冒険者加盟連合会
それから馬車は二時間ほど走行を続け、ようやくセイドリッヒ王国の王都に到着した。
王都は流石に人類の要なだけあり、堅牢な城壁に囲まれた城郭都市になっていた。
立派な城門には関所が置かれ、厳しい入都検査は行われていないが、甲冑姿で警備に当たっている者が複数人居り、怪しげな者にはしっかりと職務質問などをしている様だ。
王女殿下一行と蓮慈を乗せた馬車は、そこで一度止まって馬車の御者を務める騎士と、第〇三小隊の臨時指揮官であるニアが簡潔的に襲撃にあった事を説明した。
その際、蓮慈は一応初入都と経緯が複雑なので職務質問と身体検査などを受ける様に言われ、王女殿下が彼の安全の保証はするので一緒に城まで行こうっと言い出した。
その申し出を蓮慈は丁重にお断りし、職務質問と身体検査を終えたところだ。
「職務質問って言われたけど、凄い簡単だったな」
名前と年齢、天職に出身地を聞かれただけて、身体検査の方は身長と体重を測定され、投射機なる魔導器で写真を採られただけだった。
別れ際に王女殿下から頂いた謝礼金を握り、蓮慈は関所の騎士達から聞き出した冒険者ギルドに足を運ぶ。
冒険者組合または冒険者連合会、冒険者ギルドっと呼ばれる組織は、正式に冒険者という職業になれる唯一の場所だ。
冒険者になった者には、依頼を斡旋し仲介費を取って利益を得る組織だ。
依頼の斡旋以外にも、魔物から剥ぎ取られた部位を買い取ったり、同じスペースで酒場を運営して冒険者からお金を巻き上げている。
夢のない話だが、畜産農家などの時期によって実入りが左右する者も生活費を稼ぐ為に、シーズン限定で冒険者になる事が多いらしい。
そういったシーズン限定冒険者は、本職として冒険者をやっている者の雑用をこなす事でおこぼれを貰っているらしい。例えば、魔物の部位の剥ぎ取りやら、荷物持ちやら装備の点検、野宿の準備にその際の食事の準備。完全に兵站要員である。
蓮慈は本職として冒険者をするつもりなので、その時期になれば多少そういった者達とも、交流する機会が訪れるかも知れない。
だが、蓮慈が冒険者になるのはあくまで、冒険者という身分証明が欲しいだけなので、ガッツリ冒険者する訳ではない。有能な技量があるので、食うには困らない。写真付きの身分証明が出来る物が欲しいので、運転免許を取得するようなものだ。
以上の理由で、冒険者ギルドの扉を叩いた蓮慈であったが、まぁその内部事情は想像を裏切らずっと言ったところで、内装はゴロツキの集まる酒場のそれである。
壁や床は綺麗で傷もない清潔感があるのだが、そこに乱雑して設置された四人席の丸型テーブルに、点々として腰を下ろしている冒険者達は完全にゴロツキのそれだ。
アフロだったりリーゼントだったりスキンヘッドだったり、はたまたモヒカンだったりと個性豊かな髪型した者も居れば、モヤシのような華奢な体躯に似合わず大戦斧を背負う者、筋骨隆々なのに掌サイズのナイフを恐る恐る研磨する者などが居る。
来るとこ間違えたかな?
蓮慈はそんな方々から視線を外し、受付口の『新規加盟受付』と札の置かれているカウンターに向かう。
「すいません、新規で冒険者になりたいんですが?」
取り合えず、受付にいたお姉さんに声を掛けてみる。すると、受付嬢のお姉さんは「面倒くせぇ」と言った表情に笑顔を張り付け、カモフラージュすると丁寧に蓮慈に対して応接してくれた。
「はい、畏まりました。では、此方の登録用紙に必要事項を記入の上、此方の加盟者規約書をお読みになって同意書にサインをお願いします」
「はい、分かりました」
登録用紙というのが、氏名と年齢それから、扱える魔法と所有技量を書かなければいけない様だ。
魔法と技量の記入欄で蓮慈は思わず手を止める。魔法は何一つとして使えないのだから無しだが、技量がありすぎて困っている。
そんな様子を見かねてか、それとも早く手続きを済ませてしまいたいのか、受付嬢のお姉さんが笑顔で補足してくれる。
「習得されている魔法と所有なさっている技量の情報は冒険者にとって命綱なので、記載されなくても大丈夫ですよ」
「あ、そうですか」
ならばっと、蓮慈は『筋力増加』『防郭展開』『自然治癒』っと適当に三つ書き加えて提出し、規約書に目を通す。
規約書の内容も概ね予想通りである。
冒険者加盟連合会は、加盟者に依頼を斡旋し、加盟者は成功報酬の中から仲介手数料を冒険者加盟連合会に支払うものとする。
なお、加盟者が依頼に失敗した場合は、依頼内容と成功報酬を踏まえた上、違約金の支払いを命ずる事がある。
加盟者同士での戦闘行為を禁じ、違反者には違約金の支払いを命ずる。事の次第によっては除名処分とする。又は、その両方を科すものとする。
なお、冒険者加盟連合会から監督官を置く場合は、加盟者同士での戦闘行為を認め、公平な条件の下、勝負に殉ずる事とする。
加盟者の言動が各国の違法行為に当たる、又は、冒険者加盟連合会の尊厳を損なう場合、各国の裁判に添った刑罰を与える事とす。また、違約金の支払いを命じ、事の次第によっては除名処分とする。又は、その両方を科すものとする。
以上が規約書で注視すべき内容だ。他にも、冒険者の等級やら、依頼にも等級が存在する事、連隊での依頼受諾に関する事などが書かれているが蓮慈は読み流し、最後のページにある同意書の署名欄にサインを書いた。
受付嬢のお姉さんは蓮慈から同意書のみを切り離し回収すると、引き換えに銅製の額縁が施されたエメラルドのプレートを渡す。
「こちらが、レンジ・クロミネさんの加盟証明書になります。クロミネさんは魔法がお使いになれない様なので、加盟証明書の内容変更は受付窓口か、あちらの祭壇にてお願い致します。等級の昇格による加盟証明書の更新は受付窓口のみになりますのでご注意下さい。では、これにて新規加盟の手続きは終了です。何か、ご不明な事はございますか?」
「いえ、ありがとうございます。お手数お掛けしました」
「はい、お疲れ様でした。ご用がありましたら、またお声掛け下さい」
蓮慈は礼儀良く会釈をして、受付を離れ、依頼書が貼られている掲示板に歩き出す。その後ろ姿を目で追う少女の存在に気が付かずに。