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Humility  作者: けろ太
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何か変わった事があると、人はあまり寝付けないって聞いた事があるが、昨日は久しぶりにぐっすり眠れた。たぶん疲れてたうえに、喜怒哀楽を1年分使い果たしてしまったからだろう。


いや、待てよ、もしかしたら昨日の事は全部夢だったんじゃ無いか…。彼女と別れてからもう4年が経つ僕なら、あんな夢なんて朝飯前のはずだ。


そんな事を考えていると、いつものようにポワンと彼が現れた。


「いやいや、こっちなんて一度も、彼女がいた事無いんだぞ!!オレ達の苦しさは、1度でも彼女がいたお前なんかには分からんよ!」


「お前は何にも分かってない。彼女なんてな作ろうと思えば簡単に出来んだよ。今、自分に居ないのは、自分に釣り合う子が現れないからさ。って本気で思ってんだぞ。一度でも彼女なんか作ったらな、こんな風に自分に自信しか持てない奴になっちゃうんだぞ。そして、この自信こそが本当の苦しみなんだよ。分かるか?」


「いや…それは、ちょっとわからんな…」


「いいか、電車に乗ってて、可愛い女の子とふと目が合っただけで、あれ?この子自分に気があんじゃない?とほぼ毎日思ってんだぞ!」


「分かった、分かったよ…オレが未熟だったよ。」


そう言って頭の中の童貞天使は姿を消していった。


「まったく、これだから童貞は…」


伸びをしながらつぶやきベットから降りる。


コンタクトを入れなければ何も見えない僕はとにかく顔を洗い両目にレンズを装着した。


もう一度大きく伸びをして、ベランダの窓を開け、部屋の少しお好み焼きくさい空気を入れ替える。


これは、いつも通りのルーティーンだ。


ただ1点、いつも殺風景なはずのそこに、可愛らしい青い傘が干してあった事だけが全然いつも通りでは無かった。


「やっぱり、夢じゃなかったか。」


改めて昨日の事が、現実だと分かると、僕にとっては、アブノーマル過ぎる流れを色々と思い出す。


のぶゆき君の忘れ物によって、深夜にお好み焼きを買いに行った事。

そこで、いきなり傘をもらった事。

しかも見ず知らずの女の子から。

そしてその子は結構可愛くて、良い香りがしたという事。


いや、良い香りはしなかったっけ?


それは、どっちでも良いが、とりあえずこの傘の処理を考えなくてはいけない。


ベランダに降りて、傘が乾いているのを確認したら、折りたたんでリビングに戻す。


よく見ると青い傘には水玉模様が入っていて、レースが付いている。


いかにも、女の子が、しかも中学生くらいの子が持っていそうな傘だ。


こんなの持っていたら、おまわりさんに捕まってしまうんではないか…。


答えが見つからない僕は、とりあえず押入れにしまった。いや、隠した。


ふぅー、とりあえずこのまま何も無かった事にしよう。もう彼女と会う事はないだろうしもしも会ってしまったら、その時考えれば良いさ。


伸びをしながら、無理やりではあるが、整理できた頭に一安心する。



13時からバイトだから、後2時間もあるのか


時計を見ながら、逆算をする。


いつも通り、バイト前は何もする事がないので、とりあえずテレビを付け、昨日のお好み焼きの具材と一緒に買ってきた、メロンパンに手を伸ばす。


テレビの画面からは、フラッシュと共に、カシャカシャという大量のカメラの音が聞こえてきた。髪が薄い3人のおじさんが、頭を下げている。

どうやら、普通の牛肉を黒毛和牛と記載して売っていたスーパーが摘発され、代表と思われるおじさん達が記者会見を開いているようだ。


ばかだなー、黒毛和牛と普通の牛肉じゃさすがに、わかるだろ。


その点、メロンパンはすごいと思う。これだけ堂々とメロンと書いているのに、メロンなんて一切入っていない。


これこそが、本当の偽装では無いのだろうか。


そんな事を考えながら最後の一口を一瞬見つめ、口に入れた。


ピーンポーン、ピーンポーン


いきなりのインターホンにびっくりして、思わず口の中のメロンパンを全部飲み込んでしまった。


やばい。苦しい!!


もがきながら、あたりに水分を探すが、見あたらない。


ピーンポーン、ピーンポーン


分かった、分かったから、待ってくれ。


急いで、冷蔵庫を開け、綺麗に整列されたビールの一本を取り出す。


考えてる余裕なんか無かった。僕は急いでプルタブを開けそのまま一気に流し込んだ。


ぷはー、はーはーはーまじで死ぬかと思った。


ピーンポーンピーンポーン


分かったよ今行くよ。


まだ、荒い呼吸のまま、うるさいピンポンを止めるために玄関にむかった。


左手にはまだしっかりビールが握られていた。


どうせ、NHKかセールスだろうと、ガチャリと玄関のドアを開けながら、マニュアル通りの挨拶を頭に浮かべて、訪問者の顔を確認した。


「はいはい、うちにテレビはありま…せん…よ…え?」


「久しぶり。あがっていい?」


「…」


ここ最近で、いや人生で一番驚いた瞬間だったかもしれない。なぜなら、そこに立っていたのは、4年ぶりに顔を見た元カノ女の唯だったのだから。

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