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久遠財閥のお嬢様とそのメイド


「メイド長、手当てが終わりました。」


「ご苦労です。見張りは私が行いますので貴女達は仕事に戻ってもらって結構です」


用意させた車で屋敷に運ぶなりすぐに治療に取り掛かった。

幸い、弾丸は急所を外れ、迅速に治療したおかげで二次感染などは起こることなく、あとは包帯を巻くだけの作業だった。


あの男は医者ではないようだがあの治療はかなりの腕前だ。

うちの保険医が関心するほどに。


「凛、手当ては終わったのか?」


「はい。命に別状はありませんし、あの調子なら数週間で抜糸できるかと。」


「そうか・・・よかった。」


相変わらずお嬢様は慈悲深いお方だ。あの男の容態が無事だとわかると安堵の息を吐かれた。


「ですが、約束通り数週間後は警察に引き渡します。可哀想だと理解しますがこれも貴女や奥方様のためです。どうかわかってください。」


「うむ・・・」


やはり警察に引き渡すとなるとお嬢様は顔をしかめた。まさかこの男に愛着が湧いたのだろうか。


すでに時刻は夜の6時を指してる。辺りは少し暗くなりかけており、夜の光景を連想させている。


「お嬢様、さきにご夕食をお食べになってください。あの男の夕食は私が運びますので」


ひとまずお嬢様をあの男から距離を措かせる。万が一に備えてお嬢様だけでも守るためだ。


だが、その必要はないようだ。


「そろそろ目を開けたらどうです?」


「・・・気づいていたのかよ。なら隠しても無駄だな」


男はムクリと身体を起こした。

それに伴い懐の相棒を握りしめて戦闘態勢に切り替えたのだ。




△▼△▼△▼△▼△▼△▼




「おいおい、初対面の人間にナイフなんて構えるなよ。メイドのおもてなしはそんなもんか?」


「貴方は客人ではありません。犯罪者ならこのもてなしが一番です。」


俺が身体を起こすと同時に、メイドは懐のナイフを2本使って構えた。


ナイフはククリナイフ。ネパールのグルカ族が使っていた短刀で鉈のように重さを用いた武器だ。

構え方と扱い方から推測するとかなり使い古さはれた代物だ。

彼女がかなりの手慣れなのを証明している。


「あとなんだこの手錠は。邪魔だから外してくれ」


「ダメです。外したら最後、檻の鍵を外して狼を解き放つようなものですので。それに警察に追われてますしね」


「・・・・」


「沈黙は肯ですよ?」


参ったな。こうも早くバレてしまうとはな。かなり頭がキレるメイドだな


「警察から逃げてるとなると、さっきのパトカーは貴方を追ってるようですね。違いますか?」


「ああ。冤罪でな」


「冤罪?もはや言い訳ですか。犯罪者らしいですね」


ムッ、今の発言はかなりカチンときたぞ。なら俺も暴露してやるぞ!


「それはお互い様だろ、元暗殺者さん?」


すると眉がピクッと反応を示した。これは図星のようだ。


さっきから見ていたが彼女の立ち振舞いはただの護衛やSPとはかけ離れている。

すぐ足を踏み出せるように利き足を1歩前に置く構え方、あれは俺もよくしている立ち方だ。


そしてククリナイフの刀身についていた奇妙なマークはコウモリだった。

あのククリナイフが相棒として使われているとなるとかなり長い時間使われているとわかる。ただのメイドがそんな業物を持ち歩く訳がない。

前職はメイドではないはずだ。


手始めに相手の実力を定め、行動に移すのは暗殺者の基本。

だからあのメイドが暗殺者だとわかったのだ


「そのククリナイフにあるコウモリのマークは聞いたことがある。たしか、ヨーロッパを中心に活動していた女スパイ、『蝙蝠(ファントム)』だったな。まさかあんたがこんな極東の地でメイドなんてやってるとはな。」


