barに行った!
コーヒーショップのオープンテラスで
動画投稿サイトを再生する。
ここに座るためにアイスコーヒーを頼んだが
なにも注文しないで座っている人がほとんどだった。
その動画は、
海でナンパする企画と
高級クラブでナンパする企画だった。
私はその人の立ち居振舞いや話し方、
話のリズムや会話運びに至るまで
その一つひとつを頭に叩き込んだ。
役作り完了。
この時点で、
私は私ではなくなった。
宣言通りバーに向かう。
コリドー街の300BARだ。
そこは石段を下りた場所にあった。
かなり緊張する。
取っ手に手をかけて扉を開けると
大音量のミュージックが鼓膜を刺激した。
目の前には行列があって
バーカウンターでチケットと品物を交換しているようだった。
ここのバーはその名の通り、
300円(+税)のチケットで
ドリンクやフードと交換ができるのだ。
男性は入店時に3枚以上、
女性は2枚以上の購入が必要だが
そのチケットには期限がないため
その日に使いきる必要はなかった。
私は3枚買って、手近な机にお酒を置いた。
ドリンクはラムコークにした。
まだ1枚しか消費していない。
さりげなく女性客を探す。
いた!
だが、まだ時期尚早だと思った。
そもそも席が遠い。
この位置から話しかけに行くのは不自然だ。
そうチビチビお酒を飲む。
アルコールには耐性があったが、
会社の飲み会で多く飲まされたため
嫌になってあまり飲まなくなった。
すると自然と耐性がなくなり
少しの量でも酔えるようになっていた。
酒は弱いほうが得だ。
強いとたくさん飲まなくてはならない。
私はブラウザでナンパの方法を調べた。
要約すると、自己開示が大事だよっていう記事だった。
すると目の前に美女二人がやって来た。
ひとりは白のセーターを着ている巨乳の娘。
もうひとりはセミロングの黒髪娘だった。
どちらもスタイルがよくモデルのようである。
私は思わず怯んだ。
こんなかわいい娘が相手をしてくれるはずない、と。
しかし周囲には彼女達をチラチラうかがう獣の視線があった。隙あらば飛びかかるつもりだろう。やらなきゃやられる。
しかもここは東京だ。
地元からは離れているし、
恥をかいてもみんな他人ではないか。
どうせ明日には忘れていることだろう。
「あの、すいません」
私は意を決して声をかけた。
もしも無視されても
爆音のミュージックのせいにすればいい。
「出張で関東に来たんですけど、
まだ友達がいないんですよ。
もしよかったら一緒に飲みませんか?」
「あ、そうなんですか! じゃあ飲んで忘れましょ」
「乾杯ー!」
そう女子二人が音頭をとってくれる。
グラスがかちんと触れあった。
ノリが良い娘で助かったが、
これはまずいなと私は内心で思う。
会話の主導権を握られてしまったのだ。
まずは腹の探り合いからだった。
どういう目的でここに来たのか?
恋人はいるのか?
学生か、社会人か。
この後の予定はあるのか等々。
私は仕事の支度があるので、
長居はできないことや恋人がいることを伝えた。
事前にそうすることで下心がないことをアピールするのだ。
彼女達は日体大の元学生で、
現在はヨガのインストラクターをやっていると言っていた。
他にも楽しそうに話してくれたが、
私はよく聞いていなかった。
年齢はいくつに見えるかと尋ねられた。
この手の質問は若く言った方がいい。
それが男性に対しても有効かは知らないが、
女性は若く見られたい生き物だから。
「失礼かもしれないッスけど」
こう前置きをすることで場に緊張を走らせる。
なにか爆弾発言をするんじゃないかと
相手を不安にさせるのだ。
予想通り、美女二人は笑顔を引きつらせていた。
「最初は未成年だと思いました」
えー、本当ですか? と訊かれる。
どうやらまんざらでもなさそうだ。
「ぶっちゃけ19くらいだと思いましたね」
「えー、私達19に見えるってー」
そう巨乳の白セーターは喜ぶ。
「え、でも、どっちが年上に見えますか?」
「同級生じゃないんスか?」
私は尋ねる。
「うふふ。違うんですよー」
「先輩後輩で、飲みに来てるんです!」
なんとも困る質問を放られたものだ。
私は白セーターの娘が好みだったので、
そっちが年下ですと答えた。
どうやら違ったらしい。どうでもいい。
しばらく話し込むと、
お互いの口もよく回るようになった。
先程からチラチラとこちらを伺う男がいた。
ひとりでここに来たが緊張して話しかけられず、
人の振り見て我が身を直す算段だろうか。
それとも私が飽きられたら、それを横取りするつもりか?
そんなことをしなくても、
今すぐこっちに来て話せばいいのに。
「ハロー! カワイイお嬢ちゃん。
英語は話せますか?」
短髪の外国人男性がこちらに来た。
なんだ、この人は?
その後ろには色黒のアジア人がいる。
顔立ちからしてフィリピン人だろうと思った。
「Yes!」
「Sure!」
「Of course!」
三人とも同じ事を同時に言った。
私は東京のお台場で
フランス人と英語で話したことはあるが、
彼女らも場馴れしているようだった。
さすが大学を卒業しているだけのことはある。
まあ、私が使えるのは中学英語までだ。
英会話を習ったこともない。
だからノンバーバルコミュニケーションに頼る寸法だが、彼女達の実力はいかほどなのだろうか。
「Where are you from?」
との発音を聞いた気がする。
正確には聞き取れなかった。
「I’m from Japan」
「I’m from Saitama」
「I’m from Niigata」
また一斉に話し出した。
これは西洋人もたまらないだろう。
「You are from シャンパン! アハハー!」
ジャパンがシャンパンに聞こえたのか?
くだらねえと思いつつ、失笑してしまう。
その後もいくつか質問を重ねていくうちに
相手の素性がだんだんとわかってきた。
長身の西洋人は
スコットランド出身で、
仕事の関係で日本に来たらしい。
エンジニアをしていると言っていた。
色黒のアジア人は
日本の九州出身で、
世界を転々と旅していたらしい。
今は通訳をしているのだと語ってくれた。
女の子に対するボディータッチや
ハグの回数が異常に多かったが、
それがカルチャーショックなのか
ただのナンパ者なのかはわからなかった。
少しするとまた別の女の子に話しかけにいった。
色黒のアジア人はコータローと名乗ったが、
あいつは節操がないやつなんです。
すいませんと律儀に謝ってから席を離れた。
その様子を目で追う。
するとこちらを注視していた先程の男と、
上京してきたばかりといった雰囲気の女性が
西洋人の相手をしていたのだ。
私はその男に、
「よくがんばったな!」
と心の中で労をねぎらった。
女の子達はまだ飲むと言ったが、
私は仕事があるからといとまを告げた。
それでもさりげなく連載先は交換していた。
銀座駅から地下鉄に乗っている最中、
満たされないような思いが胸中に渦巻いていた。
これが世間でいうところのリア充なのであれば、
私は小説を書いてる人のほうがリア充だと思う。
車窓には自分の顔が映っていたが、
やはりどこか浮かない表情をしていた。
銀座コリドー街の
300barの概要はコチラ↓↓
【住所】
〒104-0061 東京都中央区銀座8丁目3−12 須賀ビルB1 GINZA 300BAR Ginza 8-chome
【電話番号】
03-3571-8300
【営業時間】
土曜日12時00分~4時00分
日曜日12時00分~23時00分
月曜日12時00分~2時00分
火曜日12時00分~2時00分
水曜日12時00分~2時00分
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