一件落着
蓮慈本人も、流石にここまで血生臭さには慣れていないのでオエップとしながら、顔色を少し悪くする。王女殿下なんかは既に気を失っている。いい御身分である。
「えー、助太刀感謝する。私はセイドリッヒ王国国家騎士団王宮配属王室近衛騎士第〇三小隊副隊長ニア・ホワイトルーレだ」
「うん。長いよ、長過ぎる良く言えたね」
その余りにも長い名称を一度も区切ることなく言い切るニアに、蓮慈は素直に称賛してしまった。
「たまたまでもないけど、通り掛かったから助けに入ったけど問題無かったかな?」
その言葉にニアは思わず、言葉を詰まらせる。蓮慈の描いた地獄絵図を見ながら。死屍累々の展示会でも開催できそうくらい酷い。しかも、何れも無造作ながら芸術性を感じなくない死体の形をしているのが質が悪い。
「問題しかない様な気もするが、まあ良いだろう。しっかり、三人だけは息がある様だしな」
蓮慈の足元には四肢を砕かれ悶絶する芋虫の様な傭兵が三人程転がっている。ご丁寧に、舌を噛まない様にと騒ぎ出さない様に、何処から持ってきたのか猿轡が装着されている。
「すいません、手加減が下手癖なんで」
「いや、確実に三人以外殺す気だったろうが」
蓮慈が愛想笑いで大嘘を吐くので、ニアは思わず突っ込んでしまった。その反応に蓮慈は、はははっと声を張って笑ってみせる。
恐らく、敵に対しては一切の温情を与えないタイプだが身内等には優しいタイプだなっと蓮慈の性格分析をするニアだった。半分正解半分外れっと言ったところか。
「ところで、ホワイトルーレさん」
「ニアで構わない」
「えぇ、分かりましたニアさん。あ、一応俺は黒峰蓮慈っていいます。………いや、レンジ・クロミネの方が良いのかな?」
そう言えば、極東の国は家名を先に名乗る国があったなっとニアは思い出す。恐らく、このレンジ・クロミネという男はそこの出身なのだろうっと。勿論、全然違う。
「隊長さんはどちらですか?それらしい人が見えないんですが??」
蓮慈のその言葉に、ニアは引っ掛かった。
そうだ、この緊急事態に隊長からの指示がない。それなりの優秀な隊長だ。何の指示もないのは───、
「きゃあぁああっ!」
その時、少女の高い叫び声が上がる。何事かっとニアが声の上がった方を見ると、王女殿下の首元にナイフを当てる小隊長の姿があった。
ニアは予想だにしていなかった事態に一瞬硬直したが、すぐに腰にある剣に手を当てる。
「小隊長殿っ!何のつもりですかっ!!」
「黙れ小娘がっ!良いかっ、王女の命が惜しければ誰も動くなっ!!」
小隊長の騎士が周囲の騎士を威嚇すると、三人の騎士が抜刀して小隊長側に着く。蓮慈はと言うと呑気に、アイツらが内通者かっとボーっと四人の騎士を眺めていた。今は行動を起こす気はないらしい。
「おいっ、ニア。貴様はすぐに武装を解除しろ!油断ならんからなっ」
王女を盾に取られては、ニアも素直に言うことを聞くしかなく、ギリッと歯を噛み締めると剣を投げ捨てる。放物線を描いてガシャンと金属音を起てて落下する剣を、蓮慈はボーっと眺めている。というか、芋虫状態の傭兵の上に容赦なく腰を下ろして寛いでいる。
「何でお前、寛いでるんだっ!状況分かってんのかっ!!」
そこへようやく、反逆者である小隊長の激が飛ぶ。それでも蓮慈は、え?俺ですか?っとおどけてみせ、小隊長を煽る。
「き、貴様ぁ!!馬鹿にしおってぇ!!!」
緊張状態だったのと、蓮慈が煽ったのが功を成したのか、王女の首に突き立てられていたナイフが蓮慈の方を向いた。
次の瞬間、蓮慈の姿は消え、変わりに蓮慈が座っていた芋虫の上に王女殿下が座っていた。
そして、抜刀していた三人の裏切り者の騎士は、その鎧ごとひしゃげて潰れており、小隊長は両手両足があらぬ方向にネジ曲がり、口に猿轡がされていた。
「ふぅー、一件落着だね」
陽気な蓮慈に王女殿下もニアも、何とも言えない表情のまま固まった。