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女勇者の父、兄に会う

「ちなみに俺の依頼達成率は30%だ。」


「そいつは……低いな。俺も色んな冒険者を見てきたがさすがに驚くぜ。」


毎週1つを目標にFランク依頼に挑戦し、月に1回~2回成功する。

そうすると俺一人がかろうじて生活するくらいの金は稼げる。

失敗しても大きな怪我さえしなければ損失は時間だけ。

そして、失敗から得られる反省は成長への糧となる。


「そこまで徹底してる奴は見たことないな。だが、30%とはいえFランク依頼を成功させてるなら、それなりに実力はあるってことか。」


「最初に親父さんに説教されてなきゃ、速攻で死んでたかもしれないけどな。あん時の言葉と選んでもらった装備のおかげでなんとか生き残れたよ。」


「そこまで持ち上げられちゃ、今回もいい装備を見繕ってやらねえとな。」


旅をする前提である程度は軽く、しかし防御力もある物を探してもらう。


「鎧は皮がいいな。そうだな……こいつは皮の鎧の中では値が張るが、胸とか急所には鉄板が入っているから少しは安心できるだろう。」


カウンターに茶色い皮の鎧が置かれる。

あとでサイズを調整してもらおう。


「武器はどうする?」


「片手剣を頼む。鉄製で切れ味のいいやつを。」


基本的に対人戦は避ける。

対人戦は武器の消耗が激しい。

剣同士の鍔迫り合い、鎧や盾に剣が当たっての刃こぼれ。

そのため、対人戦を想定するならなるべく硬い素材を選ばなければならないが、そうすると値段が高くなるし、手入れする時の費用も跳ね上がる。

だから、俺は魔物の肉を切り裂くことだけを目的とした切れ味のいい鉄製の剣をチョイスする。

この辺は前回に親父さんから教わったとおりなんだけどな。


「オッケー。それならちょうどいい剣がある。俺の会心作だ。」


全長は片手剣としては長めで80センチ以上あるだろうか。

だが、剣身はやや細目で重さは見た目ほどではないだろう。

余計な飾りもなく、見た目の美しさよりも実用性を重視しているのが分かる。

親父さんに断って手に取らせてもらう。


「うん、しっくりくるな。これを頼もう。」


持ってみると長さに比べてやはり軽かった。

しかし、扱いにくいほどではなく振り回すのに絶妙な重量感がある。


「片手剣ってことは盾も必要か?」


「ああ、左腕にはめて持つタイプの小さめのラウンドシールドを頼む。」


盾の裏にある2つのベルトの一方を肘の下で固定して、もう一方を手で持つタイプの盾を注文する。

ベースは鉄製だが、中央でバツを作るように入っている装飾はミスリル製だ。

剣での対人戦は考えないが、それでも人と戦う機会はある。

盾はなるべく硬い方がいい。


「あとは鉄の棒にグリップを付けた物がほしい。」


これが対人戦での武器になる。


「ぶっそうなモン頼みやがるな。」


「剣よりはマシだろ……たぶん。」


鎧を試着しあと、調整と鉄の棒の製作を終わるのが明日になるということだったので全て明日受け取りにくると伝えて店を出た。

だいぶ出費が嵩んだが、ルナの教育支援ということで国からもらっていた金の余りからアンジェリカの生活費を引いて残った分でなんとか足りた。

しかし、これから旅をするとなればこの街でいくつかギルドの依頼をこなして路銀を稼ぐ必要がありそうだ。




外に出るとまだ日が高い。

ケビンの屋敷を訪問するには少し早そうだ。

街の中をしばらく散策することにしよう。


大き目のリュックサックを背負っているため容量には十分余裕はある。

しかし、食料や傷薬など旅に必要な物はまだ買う必要はないだろう。

今日はケビンの世話になるから、明日にでもギルドで依頼を受けよう。

まずはその依頼のために必要な物だけ買い、旅の資金が貯まったら食料などを買い溜めればよい。


ということで、今日は街の中を普通に観光することにした。

王都は三段重ねのケーキのような造りをしている。

一番高い位置にある城を中心とした王族が住む区画。

その一段下にある貴族の住まい、一定の地位がある者たちのため店舗や学校などがある区画。

3段目は平民が暮らす区画だ。


