婚活をした!
これで完結になります!
今まで多くの感想、ブックマーク、pt評価をいただけたことはすごく励みになっていて、それが執筆のための原動力にもなりました!!
最後まで読んでくださった読者のみなさまには、
本当に感謝していますm(_ _)m
これからは恩返しのつもりで、さらに質が高く、読みごたえのある作品を目指していくので、よろしくお願いします!!
ワイシャツにアイロンをかけてから
小ぎれいなスーツに袖を通す。
これを着ると営業に行く感じがする。
姿見で身だしなみをチェックしてから会場へと向かう。
今日はせっかくの休日なのに
婚活で時間を無為に過ごさなければならなかった。
朝ごはんには、お好み焼きとカレーライス、
セブンのスイーツを食べたからお昼は食べていない。
午後の3時から受付だが、私は早めに会場入りをした。
高級志向の中華料理屋で5,000円の会費を払う。
これが高いのか安いのかはわからない。
私は人数合わせで連れてこられたのだった。
テーブルに着くと
エントリーシートを渡された。
名前や住所、趣味や特技を書く欄がある。
ここはちょっと大人が見栄を張ったような場所だった。
テーブルクロスには小さな破れがあるし、
ちょっと使い古されている気がした。
ドリンクもウーロン茶やコーラの瓶はあるが、
アルコール類は置いていないようだ。
照明のシャンデリアも装飾品にしか見えない。
そんなふうに見物していると司会進行役が音頭を取り始めた。
私はエントリーシートの記入欄を埋められていなかった。
まあ、どうでもいいや。
そう割り切って話を聞く。
長い説明だった。
要約すると持ち時間は3分間で
ひとりひとりと話をして、
いいなと思ったらチェックリストに○をつける。
全員と会話をし終えたら
フリートークと会食が始まるということだった。
ぶっちゃけ最初の時間は大変だった。
3分間で話し相手が変わるため
機関銃の弾丸にでもなった気分を味わう。
目まぐるしく言葉の弾丸を撃ち続けなければならなかった。
私は話し過ぎて酸欠になった。
よくもまあこんなに舌が回るものだ。
女の子を前にしているのにちっともアガらない。
とくに役作りをしたつもりはないが、
今回は営業マンになりきってしゃべっているから
ビジネストークだと思って緊張をしていないのだった。
フリートークの時間は空腹を満たすために使いたかった。
だれもいないテーブルに着席して麻婆豆腐を頬張る。
ピリッと山椒が効いていて辛かった。
早くも汗がにじみ出る。
「お隣いいですか?」
「ん?」
女の人がすぐ右側に腰を下ろした。
まだ空席はあるはずだがと思いつつ、
どうやら気を遣わせてしまったらしいことを恥じた。
べつに気にしなくていいのに。
それよりも私はお腹がすいていた。
「すいません、私もお隣いいですか?」
「いいですよ。ていうか、おかわり行ってきます!」
ろくに会話をすることもなく、
私はバイキング形式の料理を眺めた。
チンジャオロースとか、ユーリンチーとかおいしそうだな。でも野菜も食べないとあれだし……まあいいや、適当に盛るか!
見た目はあれだが、量はある。
うん、これは我ながらセンス×だな!
そう苦笑しながら席に着く。
両隣の女子は2人で盛り上がっていた。
よし、私は空気に徹しよう。
5,000円の会費は安くないんだ。
たくさん食べなきゃ損だろ!
そうグラスを傾けていると、
「おかわり注ぎましょうか?」
右隣の女の子が烏龍茶の瓶を持っていた。
そういえば親戚の造船会社の社長に、
「飲み会の席では酒は注がせるもんだ!
決して自分で注いじゃあいけねえ。
他人に注がせるやつが出世する」
って言われた記憶がある。
あのときは、『横浜vs楽天』のセ・パ交流戦を見に行った帰り道でのことだった。私はその社長にも酒を注がせたのだったっけ。社長なんだし、もう出世はできないと思ったからべつにいいだろう。
「ええ、すいません」
そうグラスを差し出す。
「じゃあ俺も注ぎますよ」
と、瓶を受け取ろうとしたら断られた。
烏龍茶はお嫌いなのだろうか。
まあいいや。
そう正面を見ると、女の人が瓶の蓋を開けられずに苦戦しているところだった。他の男性陣は……と辺りを見回すが、だれも気付いてはいないようだ。
よし、助けに行くか!
そう席を立とうとしたら、
左隣の女性に呼び止められた。
ん、どうしたんだ?
「この麻婆豆腐、辛いですね!」
え、それがなに?
