壱
誤字・脱字は基本スルーでお願いします。
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「うぅさむっさぶいぼ立ってきた。」
灰色の分厚い雲から白い雪がふわりふわりと舞い落ちてくる。
「今年の冬は雪が多いなぁ。東京なのに。」
白いパーカーに赤いマフラーをした黒髪の少年が、ビルの屋根で雨宿りをしている。
フゥゥゥゥゥーッと白い息を吐き出し、すっかり冷たくなった手を温めようと両手をこすり合わせても、あまり効果がない。
「来ないなぁ。桜花。」
もう一時間になる。あの女はいつになったら時間を守るということを覚えるのだろうか。
不満そうな顔で雪を見ているこの少年の名は、十六夜和人。依頼を受けて妖怪、妖魔狩りを行うハンターである。大きな組織には属していないため、同業者たちには“野良ハンター”と呼ばれることが多い。
「ごめん和人。待った…よね?」
美しい黒髪をひとつに纏め上げた女が、走ってきた。
「あぁ一時間ほどな。人を何だと持っているんだ。」
「いやぁごめんごめん。寝坊しちゃって。久しぶり和人。10年ぶりかな?相変わらず変わっていないね。」
「そういう桜花はずいぶんと大人になったな。」
「ありがとう。結構がんばったのよ?牛乳いっぱい飲んで。」
桜花がえっへんと胸を張ると、桜花の大きな胸が揺れた。
和人がコメントに困っていると桜花が和人の手をつかんだ。
「まぁ、立ち話もなんだからあそこのカフェに入りましょう?」
「そ、そうだな」
「なんか飲む?おごらせて。遅刻したお詫び。」
桜花がニコニコとメニューを開いて和人に見せた。
「じゃぁ俺、コーヒーを飲むよ。」
「じゃぁ私ロシアンティー。後、このケーキも。」
注文が済むと、二人はたわいない世間話や、昔話を始めた。
桜花、二条桜花は実はこう見えて、妖怪退治の名門二条家の当主なのだ。26歳と類を見ない若さで当主になった桜花はいろいろな苦難を乗り越えて来た。東大だって卒業したらしい。
「さて…和人。そろそろ本題に入ろうか。」
三杯目のコーヒーが来たときに、桜花は和人に言った。
「あぁメールで言っていた大事な用か。できる範囲でなら力になるよ。」
「本当?なら話が早いわ。」
桜花が目を輝かせて和人を見つめた。
「最近、二条家の人間を狙った妖怪による犯罪が頻発しているのよ。もう8人も殺されているわ。」
「その話なら情報屋に聞いた。だが、それは解決したんだろう?」
和人の発言に桜花はうなずく。
「事件の解決はしたわ一応。だけどね…問題が起こったの。」
「問題…?」
桜花は神妙な面持ちで呟く。
「人手不足なのよ。」
「……は?」
「あの事件実は15人の内部犯の犯行だったのよ。被害者も含めて23人もロストしたの。もともと人手不足気味だったのに。」
ズーンと落ち込む桜花。周りには負のオーラが立ちこめる。
「それで…?」
「そう、それで次の子供たちが仕事できるようになるまであなたを雇いたいの。」
「………わかった。俺としてはいろいろ都合がいいからその仕事受けたいんだけどさ、ひとつ問題があることわかってる?」
桜花の顔に?マークが浮かぶ。やっぱりわかっていないこの女は。
「二条家ってさ、妖怪退治の名門だろう?だから、それなりにプライドを持って仕事をしている輩がわんさかいるじゃん?そんな輩もいるのに俺みたいな無名のしかも野良ハンターなんて簡単に雇ってしまっても大丈夫なのか?」
桜花は余裕の笑みを浮かべた。
「大丈夫。和人は心配しなくてもいいよ。家のみんなにはあらかじめ伝えてからここに来たから。」
「お、桜花にしては準備がいいな。」
「桜花にしては、は余計よ。」
桜花が少しむすっとしたがすぐにもとの表情に戻った。
「まぁそれくらい大事な問題なのよ。家のみんなもわかっていると思うわ。」
「そうか…」
和人は安心したような表情を浮かべた。
「じゃぁここにサインしてくれる?」
契約書らしきものには、一月につき1000万支払われること、住居スペースには屋敷の離れを使うことなど、ある程度の条件が細やかに書かれていた。
「ずいぶんと細かいな。」
「ごめんね。雇うのは賛成だけどルールが無いと嫌だっていう人が多くて。これでも結構絞ったんだよ?」
「いや、別にいいんだ。大変だな当主様も。」
「ちょっとね。でもなんだかんだいって楽しかったりするのよ。」
和人がサインし終えると、桜花は意気揚々とレジで会計を済ませた。コーヒー3杯も飲んでしまったので払わせてしまうのは少し申し訳なかったが、本人が払いたいとダダをこねそうだったのでおとなしくおごってもらった。
「じゃぁ行こうか。和人。」
「そうだな。」
あんなに空を覆っていた灰色の雲はどこかへ消えて、空には青空が広がっていた。
どうも、鑓間恢です。
この話は、零話の続きとなっておりますので、まだ読んでいない方は是非お読みください。
このたびはこの拙い文章を読んでいただきありがとうございます。
不定期になりますが、できるだけ早くUPできるようにしますので、どうかお付き合いください。