プロローグ
※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
※善良な心を持つ方には、不快な描写や表現を含む内容がごさいます。精神衛生を一番として読むことをオススメします。
※それ以外の猟奇的描写が好きな方は、少々お待ち下さい。まだです。まだ、主人公は一般人やってるので、もう少しお待ち下さい。
松明の仄かな光が、暗闇の中からゴツゴツとした洞窟の内部を暴く。橙色の光に照らせれて暴かれたそこには、夥しい量の血糊が付着していた。
まだ、その血糊はまだ乾き切っておらず、糸を引きながら滴っていく。そこから漂う生臭さと鉄臭さが、洞窟内に充満し息を詰まらせる程だ。
原型を留めておらず、元がどんな生物だったか分からない肉塊や肉片が、辺り一面に四散している。何れもまだ生々しく、松明の揺れ動く炎に光沢を返している。
「………フぅ~。この臭いにもすっかり慣れたな、いっそ心地が良い」
その惨劇が起こったであろう中心地点で、黒峰蓮慈は独りごちる。
返り血を受けて肌で生温い感触を感じつつ、大きく深呼吸をして、嗅覚を刺激する。常人なら吐き出しても無理のない悪臭だが、蓮慈はそれを堪能する様に肺一杯に空気を取り入れる。
そもそも本来、蓮慈は流血沙汰とはほぼ無縁の日本人だった。それがここ一ヶ月と少々程度の月日ですっかり、色々と慣れてしまった。
いや、慣れてしまったというよりは、法的処罰を気にしなくなったというのが正しい。元々、彼の倫理観が欠如した反社会的人格者であったので、保身の為に法的処罰を恐れ、目に見えて法を犯すような事はしなかった。
しかし、現在進行形で蓮慈はその制限を超え、殺人を犯していた。今辺り一面に飛び散っている血糊やら肉片やらは元々人間だったのだ。それを蓮慈は何の躊躇もなく、物言わぬ肉塊へと変えてみせた。
反社会的人格者ではあったが、ごく普通の高校生だった黒峰蓮慈が、その本性を現したのはつい一ヶ月少々の出来事、『異世界召喚』に見舞われてからだ。
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金曜日の放課後。それは高校生にとっては平日最後の下校時間。部活や倶楽部に参加する生徒はいつも通り各種活動に勤しみ、無所属の帰宅部である生徒はそそくさと帰路に着き、またある生徒達はそのまま遊びに出掛ける。
そんな中、黒峰蓮慈は校内にある図書室で勤勉に励んでいた。
励むっという程ではないが、蓮慈は週の金曜日は必ず一週間の復習をする事に決めているのだ。それもきっかり一時間だけ。そのお陰か、彼の成績は中の上から上の下を行ったり来たりしている。
金曜日に勉強するのは、他の生徒が居ないからだ。他の日にちだと居残りする帰宅部のたまり場になっている事が多く、席の確保やら雑音やらで勤勉には向かないのだ。それなら、家に帰って勉強しろっという話だが、蓮慈は家で勉強する気はない。
勉強は学校で、遊びは家で。
そういう区切りをすることで、ストレスフリーな学生生活を営んでいる。
一時間という自分に課した時間が終われば、蓮慈は勉強道具を片付け、本棚から適当な書物を見繕い読書を始める。読書には特に時間制限は課しておらず、読み疲れたら帰るだけだ。続きが気になる様なら借りていくし、大した興味が湧かないならそのまま本棚へ戻すだけだ。
今読んでいるのは、所謂ライトノベルでジャンルは異世界召喚。一般人だった主人公が異世界に魔王を討伐する勇者として召喚される御話だ。シリーズモノで既に数巻発行されている流行りものらしく、図書室の本棚にも鎮座されていた。
今思えば、その日このライトノベルを手に取ったのは運命的、というか些か皮肉めいていた。
何せ、割合で言えば蓮慈はあまりこの手の書物を好まない。学術書や論文ならまだしも、他人の考えた創作物に彼は共感する事が滅多に無いからだ。共感能力の欠如、サイコパスの特徴として上げられるものの一つだ。
しかし、こういった創作物に共感は抱けなくても、興味や関心はある。それは作者の人間性を垣間見る事ができるからだ。サイコパスは保身の為に、その異常性を悟られないようにする。故に、共感が出来ないから切り捨てるのではなく、その作品から作者の思考パターン等を推測しているのだ。
謂わば、他人の思考を予測する為の訓練の様なものだ。まあ、劇的な成果があるかっと聞かれると、イエスとは言えない程度の訓練なのだが。
そんな、なんちゃって勤勉や訓練モドキをしている為か、蓮慈の異常性に気が付いた者は、家族を含めても全くっと言っていい。
悪目立ちする訳でもなく、目立ち過ぎる能力を持っている訳でもない。他己評価は、平均より若干勝る程度の人間で留まっている。
余談だが、それなりの容姿の良さと偽りの善意のせいで、割りと女子生徒にモテる。それを気に入らないっとする不良生徒に絡まれるなんて事件もあった。
体育館裏に呼び出されるなんていう不良漫画的な出来事もあった。無論、面倒事は本性の一部分を晒す可能性があるので無視した。が、翌日ご丁寧に連れションを強要されたので、不本意ながら『平和的』解決を実行した訳だが。
これで、不良グループに目を付けられる様になるなぁっと蓮慈は嘆息したのだったが、その思いとは裏腹に不良グループからの干渉は無くなった。余程、蓮慈の『平和的』解決が功を為したらしい。
蓮慈が本来ならあまり手に取ることないライトノベルを読み流していると、ふっと足元から光が射した。
何事かっと思い、読書一旦やめて視線を足元に移すと、そこには如何にもな魔法陣がいつの間にか刻まれており、ご丁寧にライトアップまでしてくれているところだった。
冗談だろっ!とギョっとする蓮慈だが、魔法陣の輝きは徐々に増していき、図書室全体を緩やかに光の中に包もうとしている。それにしたがって、蓮慈の体の動きも制限されていく。魔法陣内からの脱出を試みた蓮慈だが、どうやら時既に遅しの様だ。
仕方無く、蓮慈は事なりに身を任せる事にする。が、納得出来ずに最後の悪足掻きとして、魔法陣を足裏で消せないかとゴシゴシ、ゴシゴシっと。
結果、何の問題もなく蓮慈は広がる光の中に消えていった。紛れもなく、異世界召喚されたのだ。
しかし、彼の悪足掻きが召喚者側にとって、予想外の展開を巻き起こす事になった。
魔法陣に刻まれた術式の一部が破損し、世界間の転移には成功したのだが、異世界で設定された到着座標に転移されずに行方知れずになってしまった。
そして、召喚の間と呼ばれる広間に召喚される筈だった黒峰蓮慈は、何の因果か魔境と呼ばれ、畏怖される樹海に転移してしまうのだった。
最初のページは文字数少なめです(2000文字くらい)。
その内、徐々に増えてくると思いますので………