正しく、天職
パァン!パパァン!パァンッパァン!!
蓮慈がなんやかんやで魔族との初邂逅を済ませて、サクっと飛行魔法を習得しながら四天王の一人をぶっ殺していた頃、ラウルは独特なリズムで『クロトシロ』から火を吹かせていた。
上位種にあたる魔物ですら一撃必殺の弾丸を放つ『シュヴルツリヒト』と『ヴァイスナハト』、もとい『クロトシロ』は蓮慈作の魔改造ハンドキャノンである。
他にも蓮慈が創った武装はあるが、『クロトシロ』以外の魔改造兵器である、散弾銃『レーゲングス・ブライ』、対物ライフル『シュピラール・シュトラーレィ』、無反動砲『オスカー』、六連装グレネードランチャー『エヒト・フリーデン』は、全てラウルが弾薬とともに厳重な保管をしている。
不測の事態や窮地に陥る事があれば扱うが、基本的には常時取扱禁止としている。
どの武器も威力が高過ぎる為にラウル並の命中率がある者が扱えば、必ず相手が木端微塵に吹き飛ぶ。特に、対物ライフルや無反動砲辺りは使用の度に地理情報を上書きするような破壊力があるので、数百万の軍隊やそれこそ魔王並の相手でなければ使う事はないだろう。
正直な話、魔王でも『クロトシロ』があれば倒せそうだとラウルは思っている。直接魔王と相対した事は勿論ないが、詠唱や魔力消費が必要なく、優に音速を超える速度で世界最高硬度の弾丸を射ち出す兵器なのだ。しかも、連射が可能というのだから、幾ら魔王でも対応出来るとは思えない。
いとも容易く打倒魔王を達成出来る兵器だが、ラウルはそれを実行する事はない。ラウルは別に魔王に対して絶対的敵視の念を抱いている訳ではないし、魔王本人から直接的な害を与えられた訳ではない。
確かに、全人類と全面戦争をしている魔族の王ではあるが、今のところはラウルにとっては無害な存在なのだ。故に、他国の王様をどうこうしようっなんて考えは持っていない。
勿論、出来れば遭遇したくないし、関わりたくもない。正直、彼女にとって魔王は力の物差しではあるが、無関心な存在なのだ。
むしろ最近は、人間も魔族も魔王どうこうや神様どうこうっと主張する前に、隠れた絶対強者の存在に意識を向けるべきだとラウルは思っている。
居るかどうかも知れない天上の存在である神様や、世界の半分を手中に収める魔王よりも、未だ世界の最果てで不動を貫く竜人族の長である千年大皇や、地下深くで永い眠りつく神代の化け物『原始の魔物』に目を配るべきである。
もしくは、黒髪黒眼の非常識人であるレンジ・クロミネ。
彼が実は魔王だったり、『原始の魔物』だったっと言われてもラウルは驚かない。むしろ、その程度の存在だったのか!と逆に驚くかも知れないが神様だったり、異世界人だったとしても驚くことはない。
それこそ、神様ならあの理不尽な力と俗物に対する非常識的な所に納得がいくっというものだ。
また、蓮慈に渡された数々の魔改造兵器も、神々が持つ神器だと言われれば、これも納得する破壊力だろう。
千年大皇にしろ『原始の魔物』にしろレンジ・クロミネと彼の持つ兵器にしろ、どれも強大無比な絶対的な存在であり、即座に地上の生物を殲滅する事ができる存在でなのだ。
だが、かの者達は誰にも警戒されていない。
千年大皇は竜人族と共に世界最大の山脈で仙人のように引きこもりをしているし、『原始の魔物』は神代末期の神話大戦の時からいつまでも寝坊助さん状態である。
そして、レンジ・クロミネのみが活動していた。だが、最近になって何故か自分から弱体化し始めたのだ。まあ、弱体化しても魔王並又はそれ以上の脅威になりうるのが恐ろしく思うところだ。
しかも、この弱体化は本人の意思ですぐに解除できるらしいので、弱体化というよりも単に手加減をしているのと変わらない為、彼の脅威に正直なところ変化はない。
「一体何がしたいんでしょうかっ?」
意味のない弱体化っという愚行にラウルも頭を傾げるが、弱体化をしても十分過ぎるほど強いので、特に何も言わなかった。
それでも、弱体化したからっといってポンポン神器並の兵器を出されては堪ったものではない。
現に、こんな事を考えながらも射撃と体術を合わせた斬新な戦闘スタイル(蓮慈曰く『ガン=カタ』擬き)を駆使すれば、ラウルの周囲にはゴミの山の如く魔物の死骸が積み上がっていく。
しかも、悲しい事に被弾して死んでいった魔物は、ことごとくその体をバラバラに弾け飛ばさせる。勿論、魔物がわざとバラバラになって死んでいく訳ではない。単純に、『クロトシロ』の破壊力に魔物達の体が耐えられなかった結果だ。
既に、一番威力の低い『クロトシロ』でもオーバーキル状態なのである。正直、他の武器は要らないのでは?っと思うのだが、蓮慈に「御守り程度に」っと無理矢理渡されてしまい、危険物過ぎて容易に手放したり、捨てる事も出来ない。
まあ、人の出来が蓮慈よりも遥かに良いラウルなので、捨てられるモノでも不要だからと言って矢鱈無暗に捨てたりはしない。代わりに全てお蔵送りだ。
最早、ここら一帯に生息する魔物ではラウルの相手にならない。勿論、『クロトシロ』というチート武器があっての話だが、ラウル個人のステイタスも大幅に上昇しているので、それなりの怪我を覚悟で挑めばこの辺りの魔物には負けないだけの実力がある。
