それは優しさ?
ニアとは適当に世間話を続け、ラウルが戻ってくると「学校に行こうよっ」から始まり、事の顛末を伝えた蓮慈。
ラウルは初めは断ろうとしたが、何故か蓮慈がやけにグイグイくるので、仕方無く折れた。本人も、確りとした教育機関には入った事が無かったので、これも今後の為かっと納得の折り合いを付けた。
ニアはラウルが条件を承諾してくれた事に歓喜し、卒業の暁には自分の名前で推薦状を認めるっと口約束ではあったが約束してくれた。
しかし、ラウルはそれついては丁重にお断りしました。
その後、ニアはとても嬉しそうに騎士達を連れて帰っていた。蓮慈とラウルはその後ろ姿を見送り、取り敢えず一息。
「………クロミネ様、王家と繋がりがあったんですね」
「う~ん、繋がりっていう程のものでもないよ。一回親切に助けたら、何か巻き込まれちゃった感じかな?」
蓮慈の実力を知ったら上流階級者はこぞって手駒にしたがるかっとラウルは納得する。
「大した事はしてないんだけどなあ」
「何をなさったんですか?」
「盗賊を三十人ばかり、素手でグシャっと。いや、バラバラにしたって方が正しいかな?」
「………素手で人間バラバラにする人間は居ませんよ普通っ。でも、クロミネ様は素手で剥ぎ取りしてましたね………貴方様の中ではそれが普通なんですか恐ろしいや」
「なははっ、まさか。でも、素手でやった方が早いからね」
武器を手に取らずとも、その拳で放つ一撃一撃が必殺の威力を持つ蓮慈は、最近はもっぱら素手で魔物狩りをする事が多い。
武器を使えば、素手を上回る爽快感を味わえる事もあるのだが、素手の方が何かと楽なのだ。
素手ならば、武器を創造する過程が要らないし、剥ぎ取りの際もそのままスムーズに行える。武器を持っていると、一度納刀してから剥ぎ取りを行わなければならない。
これは武器を持って戦うならば、当たり前の事で、抜刀納刀の時間を惜しむ様は人間は基本的に居ないだろう。
しかし、蓮慈は一度の依頼で狩る魔物の量が量なので、剥ぎ取りの時間を惜しむ様になり、かといって自分は数百体の魔物を殺し続けて剥ぎ取りはラウルに全て任せる様では、彼女への負担が馬鹿にならない。
なので、扱うことにあまり意味のない武器は捨て、素手になることで抜刀納刀の時間を無くし、その時間を剥ぎ取りへの時間へと変換する事にした。
勿論、全てのラウルにも剥ぎ取りはやって貰ってはいる。本当がやりたがるのと、彼女の有能さを腐らせない為にだ。
「まぁ、クロミネ様は技量で武器とかいろんな物を作れるみたいですけど………、確かに素手の方が早いですねっ」
「そうでしょ?俺が武器を使う利点なんて、リーチが伸びるくらいだし」
「武器程度で延長できる距離なんてクロミネ様なら、相手に認識される前に詰められますしね………」
「おぉっ、武器使う利点がマジで無いね俺」
楽しげに、にししっと笑う蓮慈にラウルは何とも意味深な表情を浮かべる。
蓮慈が初めて使った獲物、『破邪の御太刀(魔改造ver)』。あれも、掘削作業の道具としての割合が強かった。
その後の依頼で、蓮慈には近遠距離広範囲を問わず物理魔法攻撃に対する圧倒的な防御力と、種類を問わない毒性攻撃に対する無効果を有する技量がある事をラウルは知った。
その上、骨折だろうが部位破損だろうが、ものの数秒で完治する『自然治癒』がある。
この人、一体どうやったら死ねるんだろうっというが、ラウルの最近の悩みだ。もう寿命以外で死なない気がするっと彼女は思うのだが、それは蓮慈がその様に自己を改竄したのだから、そうでなくては彼としては困る。
「でも、そう考えるなら魔法もクロミネ様には不必要ですね。詠唱している時間があるなら、殴った方が早いですからっ」
「うん。だから、魔法を使える様になるつもりは無いんだ」
「えっ、そうだったんですか?」
「ぶっちゃけ、魔法と似たような現象なら技量を使えば難なく起こせるからね。ただ、魔法の中には俺の防御系の技量を突破してくるモノも存在するだろうし、防御も回避も許されない必中必殺のモノだってあるかも知れないだろう?」
「確かに、必中やら必殺やらの魔法はありますね」
「えっ、マジであるんだ………」
「はい、ありますよっ。まぁ流石に、両方の性質を兼ね揃えた魔法は知りませんけど」
予想していたとはいえ、必中あるいは必殺の魔法の存在がある事をラウルから聞かされて蓮慈の肝が冷える。自分に生命の危機を与える存在は、蓮慈にとっては特に恐怖的なモノである。
「そういう俺の知らない魔法を確りと学んでおきたいんだ。っでラウルちゃんにはそれに巻き込まれてもらおうかと………」
例え、『絶対属性』が魔法の理に存在しようと、その存在を『数秘術式』で解析してしまえば、後はどうにでもなる。『数秘術式』でも『空論教典』でも、又はその両方を併用してその理をねじ曲げるなり消し去るなり、或いは対なる新たな真理を創ってしまえば良いのだから。
「まぁ、学校に通えるなんて夢の様ですから、全然構いません。むしろ、ありがとうございますっ」
「うん、そう言ってもらえると気も晴れるよ」
「………ただ」
「ただ?」
「派手に常識破りな事は控えて下さいねっ。私、イジメられてしまいそうです」
「うん。ちょっと二、三個突っ込みたいんだけど………、まぁ良いや」
俺の事を何だと思ってるの?
