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カウントダウン(6)

 ここまで決まれば一気呵成だった。

 コーヒーショップでノートパソコンを起動する。

 リングノートのプロットを参考にしつつ

 勢いよくキーボードを叩いていく。


 久し振りのタイピングなのに身体は覚えていて

 ブラインド状態でもタッチできた。


「ああ、これだよ。これ!」

 私の胸は高鳴る。

 この胸を焦がすほどの満足感。

 私の空虚を埋められるのは小説だけだと実感する。


 “No music.No life.”みたいなものだ。


 私にとって小説は麻薬だ。

 それがないと生きていけないのだ。


 白い磁器のマグカップを手に取る。

 ブラックのままコーヒーを口にすると唇にやけどを負った。

 どうやらまだ冷めていなかったようだ。


 ふうと一息吐いて外を眺める。

 ブラインド越しに駐輪場が見える。

 何人かの学生が群れになってこっちに来ていた。


 私はバレないように靴をそっと脱いでスツールから浮いた足をぶらつかせた。ずっと座っていると血行が悪くなる。適当に首を回してからプロットにキャラデザの詳細を書き込んでいく。


 カウンター席の隣の女学生はよくわからない数式に頭を悩ませつつ、私が落書きをして遊んでいるとでも思ったのか、いきなり参考書をシャーペンで叩きながら、うんうん唸り始めた。遠くで子どもの泣き声がする。近くを通ったおじさんが舌打ちをしたが、私の聴覚はほとんどの音をシャットアウトしてくれた。


 何があっても気にするな。

 さあ、集中だ!

 脇の下に汗が流れた。




 推敲を終わらせて上書き保存をクリックしたところで猛烈な吐き気に襲われた。執筆後はだいたいこうなるのだ。普段から何も考えていないため、脳を酷使すると激しい倦怠感や吐き気、偏頭痛に見舞われる。


 バファリンプレミアムの錠剤を2つ出して、

 ホットコーヒーといっしょに飲み込む。

 コーヒーはほとんどぬるくなっていた。


 それがイタリアンコーヒーなのかアメリカンコーヒーなのかブレンドコーヒーなのかはもう覚えていない。頭の中は小説一色になっていた。


 帰りにラーメン屋に寄って、

 “DX味噌ラーメン”とライス(小)と餃子を頼んだ。

 ライスは麺を食べ終わってから

 ラーメンのスープに入れて食べた。


 その途中で推敲を重ねることも忘れない。


 自転車に乗って冷たい風に当たりながらも

 書き終わったばかりの文章や内容を思い出して

 またもや脳内で編集作業に入る。

 とにかく1分1秒が惜しかった。


 この日は夢の中でも小説を書いていた。

 私は起きてから笑ってしまった。

 我ながらあきれるほどの情熱を有しているではないか。


 朝になっても執筆の後遺症で頭痛がしたので

 バファリンプレミアムを服用する。

 これは鎮痛成分(イブプロフェン)が130mgだが

 耐性がついてしまったのか最近は効かないときもある。


 薬剤師に相談したところ、薬局では一度に服用できるイブプロフェンの薬は300mgまでしか販売できないと言われた。それも歯痛や抜歯後の疼痛(とうつう)などの激しい痛みに限るとすごい剣幕だった。そこまでひどい頭痛だったら病院に行くべきだと推奨されたが、そんなくだらないことで時間を浪費したくなかった。


 なんだったら入院しながらでもいいから書きたいのだ。

 小説のためだったら死んでもいい。


 あとは読者層の計算が残っていた。


 今までのスタイルでは、

 毎週日曜日にきっちりと作品を載せてきた。

 多いときは1日に10本以上をあげて毎日連載、

 週に1本は仕事が忙しいときで、

 通常時であれば週に3本くらいいけた。


 しかしどれも泣かず飛ばすで

 巧遅は拙速に如かずの真逆をいってしまった。


 だからこそ分析する必要がある。

 もう10代のときほど若くはないから

 量よりも質にこだわる必要があった。


 これを読む人はたぶん社会人が多い。

 今日は日曜日だけど私は仕事だ!

 まあそれはどうでもいいが、

 読者はきっと午前中に読みたい内容だと思う。


 だがそこをあえて正午過ぎに投稿することで、

 午後からの読者だけではなく、

 明朝の読者獲得に臨んでみてはどうだろう。

 Twitterでも宣伝していけば読んでもらえるかもしれない。


 内容がマニアックだから受けるかどうか心配だけど……


 私はそんなことを考えて正午過ぎに手動で投稿したのだ。

 いつもは予約投稿をしていたが、

 それではあまたの予約投稿の中に埋もれてしまうと

 お気に入りユーザー様に教えられたからだった。


 そして運命の夕方を迎えた。

 ちなみに私は出張で群馬に来ていた。

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