「………まさか、他人のステイタスを弄れるなんて事は……」
幾ら彼が非常識だとは言え、あんまりな言い掛かりだと思える言葉だ。
確かに、蓮慈の力を用いれば生物の肉体構成を変化させて肉体改造が可能だが、ラウルの超人的成長率は彼女自身の由来のモノだ。
確かに、ちょっと弄ってあげようかっと思い、彼女の身体能力を勝手に覗き、なんか知らぬ間にか大幅に上がっているし、砲撃師なる天職になっているし、明らかに火器関連の技量に目覚めていたりっと蓮慈は大変驚かされたのはつい最近だが、決して手は加えていない。これだけは本当だ。
原因究明の為にいろいろと視察させて頂いたが、断じて触れてはいない。舐めるような視線を幼女に向けていたが、決して悪意があった訳ではない。ちょっとばかりの好奇心があっただけである。
故に、彼女の言葉は完全に言い掛かりなのだ。未遂で終わっているのだから。
「まぁ、クロミネ様も流石に人のステイタスを勝手に書き換えるほど非常識じゃありませんよねっ」
………。
ラウルは近寄ってくる魔物を淡々と撃ち殺し終えると、テキパキと解体に勤しむ。
身体能力が高くなったお陰で、百体近くあった魔物の死体はすぐに解体を終える事が出来た。ちなみに、解体用の道具も蓮慈が創った物に変わっている。
それらは大体のモノがミスリル製で出来ており、解体用の道具にミスリルを使うなんて聞いたことないラウルだったが、「………オリハルなんだよなぁ……」と苦笑い混じりに蓮慈は小声で呟いた。
一〇〇%オリハルコン製の高品質なナイフのお陰と、ラウル由来の経験と身体能力があれば、大した労力も掛からずに解体を終わらす事が出来るので、魔物狩りを続行する。
それを可能としているのは、彼女自身の身体能力の上昇や蓮慈作の魔改造兵器の恩恵もあるが、何よりもやはり『圧縮収納』があってこそだ。
彼女が生まれもった天性の技量があってこそ、長時間戦闘と連続戦闘が可能になっている。
いくら身体能力が上がろうと、その身体能力のみを使った戦術では消費する体力が馬鹿にならない。それこそ、蓮慈並の異様なっというか人外の膂力があれば問題ないだろうが、生憎とラウルは人間をやめるつもりはないし、いくら前代未聞の爆発的成長率とはいえ人間の領域にしっかりと収まるものだ。
例え、身体能力が人間の頂点に到達しようが、それのみを使う戦闘では正直な話、非効率である。それを改善っというか、より殺傷能力を高める為に武器を使う。鋭い爪や硬い鱗、柔軟な毛皮を持たない人間は、武器や盾を持ち鎧を身に纏い戦うのだ。
この世界の従来の武器は剣や槍、それから弓など。蓮慈からすれば何れも歴史を一回りも二回りも時代錯誤した様な原始的なモノである。
刃物などは硬いモノを切れば、欠けたり歪んだりするし、大量の血が付着してヌメりを持てば切れなくなってしまう。
原始的な武器でも、生身よりは効率性は高まるが、時と場合によっては、むしろ逆効果になる事もありうるのだ。
そういった意味で考えるならば、蓮慈から貰った銃器たちはどれも非常に、殺傷に適した武器だと言える。
蓮慈の能力で創られたかの兵器たちは、どれもがベースとなった兵器たちよりもその性能を上回っている。攻撃面しかり耐久面しかり、安全性しかりである。
この異世界に存在するどの武器よりも、力、速度、距離を有している。近接武器よりも遥かに破壊力があり、弓矢よりも遥かに遠くに届き、音を置き去りにいく。
だが、欠点としてあがるのが蓮慈が創った武器、銃器には弾薬という使い捨ての付属品が必要になる事だ。しかも、扱う銃器によって弾薬が異なるのも問題である。
拳銃と散弾銃、それから対物ライフルの弾薬ならば小さい方だが、各種百発くらい持てば嵩張るのは当たり前だ。小さいとはいえ、素材の大部分が金属なので、大きさの割りに意外と重たい。
それに、必ずしも発射した弾丸が相手に当たる訳ではない。むしろ、素人が扱えば外す事の方が多いのだ。蓮慈のような奇跡的な外し方や、ラウルのような先天的な才能を持つ者は圧倒的に少数である。
故に、持ち運んだ全ての弾薬を有効に使える訳ではない。つまり、自然と持ち込む量が増えて、嵩張るし重くなるしっと運搬するのに厄介な特性のある武器だといえる。まあ、弓矢も似たようなモノだが、矢は再利用出来るし、完全な木製の矢ならば比較的に簡単に調達出来る。
使用者の卓越した銃撃能力しかり、しっかりと物資を持ち込まなければ、そもそも使用もままならない銃器。故に、一個人でこれらの武器を扱うのに、『圧縮収納』ほど優れた技量はないだろう。
大量の弾薬を費用として消費する銃器に対して、個人で数百人分の持ち物を携帯できる彼女は、まさしく相性バッチリだった訳である。
それでも、蓮慈のような天才的射撃能力を持つ者に弾薬を支給するなら、『圧縮収納』では圧倒的に物足りない。「数打ちゃ当たる」という考えで次から次へ連射あるいは乱射されて撃たれると直ぐに弾薬は尽きてしまう。
やはり、彼女自身の生まれもった才能と培った実力あってこそ、長時間かつ連続的な戦闘を可能にしているのだろう。