プロローグ
春。
色とりどりの花がまるで己の美を主張するかのように咲き誇る。
しかし、それらの花々は奔放に咲いているようでも「春の王都」というひとつの風景を作り上げていた。
サクラ、アザレア、ムスカリ。
幼い頃に祖母から習った名前をそれぞれの花に当てはめる。
王都は三段重ねのケーキのような造りをしている。
一番高い位置にある城を中心とした王族が住む区画。
その一段下にある貴族の住まい、一定の地位がある者たちのため店舗や学校などがある区画。
3段目は平民が暮らす区画だ。
彼はそのケーキの2段目から街の外に視線を向ける。
遠くに菜の花畑が見える。
小さな花が集まって作る金色の絨毯。
自然と娘のことを思い出す。
思い出さずにはいられない。
彼の娘は美しい金色の髪と瞳をしていた。
髪の毛だけなら少なくないが、瞳まで金色という者は珍しかった。
可憐な容姿と相まって自身が特別な存在であることを十二分に知らしめていた。
7歳になる今年、彼女は王立学校に入学した。
まさに先ほど入学式を済ませてきたのだ。
彼女は今日から親元を離れ、寮で生活する。
彼女の父は貴族ではなかった。
それどころか住まいも王都ではなく、田舎の小さな町だった。
彼女が王立学校に入学できたのは、彼女の才能のおかげだった。
そう、才能。
彼女は勇者だった。
王立学校で9年間学んだ後、彼女は魔王を討つ旅に出る。
彼は金色に輝く菜の花を眺めながら噛みしめていた。
娘と過ごした6年間を。
そして、小さく口を動かした。
「女勇者の父です。娘の代わりに魔王を倒そうと思います」