送りオオカミ
昔むかしとある村のはずれに、幼女と若い母親の二人が住む家がありました。
村から迫害されて苦しい生活に困っており、ある日、母親は幼女を連れて狼が出ると言われる森の中へと行き、そこで遊び疲れて眠った幼女を置いて帰ってしまいました。
太陽が空から落ちてすっかり暗くなった頃、幼女は目を覚まし、母親がいない事に気がついて泣いてしまいます。
泣き声につられてゆっくりとやって来たのは、人の身丈を超えるほど大きな、お腹を空かせたオオカミでした。
オオカミが近づくと、幼女は恐怖で泣き止み身を震わせました。
匂いを嗅ぐためにオオカミは幼女の顔に鼻を近づけます。幼女は嫌そうな顔で目をつぶると、顔を舐められました。
幼女を顔いっぱい舐め回すと、オオカミは尾を引くような遠吠えをしました。
突然の大声に幼女は両耳を手で押さえます。
オオカミは幼女の後ろに周り、襟を軽くかじって幼女を上に放ると、背中でしっかり受け止めました。
幼女はわけがわからないまま、オオカミの毛を掴んで振り落とされないようにします。
オオカミは歩き始めて段々と速度を上げていき、足場の悪い森の中を軽やかに駆け出します。
幼女は目まぐるしく流れていく木々に目を奪われ、いつの間にか泣くことを忘れてしまいました。
あっという間に森を抜けて幼女の住んでいた村までたどり着き、幼女の家の前で座って軽く体を揺すります。
幼女は掴んでいた毛を離し、オオカミの背中を滑り落ちました。
オオカミは幼女を一舐めし、その場を去りました。
幼女が張り上げる感謝の声に気が付いて家から飛び出してきた母親は、幼女の姿を見てもうしないと泣いて謝ります。つられて幼女も泣いてしまいました。
次の日、村では幼女がオオカミの加護を受けたと騒がれ、これ以降幼女と母親への迫害はなくなりました。
おしまい。