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条件




 ニアの口から出た言葉は、蓮慈には想定の範囲のもの、というか想定のど真ん中を狙ったかの様に貫くようなものだった。


 蓮慈から言わせれば、あまりにお粗末な結果だ。

 だがまあ、それならば用意していた答えを返すだけなので、ありがたいっと言えばありがたいの事なのだが。



「………まぁ、予想はしてるだろうけど、断るよ」


「そうか」



 先ず、セイドリッヒ王国の国情なんてこれっぽっちも興味ないし、魔王軍対全人類の戦争にも興味がない。むしろ、この異世界の情勢など知った事ではない。


 ただ、唯一気掛かりになってしまうモノがあった。それが、ラウルだった。彼女を害するモノの存在は、蓮慈には容認できない。それをほったらかしにして、地球に帰る事は認められなかった。


 故に、彼女が生きやすいように、この世界を出来るだけ変えようかっとは思っている。それが世界の真理をねじ曲げる様な事でも、『数秘術式』と『空論教典(ドグマ・テオリア)』を持つ蓮慈ならば可能の筈だ。


 ただ、未だ地球への帰還方法が見付からないのと同様に、現在の蓮慈には世界そのモノの概念や真理の改竄は出来なかった。蓮慈の持つ技量(アビリティ)ならば、出来ない事はない筈なのだが幾ら試みても成功する気配が無い。


 恐らくは、出力不足(スペックオーバー)か、何かしらの中継(プロセス)が必要なのだろうっと蓮慈は予測している。確かに、如何に強大な技量(アビリティ)とはいえ、無秩序無制限に世界そのモノを改変出来てたまるかっという話である。



 セイドリッヒ王国の事など元より興味はないが、それ以上に、むしろ地球への帰還以上に、今はラウルの待遇改善が蓮慈のあらゆる行動の動機を成っている。


 正直な話、毎日阿保の様に荒稼ぎするのも、配当金で六割を押し付ける事でラウルの懐を暖かくしてやるのが目的だったりするくらいだ。


 ラウルの待遇改善の一環として、先ずは夢のない冒険者特有のお財布事情から解決すべく、蓮慈は冒険者業を続けている。ぶっちゃけ、ラウルの件さえ無ければ冒険者になったのは身分証明の為なので、冒険者として働くつもりなのど毛頭無かった。



 何にしろ、蓮慈は現在、ロリコン呼ばわりされても仕方無いような動機を基準に動いているので、セイドリッヒ王国の事には興味関心が無かった。


 まあ、ラウルの待遇向上の為に、何にかしらの功績を立てて自分の代わりにラウルに褒美をやる等と言った事も考えたが、第一王女が易々と暗殺されかける内部情勢であるから、逆に変な事件に巻き込まれかねない。無論、それでは全く意味がない。


 現状のセイドリッヒ王国では正直なところ、ラウルの待遇向上ないし改善はあまり望めない。


 冒険者加盟連合会には彼女の等級を無理矢理を上げさせたのだが、加盟連合会は中々に物分かりがよろしかった。



「………まぁ一応理由をあげると、セイドリッヒ王国の泥々した現状に首を突っ込みたくないってのが一番かな」


「むむぅ、まあ確かにその通りではあるな」



 蓮慈の思考回路や動機が分からないニアでも、その言葉には同意してしまう。


 蓮慈のような俗物に無頓着な幼女嗜好(ロリコン)ではなく、自己顕示欲や金欲に煩い守銭奴ならば王族や貴族と関係を持てるチャンスを逃がさないが、蓮慈は自己顕示どころか目立たない様にしたいし上流階級に癒着せずとも毎日大金を稼ぐのだ。


 御恩と奉公の様な互恵的関係どころか、金銭面では蓮慈の稼ぎは減ってしまうのだから、互恵的利他主義では彼から奉公を施してもらう事は出来ない。


 金銭による関係は最初っなら破綻しているし、自己顕示欲も無いので爵位にも興味を示さない。もしかしたら、領地なら欲しがるのでは?と思うが、領地経営と冒険者業ならば後者の方が圧倒的に楽だっと語る元冒険者の領主は腐るほど居る事を皆知っている。


 ならばっと下手に権力などで圧力を加えて、無理矢理従わせようものなら血を見るのは明らかだろうし、そうなれば彼を止められるものはない。相手が一族一党皆死に絶えるまで、蓮慈は徹底的に交戦をするだろう。



