零
誤字・脱字は基本スルーでお願いします。
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そびえたつ高層ビルが夜の街を照らす。人間たちの夜の営みを照らすその明かりは、暗い暗い闇の世界を作り出す。
「ういぃぃぃ~ヒック。」
「もう、飲みすぎですよ後藤さん。」
二人の男がふらつきながら、昼のように明るい繁華街を歩く。
「いいじゃぁねぇかよぉぉぉ。こんなご時世、飲まなきゃやってられねぇよ。」
「よっぽどさっきの記事の件が響いたんですね。」
「証拠だってあったのに。うそだって決め付けやがって、畜生。」
後藤と呼ばれたトレンチコートを着た男が、怒りのあまりこぶしを握り締める。
「思い出したら、また腹が立ってきた。もう一件いくぞ。ついて来い、佐藤。」
「えっ?もう遅いですし帰りましょうよ、後藤さん。」
しかし、後藤は佐藤の制止を無視し一人ふらふらと暗い路地に入っていった。
追いかけようと早足で路地に入ろうとすると、誰かにぶつかってしまった。
「あ、すいません。急いでたもんで。」
再び追いかけようと後藤を探すも、暗い路地の向こうには明かりがひとつもなく人影すら見えなかった。
「あら、誰かお探し?」
ぶつかった相手、キセルを加えた和服の女が佐藤に尋ねた。
「あの…トレンチコートを着た男を見ませんでしたか?そちらのほうに行ったと思うんですけど。」
女は思い出すようなしぐさをして答えた。
「あぁもしかしてさっき来たお客さんのお知り合いさん?じゃぁこっちへいらして。案内するわ。」
女はウインクをして路地の奥へと歩いていったので、佐藤はついていくことにした。
しかし妙だ、と佐藤が思ったのは女の後ろを歩いて三分後だった。
この路地は一本道なのに後藤さんが一瞬でこの女の店にどうやっていったのだろう。自分がさっきこの道を見ても、後藤さんはおろか人影らしきものも見ていないのに。後藤さんに瞬間移動はできないので、女が見たトレンチコートの男はおそらく後藤さんじゃない。
たぶん人違いだと思う――と女に言おうとすると、女が立ち止まった。
「ついたわ。」
見ると、さっきまで明かりが見えなかったのに、ずいぶんと明るくにぎやかなひとつの店があった。
その店からある男が出てきた。よく見ると、後藤さんだった。
「え?」
佐藤は自分の目を疑ったが、後藤さんだった。
「おーい佐藤。ずいぶんと遅かったじゃねぇか。」
「す、すいません。」
佐藤は自分の考えていたことをいったん放棄し、後藤と店の中のカウンター席に座った。
「さぁお兄さん、何飲む?あたしの好みだし、サービスするわよ?」
店まで案内してくれた女がコップを出して、佐藤に尋ねた。
「じゃぁ水割りのウイスキーを。」
「わかったわ。」
後藤はほかの客となにやら話しているので、佐藤はふと腕時計を見た。残念なことにすでに二時を回っており終電はとっくの前に終わっている。
あーあ。タクシーでも乗って帰るか。と考えている佐藤の目の前に、注文した水割りウイスキーが置かれる。
「お待たせ。うちのウイスキーはお勧めなのよ。」
「ありがとう」
香りを少しかいで口の中に含んでみると、今まで飲んでいたすべての酒が吹っ飛ぶくらいの衝撃に襲われた。
「本当だ。すごくおいしいね。」
「でしょう?まだまだあるからもっと飲んで。」
「あぁ…」
佐藤の意識はそこで途切れた。
――――――――グチッグチッジュルルルルルルルッ
肉を噛み千切る音と血をすすり上げる音が誰もいない路地裏に響き渡る。
「ん~~美味しっ。やっぱり好みだわぁぁぁ、あなた。」
臓物をすすり上げる音がそこらじゅうに響き渡るが警察などが来る気配はまるでない。
なぜなら彼女は世に言う妖怪、妖魔、魔物の類であり自らの空間をさえぎるバリアを形成することができるからだ。何かを感じることはできても、一般には見ることも聞くことも触ることもできない。
そう。一般には。
「いいもん食ってんじゃん俺も混ぜてくれよ。」
「―――――――――ッ!?誰?私の空間に入ってくるなんて。何者よあんた。」
声のした頭上を見ても誰もいない。
「こっちこっち。」
驚いて自分の目の前を見ると、声の主である少年がいた。
「な、何よ。」
「いやぁ、お腹すいちゃって。おねぇさんのお肉くれる?」
少年はニコニコと笑いながら女に手を出す。
「何言ってんのよ。これは私の獲物。いくら強かろうがあんたにあげる義理はないわ。」
少年をきつくにらみつけると、少年はため息をついた。
「あのさぁなんか勘違いしてない?俺は“おねぁさんのお肉”が欲しいんだって。」
女は“何か”に気づきとっさに回避行動をした……が遅かった。
「へ………?」
真っ二つになった女はそのまま地に伏せた。
少年はそのまま女の骸のそばに座り、呟いた。
「いただきます。」
はじめまして。鑓間恢と申します。
このたびはこの拙い文章を読んでいただきありがとうございました。
わたしは学生でしかも受験を控えている身なので不定期になると思いますが、これからもよろしくお願いします。