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女勇者の父、ノアに会う

王国騎士団長ケビンの屋敷はすぐに見つかった。

おおよその場所といくつかある坂のどれを上がれば近いか聞いていたので迷わずに着いた。

王都は3段重ねのケーキのような形をしている。

各層が中心から発達していく。

そのため、貴族の住まいなどが並ぶこのエリアは城に近い方は建物が多いが、坂に近い方はまだ空き地が目立つ。

ケビンの家は住宅街の一番外側に建っていた。

輝かんばかりの真っ白な豪邸だ。

立地的と外観の両方から比較的新しい物であることが分かる。

もしかするとケビンが騎士団長になってから建てた物なのかもしれない。


門の前に立つ。

周囲の家よりも建物も庭もひと回り大きい。

しかし、庭木や門は飾りっ気がなく、ケビンの素朴な人柄が感じ取れた。


「何か御用ですかな?」


門の中から黒いモーニングを来た初老の男が声をかけてくる。

この屋敷の使用人だろう。


「ああ、ケビンさんに招待されたアベルというんだが。」


そう言ってリュックから取り出しておいたメダルを見せる。


「お待ちしておりました。主より伺っております。どうぞ、お入りください。」


使用人が門を開けてくれる。

庭の隅の方ではサクラが満開だ。

屋敷と門をつなぐ石畳の通路に沿って並ぶ背が低く葉っぱの多い木の間を歩くと間もなく屋敷にたどり着く。

使用人が屋敷の扉も開けてくれたので会釈して中に入る。


「申し遅れました。ワタクシ、ケビン様の執事をしておりますセバスチャンと申します。あいにく主は不在ですがご夕食までには戻ると言付かっております。ただいまからアベル様にお休みいただくお部屋へとご案内いたしますので主が戻られるまでごゆっくりくつろいでいただければと。」


「ああ、気遣いありがとう。」


セバスチャンに案内あれ、1回の角部屋へと通される。

窓からは先ほどのサクラの木が見える。


「何かあればご遠慮なくお申し付けください。」


そう言うとセバスチャンが部屋を出ていき、俺はひとりになる。

昨日までの5日間の馬車旅と今日の入学式、買い物、兄との再会で少し疲れていた。

きれいにメークされたベッドに飛び込む。


アンジェリカは今頃どこら辺だろうか。

ルナは何をしているだろうか。

同室のリズちゃんと仲良くやっていけるだろうか……。


…………。




「アベル様、主が戻りました。よろしければご案内させていただきます。」


ノックの音のあとに扉越しにセバスチャンの声が聞こえる。

どうやら眠ってしまっていたようだ。


「ああ、ありがとう。今行く。」


目をこすりながらベッドから降りて、伸びをする。

セバスチャンに案内されて晩餐室へと案内される。

屋敷の他の場所に比べると非常に装飾品が多く、いかにも貴族の屋敷に来たという気にさせられる。


「あまり趣味ではないが、肩書ばかり偉くなるとこういう部屋も必要になるのだよ。私が誰よりもこの部屋は苦手なのだ。」


あまりの豪華さに呆気に取られていた俺に苦笑交じりでケビンが声をかける。


「本日はお招きにいただき光栄の至り。手土産もなく申し訳ないが。」


「ハッハッハ。堅苦しいのはよしてくれ。私はもっとざっくばらんに庭でバーベキューにでもしようと言ったのだが妻が許してくれなくてな。」


長テーブルには席が5つ用意されていた。

長方形の入口から見て奥側の短辺の位置にはホストであるケビンが座っている。

ケビンに向かって右側の長辺に2つ、左側に1つ席がある。

ケビンと向い合わせの位置にはケビンの妻が座るのだろうか。


「アベル様はこちらにお座りください。」


セバスチャンがケビンに向かって右側の席の内、ケビンに近い方へと案内してくれる。

どうやら俺が主賓らしい。


「アナタ、お料理の準備ができたわよ」


俺が座るのを見計らっていたかのように背の高い女性が台車に乗った皿を運んでくる。

使用人のようにシックなシャツとズボンにエプロン姿のその女性が俺に気付いたようで挨拶してくれる。


「あら、失礼しました。ケビン・コックスの妻のマリーです。」


「初めまして。アベルと申します。」


どうやらこの婦人がケビンの妻らしい。

似たもの夫婦というか、とても感じの良さそうな女性だ。

「お恥ずかしいところ見せちゃったわね」と舌を出して笑っている。


「前菜だけ運んできたから、あとは任せちゃうわね。私は着替えないと。」


そういうと素早くテーブルに前菜の皿を並べ、マリーは部屋を出ていく。


「妻は料理が好きでな。自分が料理を振舞いたいからとバーベキューを却下されたのだ。」


「なるほど。」


テーブルの上に置かれた前菜の皿は王宮学校の立食パーティーで出た料理のような高級感はないが、家庭料理の暖かさが十分に感じられた。

疲れた体にはこういう料理の方がありがたい。


マリーが部屋を出たのと入れ替わりになるようにひとりの使用人が入ってきた。


「旦那様、ノア様がお着きになられました。」


「では、部屋に案内したあとこの部屋に。」


「かしこまりました。」


ノアというのも客なのだろうか。

俺に紹介したい人物がいると言っていたが、それがノアなのか?


「ケビン様。本日はお招きいただきありがとうございます。」


しばらくすると赤毛の男が晩餐室に入ってきた。

どこかで見覚えのある気がする顔だ。

ノアは使用人に促されケビンに向かって左側の長辺の席、つまり俺の正面に座る。


「アベルよ、こちらはノアだ。今日から娘が王立学校に入った。彼の娘は将来魔王と戦う勇者の仲間、賢者だ。」


思い出した。


立食パーティーでケビンが俺たちのあとに声をかけていた夫婦。

その夫の方がこのノアだった。

最後まで読んでいただきありがとうございました。

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