意外とくだらない用件だった。
「おいしそうに食べてたので私も持ってきたんですよ」
「そうですよね」
私は腰を落ち着かせて調子を合わせる。
いやいや、それどころじゃないでしょ。
目の前に困ってる人がいるっつーの!
え、気付いてるよね?
今チラッと見てたよね?
私はそう横目でうかがう。
だれも手助けをする気配がない。
女性は栓抜きに四苦八苦していた。
仕方ない。ここは適当に切り抜けよう。
「辛すぎて汗がでましたよ!」
私は実際に額を手でぬぐって見せた。
よし、どうだ!
食事中に汗をかくなんて不潔だと思っただろ。
私はマジで辛いのがダメなんだ!
よく食べてるけど……。
「代謝がいいんですねー。うらやましい!」
「普段は汗はかかないんですけどね」
「え、そうなんですか?」
べつに隠すことでもないと思い、
私は自分の身体の欠点を教える。
「ええ。皮膚の汗腺が手足に集中しているので、
他の人に比べて発汗能力が低いんですよ。
しかも末端冷え性なので冬場はマジできついです」
簡単にいえば、手汗と足汗はめっちゃかくけど、
それ以外の部位からは発汗しにくい身体なのだ!
だから手足以外に汗をかくときは、
身体から発されたメーデーのサインである。
「辛いものって普段から食べます?」
そう右隣の女性に尋ねる。
たしか出席番号が2番の方だったよな。
知らないけど、目の前の立て札には【2】と表記してある。
まあ、【二岡】さんってことにしておこう。
そうなると左の女性は【3】だから【佐々木】さんだな。
本当は首から提げたカードを確認すべきだったが、
それは失礼だと思ってやめた。
覚えてないとか、思われたくないし。
「んー、私はあまり食べないかな」
二岡さんは額に指を当てる。
「そうですよね。俺も苦手です」
そう相手の皿を見る。エビチリがのっていた。
よし、俺もあとで取ろう! と心に誓う。
「これジュースですけど、飲まれますか?」
佐々木さんはターンテーブルから
ジンジャーエールを引き寄せた。
簡単に栓をはずしてしまう姿を見て、
やるな! と感嘆符が漏れた。
あ、そういえばあの子はどうなった?
見ると、ひとりで食事をしていた。
栓は自分で開けられたようである。よかった。
でも、あまり楽しそうではない。
男性陣からも相手にされてないようだし。
だからといって、自分から動く勇気もなさそうだった。
近くに行ってあげたい。
「お注ぎしますねー」
「ああ、どうも」
しゅわしゅわと黄金色の液体が輝く。
私はグラスを置いて、瓶を受け取った。
「俺も注ぎますよ」
「いいんですか? ありがとうございますー」
佐々木さんは笑顔でコップをこちらに向けてくる。
私はラベルの向きを気にせずに適当に注いでしまった。
今さら仕方ないけど、上に向けるべきだったな。
ジンジャーエールを口に入れると、
なんだか、いつもと全然違う味がした。
瓶を注視しているとその理由がわかった。
この味はウィルキンソンの辛口だ。
コカ・コーラ社じゃない。
「これ、いつもと味が違いますね」
「え?」
佐々木さんは当惑した表情を見せる。
「このジンジャーエール、ウィルキンソンですよ」
私が言うと、
「あ、そうなんだ。わからなかった」
そんな反応をされた。
「炭酸飲料って普段から飲みますか?」
私は何気なく聞いてみた。
「ううん、飲まない。お茶だけ……」
「奇遇ですね、俺も普段はルイボスティー飲んでます!」
紅茶みたいな風味が好きなのだ。
「え、女子力高いですね」
そう笑われてしまった。
「ルイボスティー飲んでる男の人って
あんまり見ないかもしれない」
「そうですかね。おいしいのに。
逆になんで炭酸飲まないんですか?」
「だって、太るじゃないですか!」
「そんなことないですよ、やせてますよ!」
私はそう断言する。
モデル体型でも目指しているなら話は別だが。
「えー、でもホットジム行ってるから
それで効果が出たのかもしれないね……」
佐々木さんの目尻が下がった。
おお、喜んでくれたようだ!
