ロード・アシュリー
その男は突然やってきた。
第一印象は、悩みのなさそうなお調子者。そして、得体のしれないよそ者。
そんな男に、僕は確かに魅力を感じていた。
それがどうしてなのか、どこになのかは全くわからなかったけれど、僕の目にはその男がきらきらと輝いて見えていたのだけは事実だ。
だから僕は、勝手な想像で、その男が救世主だと思い込んだんだ。
僕たちの街を救ってくれるヒーローなんだと、本気でそう思って、手厚くもてなした。
それがまさか、あんなことになるなんて。
あのときに戻れるのなら、街に招き入れた自分を引っ叩いて、その男を海に突き落としてでも追い出してやる。
あの男、ロード・アシュリーさえこの街にこなければ、僕たちはこんな目には遭っていないだから。
「いい眺めだ。実にいい眺めだよ、愚民ども。お前たちには今のワタシの気持ちはわかるまいな。鎖で繋がれた反乱分子を肴に、高級ワインを味わうこの至福!なんとも憐れな、弱き者たちよ。」
そう言ってガハハハッと下品に笑いながら、悪徳大臣ベルモンドは高級ワインを飲み干した。
「なあ、貴殿もそう思わんか。孤高の旅人、ロード殿よ。」
僕たちは改めて嫌悪と軽蔑を込めてその男を睨んだ。ベルモンドの反対側で、大皿に盛られた豪華な料理をがっついているその男を。
「んあ? あー。そうですねぇ。大臣様に逆らう不埒どもですから、見世物になってるくらいが分相応でしょうなぁ。」
「ガハハハッ!さすが話の分かるお方だ!こやつら反乱分子を捕らえられたのも貴殿のおかげというもの。どうぞ遠慮などなさらず、存分に召し上がられよ!」
「あ、そう?そんじゃま、遠慮なくー!」
まるで気に病む様子もなくベルモンドと食卓につくその男に耐えかねて僕は叫んだ。
「おいお前!お前のせいでこんなことになってんだぞ!よく俺たちの前で飯なんか食ってられるな!なんとも思わないのかよ!」
「黙れ!!」
ごつい鎧を着た憲兵に殴られて鎖で繋がった腕がじゃらりと鳴った。くそう!痛い!
「人の悪口を言うのは感心しないぜ。俺は俺の好きなことをしたまでだ。」
大皿を持ち上げてパスタをかき込む姿に腸が煮えくり返りそうになる。
「俺の好きなことは・・・」
骨付きの顔ほどもあるごつい竜肉をがぶりと噛み切り、口の横についた肉汁を舌で舐めとる。なんて豪快で、大胆なんだ。
「人を困らせることだって言っただろ。」
その場にいる人間のすべてが虜になるようなその男の魅力。ああそうだ。この豪快さと、どこまでも一途なその素直さに、僕は嫌というほど魅了されてしまっている。今の状況を作った張本人だというのに、この腹立たしい気持ちは本物なのに、それと同じか、それ以上に!
この男を、かっこいいと思ってしまう僕が、確かに存在しているんだ。




