Encounter
「めっちゃ降ってるやん!」
スーパーのレジ袋を両手に持ちながら、出口から出た僕は思わず大きな声を出してしまった。
閉店直前に行われる一斉タイムセールという魅惑的な言葉に負け、時間を費やしてしまった事を後悔している。
急いでそのまま帰ってれば雨に降られなかったかもなと、そんな事を意味がないのに考えてしまう。
悪い癖だ。
とてつもなくお腹ぎ減っていたので、早くお好み焼きが食べたいのだが、強すぎる雨のせいで屋根のある位置から一歩も動けない。
あいつが本を忘れて無ければこうならなかったのに!と今回は珍しくなんの罪も無いのぶゆき君を恨む。
上着を着てきたものの肌寒いし、雨には濡れたくないし、今更色んな選択ミスに後悔している。
やっぱりカップラーメンにすれば良かったかな…。
「ん?」
しばらく、後悔していると、ふと何かの視線に気づいた。
大学生くらいだろうか、黄色いポンチョを着て長靴を履いた見た目よりずーと幼いカッコをした女の子がなぜかずーとこっちを見ている。
なぜだ?なぜ、僕を見てる?自分の記憶を探るが思い当たる節がない。
しかも彼女は少しずつこっちに歩み寄ってき来ている。
やばい、なんだ、誰だ?知り合いか?それとも何かしたか?買い物中手が当たったとか?
しばらく女の子という生き物と接点が無かった僕は、かなり焦っていた。
そして、ついに目の前まで来た彼女が何かを喋ろうとする前に僕は大声で謝っていた。
もちろん、ファミレスで培った直角なお辞儀も添えて。
「ごめんなさい!」
「うわぁ!」
彼女は、僕の予想外の大きな謝罪にびっくりしたのか、声を裏返して一歩下がった。
頭を下げながら僕は繰り返す。
「すいません、僕が何かしましたか?」
「いえ、多分…なにもされてないです!」
少しオドオドした声で彼女は答える。
「え?じゃあ知り合いだったりしますか…?顔が変わってて全然分かんないや…」
「いえ、多分貴方に会ったのは今日がはじめてだとおもいます。」
少し落ち着いたのか彼女はさっきよりも冷静に答えた。
「え?じゃあ…」
まだ、頭がついて行っていない僕は、ようやく頭を上げ彼女の顔をぼーと見てしまう。
「これ、良かったら。」
その視線に気づいたのか、少し目を伏せながら彼女は左手に持っていた水色の折り畳み傘を僕に差し出した。
「え?」
まだ、頭の整理が間に合ってない僕は、またしても間抜けな声を出してしまう。
「雨で困っていそうだったから、偶然傘2本持っていたんです。」
そう言って僕の右手に傘を、握らせた。
「でわ、それあげますから!さよなら!」
そう言って彼女は傘を差さずに雨の中を軽快に走って行った。
家が近いのだろうか?傘は2本有るって言ってたよな?そもそもなんで初対面の僕にこんな親切を…。でも、可愛かったな。
疑問が多すぎて思考停止していた僕はただ漠然と彼女の走り去る後ろ姿を見つめていた。