ウェルカム トゥ フォレスト
光に包まれた後の、一瞬の暗転。そして、蓮慈の視界には深緑が広がった。
その生い茂る樹木一本一本が、力強く、根付き、自身をうねらせ大地を隆起させている。まるで、他の木から養分の奪い合いをするかの様に。それは天高く伸びる枝々も同じで、まるで制空権を争っている様にすら思える。
ここまで緑豊かな森は日本国内でもそうそう御目に掛かれないだろう。
「………なんでだよ」
しかし、そんな大自然を前にして蓮慈は言い様のない憤慨を覚える。
異世界召喚されてしまったのだから早いとこ、王族と謁見やらなんやらの通過儀礼を済ませて、この世界の事を知りたいのだ。可能ならば、帰らせて頂きたい。
しかし、何と無く自分自身のせいでそれをパスしてしまったんだなぁっと、漠然的に的確な答えへと蓮慈の思考は至る。ゴシゴシしたのがイケないのだ。
今頃、自分を召喚しようとした奴等は大慌てしているんだろうなっと他人の不幸を嗤いつつ、蓮慈は異世界召喚やら転生によくある設定がここで有効なのか検証する。
まず、異世界召喚といえば、召喚先の高貴な方々との謁見が最初の通過儀礼だろう。そこで、如何なる理由で召喚されたのかが判明する。
大体の理由が、魔王の討伐。そして、そのもう一段階上に、神殺しが控えている場合もある。
魔王の討伐までなら、蓮慈は請け負っても問題ないっと見ている。恐らくは、魔法という未知の力を操る最上級クラスの敵なんだろうが、こちらはぶっちゃけ科学兵器プッシュでなんとかなるんじゃなかろうか?っと。
しかし、神殺しっとなると話は別だ。正直、神殺しなんて馬鹿の考える事だと蓮慈は思っている。
神を殺せるのは神のみ。あの超越存在を殺せるのは、同じ存在かその血を引く者だ。残念ながら、というか当然っというか、黒峰蓮慈は神の血なんて引いていない。日本人に神殺しをさせたかったら皇族喚べよっと蓮慈は思う。神の血引いてるらしいから(笑)っと言ったところだ。
もしも、神殺しを試みるくらいならば、神殺し委託してくる異端者を更正あるいは逆に殺害し、その功績を神に訴え送還を願う方が、成功率や安全性が高い。
まあ、問答無用で神が此方を殺しにくる様なら、また別の話になるが。
閑話休題、召喚が半ば不完全に終わった今、蓮慈が王族やその他関係者と拝謁する機会は無くなった。
さて、そうなれば次の通過儀礼だ。これも相場は、魔王討伐に用意る聖なる武器の譲渡や、自己能力の確認だ。
両方を行う場合もあるが、ゲームの様な数値段階という概念のある異世界ならばステータスの確認のみで終わる事が多く、それなりの金額の武器が支給されるのが殆んどだ。
逆に、そういった概念がない異世界では、固有の超常能力を持った規格外の伝説級の専用装備が与えられる。他にも、自身の魔力を物質化したモノだったりとか、闘争本能やら魂やらを武装に変換するやらだ。
さて、もし武器を譲渡されるタイプだった場合、黒峰蓮慈は詰みだ。何せ、そういった役目を担う筈の者達と接触が出来ないのだからだ。付け加え、特別な施設やら術などで武器や能力を得ることも期待出来ない。
ところによっては、天職なる概念が存在し、それなり金銭は取るが、一般開放されている神殿などで天職を授かったり転職が可能だったりする優しい異世界もある。
しかし、今はこれも見込めない。こんな大自然の中にそんな施設がある訳がない。あるとすれば、オーバーテクノロジー満載な太古の遺跡くらいなものだ。
現状、詰み確定な黒峰蓮慈だが、数値段階の場合なら救いが残されている。数値段階ならば、呪文を唱える事で自力で自己能力を確認できるものが大半を占めている。
「試してみるか………、【自己分析】」
【黒峰蓮慈 男 十七歳
天職:=空論家
ATK:=[error]
DEF:=[error]
MAT:=[error]
MDE:=[error]
AGI:=[error]
技量:=『数秘術式』『空論教典』】
「………ぁあ、詰んでるなこりゃ」
その結果に蓮慈は頭を抱え、絶望に打ちひしがれ嘆息だった。
転移先には誰も居ませんでしたぁー。