい、いらっしゃい。」
今日もダミ声と共にスキンヘッドにサングラスという接客という概念を無視した屈強なオッサンが店の奥から出てくる。
ノアもソフィアも固まっている。
大丈夫、怖い人じゃない。
いや、怖い人だけど悪い人じゃない。
「昨日、頼んだ装備を取りに来た。」
「はいよ、用意できてるぜ。」
装備を置くことを想定して大きめに作られたカウンターの上に、俺の剣、鎧、盾、そして鉄の棒が置かれる。
「うわー!この剣、すごい!」
ソフィアが勝手に俺の片手剣を手に取り、鞘から抜いて品定めしている。
「分かるのかい、お嬢ちゃん。」
「片手剣にしては長いけど刃が細めね。軽さと重さのバランスが絶妙。振りやすいけど、たぶん重みで切れ味もいいんじゃないかな。かなり名のある刀匠の作品ね。」
「分かってるじゃねえか。」
ソフィアの言葉に親父さんは嬉しそうに笑う。
自分の作品を褒められるのはやはり嬉しいらしい。
「その剣は、この親父さんが作ったんだ。」
「えー、おじさんすごーい!私もほしい!」
ソフィアの奴、屋敷にいた時よりもノリがだいぶ軽い。
こっちが素なのだろう。
「お嬢ちゃん、すまねえがこの剣は1本っきりしかねえんだ。」
「そっか。じゃあ、アベルが死んだら形見にもらうから大事に使ってね」
「俺は百歳まで健康に生きるからな!」
親父さんが愉快そうに笑う。
こうして俺たちの旅は始まった。
最後まで読んでいただきありがとうございます!
書きだめ出来たので朝6時にも投稿します。
よろしければそちらもお読みくださいませ。




