Again
ピーンポーン、ピーンポーン。
今日2度目のインターホーンがなりびびいた。
きっと宅配ピザだろう。
あれから、唯と色々話し確信をつく答えは出していないが、とりあえずLINEを交換した。
一昨日携帯が壊れてLINEも消えてしまったらしい。
「スイマセーン宅配ピザでーす。」
玄関を開けると、宅配ピザのお兄さんが待っていた。結構イケメンで、どっかで見た事があるような顔をしている。
少しお兄さんを見ていると、シャツや、ズボンが濡れてる事に気付いた。
どうやらまた雨が降ってきたようだ。
「テリヤキチキンのピザのLザイズがおひとつ、そしてコーラがお2つで3500円になります。」
「はい、どうも。」
「ちょうどおわずかりしまーす。
有難うございました。」
そう言って愛想よくお兄さんは帰って行った。
「ピザ来たよ、食べよっか。」
「うん。」
こうやって、また2人でピザを食べる日がくるなんて思ってもみなかった。
「有難う!いただきます。」
「いただきます。」
唯はおいしいおいしいと、僕が一枚目を食べ終わる前に2枚目に手を伸ばしていた。
そうだ、この子はよく食べるんだった。
すこしづつ、だんだんと唯との記憶が蘇ってくる。
ピザはテリヤキチキンしかたべないところ。
目がなくなるほど思いっきりな笑顔で笑う事。
怖いのは大丈夫だけど、グロイ物がダメなところ。
肩にある唯一のホクロ。
キスをすると顔が真っ赤になるところ。
どれも、僕の記憶から一度消えた、いや消したものだった。
幸せだ。
頭の中は久しぶりに幸福感で満ちていた。
「どおしたの?食べないの?」
「あ、うん食べるよ。」
唯の声でまだ一枚目のピザだと気付き急いで2枚目にてをのばした。
「実はさ、今日お母さんと喧嘩して家飛び出してきたんだ。」
彼女はピザの方から視線を変えずに話し始める。
「え?」
「お母さん3日間だけ新潟から帰ってきてて、昨日と今日とでうちに泊まる予定だったの。」
「そーなんだ。」
あの日のお母さんの顔を思い浮かべてしまった。
「それでさ、いろんな話をしているうちに、ユキの話になって、それで喧嘩になった。びっくりしたよ。まさかお母さんがあんな人だったなんて。もう、顔も見たくない。」
「…」
「お母さんは明日の飛行機で帰るから私の家から出られないの!だから逆に自分から飛び出してきたってわけ。」
彼女はピザを食べるスピードを落とさずに話し続ける。
「だから、今日はね、帰る家がないの」
「うん…」
「だから、今日泊めてくれないかな?」
「え?」
「泊めてくれると嬉しいな。」
まさかとは思ったが本当に、こんな展開になるとは。
おいどうするよ童貞、僕どーすればいいんだよ。
頭の中の彼に呼びかけても返事ひとつよこさない。
肝心なことは、自分で決めろって事かよ…
「分かった。いいよ」
「本当?」
「でも、一個だけ条件がある」
「じょーけん?」
「そう。」
「いいよ。エッチな事以外だったらなんでも引き受けてあげる。」
「いきなりそんなお願いしねーよw」
僕のツッコミに彼女は笑ってる。
「じゃあなにさ?」
「さっきの答えだよ。」
「え?」
僕は、最後の一枚をとりながら言った。
「よりを戻そう。今日からまたおつきあいして下さい。」
照れくさかったが、片手にピザを持ちながらしっかりと彼女の方を見て言った。
彼女は一瞬、僕と目が合ったがすぐに逸らした。
うつむきながら、小さい声で言った。
「…うん。いいよ。」
僕はその後、なんて言葉をかけていいか分からなかった。
とにかく、幸せだった。
僕の顔を少しだけ覗き込むように彼女は顔を上げたので、恥ずかしくなり、片手に持っていたピザを急いで口の中に入れた。