 ───レンジ・クロミネとの敵対はセイドリッヒ王国、ひいては人類の滅亡に直結する。

 ───故に、あらゆる手段を講じて、レンジ・クロミネを制御しなくてはならない。あれは、人の形をした人外である。



 ニアは、第一王女(・・・・)からそう告げられて今日ここに来ているのだ。


 第一王女は決して、お伽噺を夢見る浮かれた少女っというだけではない。他者の心理状態や表情を読む能力ならば、ラウルを上回り、他者を欺き嘘を吐く能力ならば、蓮慈と同等である。


 第一王女は、蓮慈と出会い、彼と話す間にその心理を理解してしまったのだ。否、理解ではない。むしろその逆だ。普通の人間に彼らの様な異常者(サイコパス)を理解出来る筈はない。

 理解できるのは、彼らの底無しの異常さだ。


 だが、その異常さが対魔王に役立つっと、同じ異常者同士をぶつけようっと第一王女は画策したのだ。


 異国民であり理解不能な異常者と、愛国心のある善良な自国民。どちらかを死地に送るっという二者択一なら、間違いなく前者だ。


 だが、蓮慈の事を気に入ったのも嘘ではない。駆け落ちっと口走ったのも本心だったりする。蓮慈の隣に立つ者には、絶対の安全と最大の自由が与えられるっと分かっていたから。

 そして、その隣に立つ条件が、彼に人情ではなく利益を与えられる者のみっという事も分かっている。それが自分なら可能であるのも分かっている。


 だが、そのやんごとなき血統が蓮慈に多大なる損害を与える事も予想出来ている。

 彼の横に立つ、あるいは懐柔するには、第一王女の能力だけでは、その王家の血統っというマイナス要因を払拭出来ない事も理解している。


 故に、それを払拭する為の条件を聞き出すように、第一王女はニア・ホワイトルーレに命令したのだ。



 しかし、緊張の中、ニアが蓋を開けてみれば、蓮慈曰く、セイドリッヒ王国の現在事態が大きなマイナス要因であるそうだ。


 ニア・ホワイトルーレは優秀な人材ではあるが、文官ではないので、蓮慈にそう言われてしまえばぐうの音も出ない。

 まあ、蓮慈もそれを分かっていた上で、そのように告げたのだが。



「これは、弱ったな。第一王女殿下からは、何としても感興籠絡してこいっと言われたのだが………、何分私の特技では無かったな」


「そりゃ、ニアさんは文官タイプじゃないもんね。飛びっきりの武官タイプだ」


「それは、誉めているのか?それとも、遠回しに馬鹿にしているのか?」


「なははっ、一応は誉めてますよ」



 蓮慈は既に、いつものっというか、普段の人懐こそうな愛想のいい表現に戻っており、張り詰めた空気はこの場から消えていた。


 蓮慈もニアも、これ以上懐柔どうこうの話をするつまりもはない。

 蓮慈にセイドリッヒ王国の現状を全否定した訳だし、ニアもそれを打開する案は浮かばない。浮かばないっというか、文官ではないので、提示できる代案は全て口約束になってしまう。


 もし仮に、蓮慈を納得させうる代案があっても、その口約束が実現出来なかったような事があれば、いくら口約束とはいえ、約束事は約束事である。それを違えるような事があれば、彼から怒りを買うことになる。


 ならば、ニアが考えうる不確定な代案をつらつらと挙げるべきではない。というか、そもそもなんで私が?っというのがニアの本音だ。


 まあ、そこは単純に、蓮慈と接点があり尚且つ第一王女の信用にたる人物が、ニアしか居なかったからだ。


 それと、第一王女はニアのその人間性に賭けたのだ。ニアは割りと喋りたがりだから、どうせポロっと内部情報を話すだろうっと第一王女は予想している。勿論、喜ばしい事ではないが。


 だが、そのポロっと出た情報が、彼の興味を引く内容だと第一王女は確信していた。



「ふーむ、頼みの綱のレンジ殿が無理となると、やはり学園への護衛は私が就くべきか」


「学園への護衛?」


「そうだ。前々からの話ではあったのだが、第一王女殿下を魔術学園に入れるようっという話があってな。この度の騒動もあり、一旦王宮を離れる事も兼ねて入学が決まったのだ」


