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人間不信に幸せを  作者: 手口ともろを
1/1

プロローグ



「いつか君を信じられたら…」


 これは私があの人と出会ってから始まった物語。

 あの頃は想像もしていなかった出来事と初めてばかりの毎日。

 そんな日々を綴った私の記録。

 

 まずは物語は始まる前の私の過去を記しときます。


ーーアリシア村~ユディアの家ーー


「おい!酒はどうした‼️一本もねぇじゃねえか!」

「あるわけないでしょうに、あんたが全部飲んだんじゃないかい」

「あぁ?無いなら買ってこい!」

「金もないのにどうやって買えってんだい。酒が欲しけりゃ働いてきな!」

「………私ユダとってくる」


 鉈と袋を持って村から出て30分ほど歩いた先にある森へ向かう。

 私の家は3人家族、子どもは私1人だけ。お母さんと私が家事の合間にユダの蔓でかごを作ってなんとか生活をしている。お父さんは毎日私たちが頑張って稼いだお金で飲んだくれては怒鳴っている。


「俺は家主なんだから金を使って当然だろ‼️俺がいなかったらお前は産まれてこなかったんだからな‼️感謝されても文句を言われる筋合いはねぇ‼️」


 と前に話し…怒鳴っていた。

 こんなお父さんも昔はそれなりの冒険者だったらしいけど、足を怪我して村に戻ってから荒れてきたらしい。


「惚れた弱みってやつかねぇ…昔はね。格好よかったのよ?魔物や獣の攻撃を避けたと思ったら切っていて…あの人を慕っている他の冒険者も沢山居たもんよ。あんたにもそのうちわかる日が来るさね」


 お母さんが何でお父さんから離れて行かないのか不思議で聞いてみたときにこう話してくれた。

 私には分からない…いくら好きだからって働かずにお酒を飲んで怒鳴る人を許せるものなの?


 考えながら歩いていると森が近づいてきた。

 この森には名前があるらしいのだけど、村のみんなはただ森と呼んでいる。


 ここに私たちの生活に欠かせないユダがいる(・・)(お父さんは働かないけど)。ユダは木に巻き付いている植物のような見た目をしているけど、本当は魔物なんだって。木の栄養を絞りとるらしい…でも詳しくはしらない。知っているのは編みやすい固さと柔軟さがあることと乾いても縮まず丈夫なことくらい。


 私はいつも通り木に巻きついてるユダを鉈で切って袋に詰める。


 ガサガサ

「っ!?」



「ゲギャ」

「ガギャギヤ」


 木陰に隠れた私の耳に不快な声と臭いが届く。ゴブリンだ。


「ゲギャギャ」

「ギャグギヤ」


 おかしい。

 私がユダをかっているのは森の浅い場所でゴブリンがいるのはもっと深い所だって聞いたことがある。何でこんな所に…早く帰って村のみんなに知らせないと‼️


「……」

「……」

「……」

「あ…」


 緑がかった肌、尖った耳と鷲鼻、ぎょろりとした大きな目。私と同じくらいの身長で服は腰の布切れだけ。

 考えることに夢中になって気付かなかった。


「っ‼️」

「ギギャッ‼️」

「ガギャャ‼️」


 ゴブリンに捕まったらどうなるか知っている。森に深く入ってしまった冒険者の女の人は生きていたけど、助け出した仲間の問い掛けにも答えずに虚ろになっていた。

 あんなことになるのは嫌だ‼️必死になって走った。歩き慣れたはずの道がとても長く感じ、やっとのことで森を抜けることができた。

 ゴブリンは森からは出ないのか、しばらく叫んでいたが諦めたようで帰っていった。


「お母さん‼️」

「どうしたのそんな焦って。あんた袋は?」

「ゴブリン‼️」

「え?」

「森に…ゴブリンが…いたの‼️」

「ゴブリンって……あんたがいつもユダを刈りに行く場所にかい!?」


 息を切らしながらもお母さんに伝えることができた。あとはお母さんが村のみんなに伝えてくれるだろう。今になってゴブリンに追われた恐怖から体が震えてしゃがみこむ。


「急いでみんなに伝えないと‼️」

「おい‼️待て」

「なんだい‼️」


 お母さんはみんなにゴブリンのことを伝えなくちゃいけないのになんだというのか。どこから持ってきたのかまたお酒飲んでるし。


「はぐれかもしれねぇだろ、そんなのほっとけ。それよりもほら、酒が足りねぇぞ。後払いじゃこれしかくれねぇってんだ!早く金作ってこい‼️」


 そんな…いつもいない場所にいたのに…絶対普通じゃないのに!


「……そうねぇ。ユディア、そろそろ落ち着いたでしょ?詳しく話して」

「うん。私がいつものところでユダをとってたらガサガサって音がして、急いで隠れて覗いたらゴブリンがいたの」

「そうかい。うーん、1匹だけならはぐれかもね。一応村長に伝えて冒険者ギルドに知らせるか依頼を出してもらうとするかね」

「ほらみろ俺の「3匹」言った…なんだと?」

「私が見たゴブリンは3匹(・・)だよ。隠れてるのがバレて追いかけてきたの。あ、でも逃げ切って森の端で叫んでたのは2匹だったなぁ…」

「……おい。すぐに村中に知らせろ。俺とユディアは身支度を整えるぞ、ギルドのあるバルドまで逃げるぞ」

「どうしたんだいいきなり…」

「ゴブリンは普段は本能のままに行動するだけだがよ。上位の存在が現れると途端に集団で行動して襲ってくんだよ。3匹のゴブリンは斥候の可能性が高い、村長に伝えろ。森から出てくるかもしれねぇ」


