強大無比
はあぁぁぁ~~~………。と肺の底から長い溜め息を吐き出しながら、蓮慈は顔を上げる。正直、自己能力の結果がほぼ[error]という表示に絶望している。
すると、【0010110111………】っと真っ赤な数列が並んでいき続いて、
【∀[La-terre]⊇SA[????]≧χ[δ.ζ.η.ξ]
SA[????]の過剰数値がχ値の許容範囲外にあります。
過剰数値をχ値に適合しますか?『yes/no』
尚、この行為を執行した場合、χ値製作者に感知される恐れがあります。
又は、別の存在値を作製しますか?『yes/no』】
「…………意味分からん」
蓮慈は一時間程、この意味不明な文章と格闘をする羽目になる。
この文章は、黒峰蓮慈っという人間が異世界の理に適合していない部分があるっと教えてくれているもので、適合出来ていない部分を無理矢理適合させるか、それとも、黒峰蓮慈っという定義を認識できる新しい規格を作るかっと申しているのだ。
「全部ノーだ、ノー」
【執行中のシステムを停止します。
自己定義が不明。能力顕示が不可。自己存在が未明。
代用とし、『数秘術式』より自己概念を算出、過剰数値を『空論教典』によって定義し、結果を『数秘術式』により顕示。
適合完了。自己顕現に成功。安定値は正常に保たれています。】
「俺にも分かるようにしてくれよ」
勝手に訳の分からない処理を始め、それに成功している謎のプログラム|(?)に蓮慈はイライラしはじめる。
【命令を受託。自己概念からの情報を参照。変換ちゅ───
『───あぁ、やっと繋がったか』
それは、黒峰蓮慈自分自身と同じ声だった。
「誰だ、お前?」
『誰も何も、お前自身さ。お前の人格のコピーだよ』
成る程。つまり、自分の要望通りにプログラム擬きは、俺自身が最も理解できる形なった訳だっと蓮慈は納得する。
『っと言っても、黒峰蓮慈の記憶情報が根源になってるから、お前が最初っから知らない事は知らないし、説明できない事はできないんだけどなぁ』
「ふーん、使えないな」
『お前の頭が悪いせいだ』
「ムカつく奴だなぁ。で?何が起こったんだよ??」
『なぁーに、この世界に於ける黒峰蓮慈の存在が不安定だったから、お前自身の技量で固定しただけだ』
「へぇーそうなんだ。【自己分析】」
蓮慈は再び自己能力を呼び出すが、差し示される内容に変化はなかった。相変わらず、[error]の多い自己能力だ。
「………変わってないけど?」
『だから、不安定だったモノを固定しただけだ。自己能力を表す真理からお前は外れたままなんだよ』
「自己能力分かんないのかよ」
『数値が分からないだけで、上昇とかはするから心配しなくていいぞ。技量が見れれば問題ないだろう?』
蓮慈の技量は二つ。『数秘術式』と『空論教典』だ。
少なくとも、どちらも強大な力を秘めているのだろう。世界の真理から逸脱していた蓮慈を、固定できてしまうのだから。
『『数秘術式』。森羅万象を数字という概念で観測し、それらを謄写する事で、現象を顕現する技量。
『空論教典』。自己空想を既存事象として定義し、概念記録を改竄する事で、定義を現実にする技量。
まぁ、もっと簡単にいうなら、『数秘術式』は記憶にある現象を再現する力で、『空論教典』は妄想を創造する力だな』
「チート過ぎやしません?」
『まぁそうだな。思い付く事は何でも出来る力だからなぁ』
しかし、有り難い事だと思い、蓮慈はほそく笑う。
さっそく、技量を試してみる。『空論教典』を使い、飲み物を創造してみる。特に細かい事は考えずに、ペットボトルに入った水を思い浮かべる。
すると、感覚的に理解出来た。
中身である水は『数秘術式』によって創られ、容器であるペットボトルは『空論教典』により生成された。
蓮慈の目の前に突如として現れた水入りペットボトルは、重力に引っ張られ、ポトッと地面に転がる。落ちる前に掴み取る事は可能だったが、蓮慈はそれをせずにペットボトルを観察し、自身の技量二つについて考察する。
「………水つまり、化学式『HOH』を俺は知っていたから、水は『数秘術式』で創られて、ペットボトルが何で出来ているか知らなかったから、ペットボトルは『空論教典』で創られたのか」
流石に、蓮慈もペットボトルは合成樹脂の一種であるポリエチレンテレフタラートなどから作られているのは知っているが、化学式など覚えている筈はない。
しかし、そんな事より、より素晴らしい事が分かった。この二つの技量、代償の支払いが存在しないのだ。
これは意識して技量を発動した今、感覚的に理解出来た事の一つだ。
『黒峰蓮慈氏、御満悦かね?』
「ぁあ、とっっってもイイ気分だっ!」
思わず、口元が緩んでしまうのが、意識できているのにやめられる気がしない。一種の陶酔感だ。圧倒的な力を突如として手に入れた事に酔いしれている。
「……………ん?つか、この力で帰れるんじゃないか?」
『それは無理だな。流石に、『数秘術式』と『空論教典』でも世界軸の移動は難しい。この世界の次元軸から移動は出来ても、元いた世界の次元軸が分からなければ正確な帰還は不可能だ』
「なんだ、無理なのか」
一気に陶酔感から醒めた蓮慈は若干気分を落とす。そして冷静になって、どうして帰りたいのだろう?っと思うのであった。
強大な二つの技量によって、生活には困らない暮らしが出来るし、此方の世界なら技量を普通に使っても問題ないだろう。地球で技量なんて使ったところを見られた日には、大事になるに決まっている。
では何故、生き難い彼方側に帰りたいっと思ったのか?
蓮慈は自分自身に頭を傾げるのだった。