「へぇー、それで護衛ねえ。………魔術学園って何するの?」


「いや、読んで字の如く、魔術を教える学園だ。内部に裏切り者が潜んでいた事もあり、国立ではなく私立に入るのだが」


「魔術学園ねぇー……………。もし、俺が護衛役に就いてたら、一緒に入学っていう形になったのかなあ?」



 蓮慈は興味ありげに腰を少し浮かせる。


 確かに、異世界系の物語では定番(テンプレ)な施設だ。文字通り、魔法魔術に関する勉学に励む学校。


 未だ、ちゃんとした魔法や魔術を使った事ない蓮慈は勿論興味が湧くし、そもそも元の世界に無かった未知の力、確りと勉強しておいて損はない。



「まぁ、そういう形になっていたな。一応、護衛は三人の予定で、一人は第一王女殿下と同じクラスに配属。もう一人は隣のクラスへ配属。あと一人は特別講師として配属する予定だったんだが」


「……………ふぅーん」



 学園生活内の護衛ならば、請け負っても構わないっと蓮慈は思う。

 まあ問題を挙げるなら、学園に通う様になるのだから冒険者業に間違いなく支障っというか、学業に時間を割かなければならないので、依頼を承ける回数は減ってしまうだろう。

 つまり、それは収入が少なくなるっという事であり、お財布事情改善というラウルへの施しも滞ってしまうっという事だ。


 更に、私立の学園に通うのだから、授業料などの出費もそれなりだろう。この世界での相場は分からないが、高額である事は間違いないだろう。



 収入は激減。それでも毎日数百万は稼げるだろうが。

 支払いは増加。これは最悪、必要経費で出してもらうかが。

 ラウルの待遇改善の停滞。これが一番問題である。



 しかし、蓮慈はここで閃く。

 ラウルさえ良ければ、彼女も一緒に入学させる事を条件に、護衛を引く請けてもいいのでは?っと。


 収入の激減は仕方無いとして、学費などの出費は必要経費で出してもらい、ラウルにはお財布事情改善は少し滞る形にはあるが、学園に通ってもらい高学歴っという履歴を作る機会を与える。


 蓮慈は中々悪くない案だと思った。問題は、ラウル本人が望むか望まないかだ。



「………相手方次第だけど、条件付きで第一王女の学園内での護衛を請け負っても良いよ」


「なに、本当かっ?」


「まぁ、相手方次第なんだけど」


「構わない、条件を言ってくれ!」


「先ず、俺の連れである冒険者ラウルの入学させる事。次に、俺とラウルの二名分の学園生活内での必要経費を全額負担する事。そんで、護衛のポジションは隣のクラスである事。取り敢えずは、この三つかなあ?」



 それを聞いたニアはコテンっと首を傾げる。



「そんなモノで構わないのか?」


「うん。まぁ、細かい事は他にもあるけど、ニアさんは文官じゃないから口約束になっちゃうだろうから、手始めにこの三つの条件を答えとして、第一王女様に伝えてもらっていい?」


「承知した。………しかし、問答無用で卒業証書贈呈式とかは望まないんだな」



 意外そうに言うニアに、蓮慈は思わず何言ってんだっと思いながら答える。



「いや、普通に学校って勉強する所だろ?確かに、学歴が欲しいだけでなあなあに通う奴もいるだろうけど、折角行くんだったら何か身に付けて帰ってこないとな」


「いや、君の事だから『授業の話なんて、実戦では役に戦い』『所詮は安全地帯から譫言』『机上より実地』なんて勤勉には、否定的な意見が出そうだと思ったんだが………」



 こいつ、俺を何だと思ってんだ?と蓮慈は思ったが、(はた)から見れば、確かにそう思われるかも知れないっと思い直す。


 正直、蓮慈は魔法や魔術など使わずに、高速移動や人のなりを超えた膂力を出す事が出来る。魔法や魔術を使うより、物理で殴った方がいろいろと早い。


 そんな印象から、物理重視の脳筋型だと思われていたのだろう。この話し合いも、話し合いではなく、ぶっちゃけ蓮慈が相手をただ脅した様なものだし。


 まさかとは思うが、挨拶がてらに肉体言語を執行する超平和的戦闘民族だと思われていないだろうか?っと蓮慈は若干不安になった。




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