 お父さんが見たことのない表情をしてる…それに王都の方でゴブリンキングが出たときは冒険者が大勢で討伐したって話を村に来る行商人のおじさんが話してた。


「なにしてる‼️急げ‼️」

「わ、わかったよ‼️」


「ユディアも最低限荷物を纏めろ!俺は…」


 お父さんは物置小屋を開けて何かを取り出した。

 あれは…お父さんが昔使ってたっていうダガー‼️


「こいつだけでも手入れをしててよかったか。ただのゴブリンなら足が使えなくとも殺ってやる。ユディア!鉈は!」

「ある!ここに」

「よし、念のためそのまま持っておけ。荷物は纏めたか?」

「うん。いつも纏めて持ち出せるようお母さんに言われてたから、でもユダを入れる袋は無くしちゃった…」


 あの袋はお父さんが冒険者をしてた頃に初めて狩ったウルフから作ったとお母さんに聞いてたのに…


「あんなもん新しいものを買えばいい。じゃあリディーを探しにいくぞ!説明のために村長の所に居るはずだ」


 お父さんも物置小屋の荷物を袋に詰めて持ち出した。


 村長の家には村の人たちが集まっていた。


「ユーリット‼️リディアから話は聞いたぞ。本当なんだな?」

「村長、見たのはユディアだが、見た数と追ってきた数が違うのがどうも嫌な予感がする」

「うむ…ユディアは嘘をつくような子ではないな。わかった。すぐに早馬を出して冒険者ギルドに伝えよう。皆聞いていたな!すぐに避難の準備をせよ‼️バルドへ向かうぞ。子どもと女たちは馬車に乗れ、急げ‼️」


 みんなが家に向かおうと走り出したその時。


 カン カン カン カン カン カン カン カン…


 村の物見櫓から鐘の音が…あの鐘は‼️


「遅かったか‼️荷物を取りに行く暇はない‼️女子どもはすぐに乗り込め‼️」

「そ、村長ぉ‼️南からゴブリンの群れが‼️」

「数は‼️」

「100は越えているとのことです」

「村長!俺達は」

「うむ、目視できるのなら走って逃げても体力を消費するだけか。男どもは戦うぞ‼️」

「「「「おぉぉ‼️‼️」」」」

「ブロス!お前は冒険者ギルドへ向かってくれ、頼んだぞ。プルート!馬車を頼んだぞ‼️」


 馬に乗って馬屋のブロスが走り、すぐに私たちが乗る馬車も走り出す。


「お父さーーん‼️」

「ユディア‼️父親らしくできず悪かったぁ‼️お前は賢い子だ‼️必ず生き延びろ‼️」


 すぐにゴブリンたちはやってきて馬車を追いかけてくるやつも何匹かいたが、村から離れると諦めていった。最後に見たアリシア村はゴブリンが集まり緑に染まって見えた。


 しばらく走りすすり泣く声も止んだ頃、馬車が止まった。


「…なんだろう?」

「少し様子を見てくるからユディアはここにいな」

「リディア、大丈夫かい?」

「ティシユさん大丈夫ですよ。少し様子を見るだけですから」

「お母さん…」

「大丈夫だよ。少しだから、待ってな」


 行者をしてくれてるプルートさんはかごの出来映えをいつも誉めてくれる優しい人で、何かあったらすぐに知らせてくれるはずなのに…。

 お母さんが出ていこうと幌に手をかけた時。


「その必要はねぇな。大人しく馬車に乗ってな」


 ひげ面の男が顔を出してきた。顔だけじゃない反りのある剣先が割れた剣をこちらに突き付けて。


「な、なんだいあんた。邪魔だよどきな」

「わからねぇな。この馬車は俺たちが頂いたって言ってるんだよ。行者の兄ちゃんなら、おい」

「へい」


 ドサリと私たちから見える位置に何かが投げられた。違う()()

が、頭に矢が突き刺さっている誰かが、あれは…あの人は。耳が痛いほどにみんなの悲鳴が聞こえて、また目から涙が流れていく。

 お母さんも後ずさって私の横に座り込んだ。


「大人しねえとこの兄ちゃんみたいになっちまうぞ。素直に縛られるんだな」


 許さない。そう私の耳に小さな声が聞こえた気がした。そしてお母さんが呟いた。


「…荒ぶる炎よ我が元に現れ敵を焼け」

「何をぶつぶつ言ってやがる。外に出ようとしてたお前から『ファイアショット』ぐぉぁぁぁぁ!!」

「お頭ぁ‼️?」


 突然お母さんの手元から火が出て男に飛んでいった。でも倒すことはできなかったようで男の火はマントを被せられて鎮火。髪は半分燃え上がり髭面も焼けて恐い顔が更に恐ろしくなっている。


「くっそあちぃぃぃぃ‼️‼️てめぇ魔術士だったのか‼️くっそう‼️」

「お母さん‼️」


 立ち上がっていたお母さんに乱暴に飛び乗ってきた男が刃を振り下ろした。もう悲鳴すら出なかった。私も涙を流しながら大きくなる血溜まりを眺めていた。


「ちっ殺しちまった。まあ一人くらい減ってもいいか。おい、残ったやつを縛っておけ。居ないとは思うが魔術には気を付けろ。全員口も塞いでおけ」

「へい」


 それから先はどうなったんだっけ。縛られて何処かに連れて行かれて、服を剥ぎ取られて焼き印を捺されて。私は…奴隷になった。

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