なんで俺が問題起こすとラウルちゃんがイジメられるの?
ラウルちゃんイジメる奴なんていないよ?だって、居なくなるもん。
蓮慈はその三つを突っ込みたかったが、ぐっと我慢しておく。
「ところで、ラウルちゃんは魔法の才能あるの?」
「一応は、ありますねっ。ステイタスには技量として上がって来ませんが」
ラウルの自己能力には、魔法の才能どうこうをいった技量の記述はない。
しかし、それは魔法に対する才能が皆無っという訳ではなく、先天的に生物が有する平均的な才能しかないからだ。ある一定以上の才能があれば、技量として確りと現れるようになる。
ちなみに、ラウルの自己能力を確りと明記するとこうなる。
【ラウル 女 十歳
天職:=無し
ATK:=150
DEF:=100
MAT:=120
MDE:=100
AGI:=350
技量:=『圧縮収納』】
これもちなみにの話だが、蓮慈が使った【自己分析】は『数秘術式』の恩恵である。
本来ならば、この世界の一般の人々は自ら神殿に赴き、神々を催した石像に祈りを捧げなければ自己能力を見る事は出来ない(献金という名の使用料有り。価格は一万円ほど)。
しかしそれでも大雑把なことしか分からず、名前や性別さらには年齢は出てこない。故に、ラウルは自身の身体能力は知っているが、本能の実年齢を知らない。幸いにも、予測年齢と一致はしているが。
勿論、蓮慈は初めはそんな事を知らず、四日程前にラウルに教えてもった。その時はラウルも大変驚いていたが「クロミネ様ですもんねっ!」と元気よく納得された。
「クロミネ様は魔法の才能ありましたよねっ。使ってましたし」
「う、うん、そだね」
蓮慈は思わず、歯切れの悪い返しをした。
あれは、魔法モドキであって、本来の魔法ではない。だが、蓮慈には魔法の才能はある。才能があるっというより、その技量を『数秘術式』で創っただけなのだが。
そう思えばっと蓮慈はある事に気が付く。
自分はこの世界に来てから、ただ一度として苦労っというか、辛いっと思える努力をしていないなあっと。
二つの超絶的な技量に頼り、何の努力も苦労もなく強力な技量を創造するだけ。
この世界に来てから、一度たりとも自己鍛練に労力を注ぎ込んでいない。強いて言うなら、それこそ「ぼくのかんがえたさいきょうの『自己能力』」を考えて創造しただけだ。
しかし、それは言ってしまえば妄想であり、肉体的な努力など一切していない。確かに、何かを必死に考える事や、その頭脳で思考を回す事が努力ではないっとは言わないが、何とも言えない儚さがある。
きっと、それは達成感が無いからなのだろうっと蓮慈は仮定する。あと、間近に凄い努力を重ねてその優秀さが目に余るラウルが居るからなのだろうっと思っている。
まあ、何が言いたいかというと、
(ラウルちゃんが優秀さに心が痛い。その有能さが眩しいよ!)
高校生サイコパス、幼女冒険者に心打たれる。と言ったところだろうか。
本当に、ラウルが関わると事ある事に、不機嫌なったり絶賛したりっと本当にロリコンを疑われそうな蓮慈だが、彼は気に入ったモノに対しては必ず同じような心理状態になる。
決して、ロリコンではなく、これがデフォルトである。
その利点や利益、利便性を認めて気に入れば、例え相手が十年年下だろうが同い年だろうが遥か年上だろうが、それに危害を為すモノには許さず、逆に事ある事に相手を誉めちぎって勝手に評価を上昇させていく。
そう今回の様に!
「まあ、お互いに頑張ってさ、卒業までには技量に魔法関連のモノが出るようにしよう」
「そうですねっ。折角、クロミネ様が用意してくれたチャンスをふいにしない様に、私全力頑張りますよ!」
蓮慈に満面の笑みで頑張ります宣言をするラウル。その満面の笑みは誰が見ても歓喜に満ち溢れており、思わずほっこりしてしまう様な輝きを放っていた。
けど、蓮慈にはその輝きは射す事はなく、ただいつもの笑顔を彼女に返すのだった。
「まぁ最悪、無理にでも『数秘術式』で書き足すけど」っと、その決意を踏みにじる様な事を考えながら。