他力本願には我関せず
ものの数秒で、傭兵達を葬り去り、更には王女殿下まで救った蓮慈は、王女殿下にいたく気に入られた。
王女様曰く、強力な数々の技量を所有し、悪人を嫌い血の制裁を加えていくその姿が、お伽噺に出てくる暗黒騎士と重なってしまったとか。
そんな話を蓮慈本人に頬を紅くさせながら申告してきた王女殿下は、かなり図太い神経をお持ちなのではっと蓮慈はニアと顔を合わせた。ニア曰く、「激しい妄想癖あり」との事。
そんな王女殿下を隅に置き、蓮慈は自身の怪力で横倒しになっている馬車を起こし、その車輪を轍に収める。その姿を王女殿下が息を荒くしてみていたが、近衛騎士の皆様が無視を決め込んでいたので蓮慈もそれに習った。
王女殿下一行が使っていた馬車は、四つの車両が連結されて出来ており、馬車というより小型の電車を思わせる。中は、車両の内一つは、王女殿下専用車室になっており、内装外装ともに豪華な作りだった。他の三つは、騎士達の詰所と簡易の厨房と食料品等の倉庫だった。
まぁ、横転したお陰で中はぐちゃぐちゃに荒れているが。
蓮慈が馬車を直している間に、ニアと共に二人の騎士が森へ入り、馬を連れてきた。脚が四本ではなく六本あったが、彼女達曰く普通の馬らしい。
さて、六足の馬二頭に馬車を牽引させて再び馬車は動き出した。蓮慈もちゃっかり同乗したのだが、王女殿下に腕を引っ張られ専用車両に乗せられている。正直、騎士達と同じ車両が良かった。
「………へぇ、全然揺れないんだな」
蓮慈がこの馬車に搭乗して最初に感心した事は、まったく走行中の揺れを感じない事だった。自動車よりも揺れを感じないっというか、揺れがない。
「ふふっ、凄いでしょう?全車両に衝撃緩和の刻印型術式が刻まれているのよ」
っと何故か誇らしげな王女殿下に、えぇそうですねぇーっと適当に返しながら蓮慈はこっそり『数秘術式』を発動し、この馬車全体の仕組みを解析していた。
しかし、その解析作業ももの数分と掛からない。元々『数秘術式』は森羅万象その全てを数字という概念に置き換え、観測干渉をする力である為、現物のモノを解析するなど造作もない事だ。
それにしても、魔法とは偉大なものだっと蓮慈は思う。どうやら、この世界に於ける魔法は全ての人が等しく扱えるモノではないらしく、『魔力操作』や『術式展開』などの補助技量持ちが何年か修行して扱える様になるモノらしい。勿論、持っていない者でも要領が良ければ少しばかり使える様になるが、そういう者は努力の末に後天的に技量が発現するようだ。
つまり、技量を取得出来なければ、如何なる努力をした事で魔法は使えないどころか、魔力を認識する事すら出来ない場合があるというのだ。
しかし、生き物は生まれながらに等しく魔力を内包しているっというのだから、驚きだ。魔力を持って生まれているのに、それを活用する術がないとは………、悲しい話だ。
それでも、とある偉大な魔術師が編み出した『刻印型術式』という技術により、特定の魔術刻印つまりは魔法陣を刻む事で誰でも魔法を使えるようになったとか。何処の世界でも技術とは偉大なものだ。
蓮慈は王女殿下と騎士達に、冒険者を目指し上京してきた田舎者っという設定で自己紹介をし、彼女達に教えを請う形で情報収集を行っている。
その中ではやり言うか予測済みというか、この世界の人類は、世界の覇権を魔人と呼ばれる蛮族と争っているらしい。
世界の西側を魔族が、反対に東側を人類が治めているらしい。魔族はその名前の通り、その種族全員が魔法を扱え圧倒的な火力を持ち、人口自体は少ないらしい。でも、寿命が長いとか。
対して、人類はその数が圧倒的に多く、百人に一人程度の割合で優秀な魔術師の才能を持つ者がいるらしい。
そんなお陰で、両種族は上手く均衡を保っていた。だが、魔族に強大な力を有した『魔王』を名乗る者が台頭し、若干人類の勢力は押されている。今は、魔王に対抗できる伝説上の存在である『勇者』生誕を待っているような状態だ。
そして、かのセイドリッヒ王国は、人類と魔族の戦争の最前線に国土を置く、人類の防衛の要らしい。故に、他の国家に比べ軍隊は多く、多くの者が冒険者ギルドに加盟している。
やっぱり俺が喚ばれたのは魔王討伐の為なのかな?と蓮慈は思いつつも、逆に魔族側に人類殲滅の為に喚ばれた可能性もあるなっと考え、しばらくは人類対魔族の抗争には関わらないようにしようっと結論を出す。
自分は地球に帰る方法を探すことに専念し、異世界の問題は異世界人だけで解決してくれっと蓮慈は我関せずの方針で我が道を行く事にした。