そう思うと私もうれしくなる。
つい質問を重ねてしまう。
「ジムに行くんですか?」
「うん。フィットネスだけどね」
偉いですね。と首肯していると、
主催者がハガキのような物を持ってきた。
彼は私にこっそり耳打ちをして去っていく。
内容は、先ほどの目まぐるしいトークの中で、
印象カードに◯をつけてくれた女の子がいるから
その子に積極的に声をかけに行ってくれとの指示だった。
そのハガキを見ても、
だれがだれなのかさっぱりわからなかった。
結局、私は席を移動することはしなかった。
二岡さんと佐々木さんを相手にしゃべり続けた。
そしてそのままの流れで最終審査に移行した。
良いと思った女性に◯をつけるようにと
司会者からの進行があった。
いよいよだな。
私は番号を忘却してしまったが、
とりあえず【2】に◯をつけた。
たしか、二岡さんか佐々木さんのどっちかだったと思う。
佐々木さんがいいな。
「それでは結果発表です」
私の正面の男性は緊張して顔を強ばらせていた。
おいおい、そんなに固くなることもないだろ。
ペアが成立しようとしまいと、
とにかく連絡先を聞けばいいじゃないか。
「今回は4組のカップルが誕生しました! おめでとうございまーす!」
司会者の女性は棒読みで言った。
たしかにどうでもいいが、
主催者なんだからもっと感情を込めろ!
男性17人で女性19人くらいだから、
ここで成立した人数は2割しかいない計算になる。
まさかとは思うが、その中に私は入ってないよな。
入ってたらエッセイのネタにしちゃうぞ。
「3組目……◯◯さんと××さんです」
適当に拍手して流す。
はい、次で終わりですね。
「4組目……波多野さんと二岡さんです」
拍手や指笛が起きる。
ふーん。そうか。
て……え、なんで!?
二岡さんをうかがうと相手も驚いていた。
「ありがとうございます」
小さく頭を下げられたので、会釈を返す。
いや、違うんだ。
私が選びたかったのは、
二岡さんじゃなくて、佐々木さんだ。
「連絡先を交換しませんか?」
二岡さんがスマホをかざしてきた。
「ああ、いいですよ」
さすがに電話番号は教えたくなかったので、
SNSで繋がることにした。
バーコードリーダーを読み込んでから、
よさそうなスタンプを選択する。
刃牙とラスカルで迷いつつ、
ラスカルのほうを送信した。
「かわいい」と言ってくれたし、
どうやら喜んでもらえたようだ。
OKというディズニーキャラクターの
スタンプを既読してから別れることにした。
「では、お気を付けて!」
「あの、質問いいですか?」
背広のコートに腕を通したところで
そう呼び止められた。
「あの、おいくつですか?」
身元がバレるといけないので詳述は避けるが、
私は20代半ばであると答えた。
「そうなんですね。思ったよりも若かった……」
おおっ! 私はそう心の中で喜ぶ。
今まではよく年齢確認をされたし、
周りからは幼く見られていたが、
私もついに大人の魅力に目覚めたというのか!
実年齢よりも大人に見られたのは初めてだった。
「それでは失礼します」
そう中華料理屋をあとにする道中、
どうやって相手に伝えようか考えていた。
今度会うときに佐々木さんも呼んでもらうか。
そして2人に教えるんだ。
二岡さんは間違いで、本当は佐々木さんが……
ってそんなこと言えるわけがないだろ!
それは無理だ。
相手を傷付けてしまうかもしれない。
もやもやした気分のままでスーツから外出着に替える。
自転車を漕いで『はなまるうどん』に来た。
私は明太おろししょうゆ(大)を単品で注文する。
いつもは『鶏の唐揚げ丼』もセットで頼むが、
胸につかえた感情が食欲を減少させていたのだ。
ちくわの磯辺揚げ、鶏の唐揚げをトッピングして会計を済ませる。これだけ食べても710円と結構リーズナブルな価格だった。
私はイヤフォンをはめて米津玄師の曲を流す。
失恋ソングの『Lemon』だ。
さつきと連絡がとれなくなってから、
よく聞くようになっていた。
うどんをすすっているとSNSで通知が来た。
先ほどの二岡さんからだ。
今日はありがとうございました。
あまりにも歳が離れ過ぎてて
気が引けてしまいました。
ごめんなさい。
という内容だった。
うん、そっか……。
私は静かな気持ちで返信する。
こちらこそありがとうございました!
気にしないでください!
いい人が見つかるといいですね!
そうすぐに送ってあげる。
フラれたわけでもないし、
むしろスッキリしたはずなのに、
なぜだか悲しくなった。
またうどんをすすると、
なんだかさっきよりも味気なく感じた。
もしよろしければ高評価&ブックマーク
ぜひぜひお願いします!!\(^o^)/
現在は『なろう系の短編』と『クリスマス用の短編』と『新人賞に向けた長編小説×2』を執筆中でございます!!
最後に『はなまるうどん』の概要はコチラ↓↓
最上級一等粉のみ使用!
生麺しか使わない!
いりこだしを使用!
うどんによって、だしの配合を変える!
だしは毎日、お店でとる!
8年連続最高金賞のオリジナル醤油!
うどんには軟水を使用!
厳選された薬味を使用!
それではまた次回の小説で会いましょう!