俺が今いるのは一番下の平民が暮らすエリア。

生まれ育った街ではあるが来るのはほぼ10年ぶりだ。

記憶の中の景色と照らし合わせれば、少しずつだが街並みも変わっている。

親に大事にされなかったことが原因の大半で、あまりいい思い出のある街ではないがそれでも故郷を歩くのは感慨深い。




色々と見て回っていたら日も傾いてきた。

そろそろケビンの屋敷に向かうとしよう。

ケビンの家はケーキの2段目の貴族の住まいがある区画だ。

馬車が通ることを前提とした緩やかなで幅の広い坂を平民エリアから貴族エリアまで上りきるとさすがに暑くなる。

心地よい風が吹いていたのでフードから頭を出す。

平民の区画では知り合いに会って面倒くさい思いをするかもしれないと被りっぱなしだったが、貴族エリアなら問題ないだろう。


「おい、お前……アベルか?」


問題はあった。


「ジーク兄さん。お久しぶりです。」


フードを脱いだ瞬間、目の前にいたのはジークフリード・リード。

俺の3人いる兄の一番上で、実家であるリード商会のたぶん副社長だ。

まさか、このエリアで兄に会うとは思わなかった。

もしかすると妹の嫁ぎ先の貴族がこの辺りに住んでいて、商売の相談にでも来たのかもしれない。


「こんなところで何をしている。」


泥棒でも見るような目で俺のことを睨みつけている。


「知り合いの家に呼ばれておりまして、これから伺うところです。」


「貴族の知り合いだと?お前、妹に金をたかろうっていうんじゃないだろうな?」


やはり、妹がこの辺りに住んでいるようだ。

しかし、そんな風に思われていたとは心外だ。


「まさか!先ほどは思わず『兄さん』などと呼んでしまいましたが、俺はもうリード家とは関係のない人間です。」


だから、俺は結婚したことも、娘が生まれたことも、それが勇者であることも伝えていない。

伝えれば手のひらを返して「勇者の血統」をリード商会の宣伝文句にでもされかねない。


「そうだ、お前は何者でもない。何も成すことができない。ただの愚かな男だ。フン、お前の相手をするような貴族はよっぽど落ちぶれた家柄なんだろうな。」


王国騎士団の団長殿にもらったメダルを見せたらどんなリアクションをするのか気になったが、ケビンに迷惑をかけるかもしれないし、ジークから質問攻めされても面倒なので受け流す。

言いたいことを言って満足したのか、罵るにもそれ以上の語彙力がないのか、ジークフリード・リードは俺が上ってきた坂を下りていく。

小さくなっていくジークの背よりも、もっと遠くに俺は目を向ける。


菜の花畑が見える。

小さな花が集まって作る金色の絨毯。

自然と娘のことを思い出す。

思い出さずにはいられない


アベルの娘、ルナは美しい金色の髪と瞳をしていた。

髪の毛だけなら少なくないが、瞳まで金色という者は珍しかった。

可憐な容姿と相まって自身が特別な存在であることを十二分に知らしめていた。


7歳になる今年、ルナは王立学校に入学した。

まさに先ほど入学式を済ませてきたのだ。

彼女は今日から親元を離れ、寮で生活する。


彼女の父、アベルは貴族ではなかった。

それどころか住まいも王都ではなく、田舎の小さな町だった。

ルナが王立学校に入学できたのは、彼女の才能のおかげだった。


そう、才能。

彼女は勇者だった。

王立学校で9年間学んだ後、彼女は魔王を討つ旅に出る。


ジークは言った。「お前は何者でもない。何も成すことができない。」と。


アベルは金色に輝く菜の花を眺めながら噛みしめていた。

娘と過ごした6年間を。

そして、小さく口を動かした。


「俺は、女勇者の父です。娘の代わりに魔王を倒そうと思います」

最後まで読んでいただきありがとうございました。

ようやくプロローグのところまでたどり着きました。

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― 新着の感想 ―
[一言] 子煩悩パパの冒険譚はここから始まった!! 金色の菜の花畑を遠景に娘を思う、とっても良いですね。
2020/06/26 14:46 退会済み
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