「・・・たしかに私は『蝙蝠(ファントム)』ですが今はただのメイド。コウモリは羽根を失ったのです」


「それで、今はあのお嬢様のメイドってわけか。なるほどね」


「っ! お嬢様には手を出すな!」


「出すわけねーだろ。一応命の恩人だぜ?あと俺は任務とは関係ない人間は殺さない質なんだ。」


「ふん、私は十六夜 凛。ここの従者部隊隊長をやっています。貴方の言う通り『蝙蝠(ファントム)』でしたよ。」


「なら俺も名乗ろうか、名前は五月雨 斗真。まあ暗殺者だが罠に嵌まってな。こうしてお邪魔になってるわけだ」


これで互いの素性は明らかとなった。いつまでも隠していてはあまりいい気分じゃないからな。

こうして腹の内を明かすのはいいもんだ


「この屋敷には私の部下、数十人ほどの従者部隊が囲んでいます。貴方がどんな手慣れかは知りませんが迂闊に脱け出そうとは思わないほうが身のためです。刑務所ではなく、墓場行きになりたくないのならば。」


「刑務所にも墓場にも行く気はないな。ここを脱け出してやるさ」


「どうぞご勝手に。」


凛はククリナイフをしまうと部下に持ってこさせた夕食を乱暴に机に叩きつけ、そのまま何処かへ行ってしまった。


今日の夕食のメニューはみんな大好きカレーライスか。あのミニロリお嬢様のためか、すげぇ野菜が多いな


飯を食いながらこれからの予定を考察する。


あの凛の言う通り、屋敷の至るところからただならぬ気配が漂っている。

俺を逃がさないように、この敷地内に侵入してきた輩を成敗させるためだろう。


まるでホワイトハウスの巡回している警官のようだ。かなり緊迫している雰囲気でアリ一匹も侵入も許さない


たしか久遠家らしいな。さっき『桜花』お嬢様とか呼ばれていたのを聞いた


久遠家と聞いて思い付くのは久遠財閥だけだ。


久遠財閥。世界を裏で支えているとも云われる明治から続く財閥で、日本及び世界有数の大企業だ。


1日数千万円を左右する、各国の首相と普通に会える、島を買い取ってプライベートランドにしてるなどと様々な噂が蔓延り、まさに金持ちの象徴たる一族でもある。


そんなお嬢様が俺を助けるとはね。危機管理がなってないな。


「で、そこのお嬢さんはいつまで隠れてるつもりだい?」


「な、なんでわかったのだ!?」


ドアの間から覗きながら俺を観察していたようでかなり長い時間いたようだ。

おそらく、凛が出ていったすぐだろう。


「それより久遠財閥のお嬢様が暗殺者と一緒に居ちゃ危ないだろ。手錠が繋がってる今のうちだ。さっさと離れな」


「それなら大丈夫だ。私は目で真実を導く。お前の目はかなり純粋な瞳だから安心できる。」


目・・・。かなり変わった奴だな。だが警戒されないとなるとこっちとしても嬉しいな


「悪いがお前を警察に引き渡さなくてはならない。苦だとは思うが社会更正するのも大切なことだ。」


「・・・お前年いくつ?」


「ん?今年で15だが?」


15歳・・・?。なのにこんなミニロリサイズなのは不思議だな。はたからは中学生にしか見えない、いや、下手すりゃ小学生にも見えるぞ。


「そうか、子供なのにやけに大人びてると思ったら15歳なのか。納得したよ」


「私は久遠 桜花だ。桜花と呼んでくれ」


「いきなり呼び捨てか。まあいいか。俺は五月雨 斗真、年は17だ。仕事は・・・凛から聞いてるか」


「そうだ。お前暗殺者だな?なぜそのようなことを・・・」


人を殺す仕事なのが気に食わないのか、不思議そうに聞いてきた。


「まあ、ちょっとした理由でな。俺、親いないんだ。海外旅行の事故では」


「事故・・・」


「部屋の空気が重くなる」


「ああ、まだ小さかった俺と両親は海外旅行で行ったヨーロッパで交通事故に捲き込まれたんだ。しかも誤報で家族全員が事故死と処理されてな。身分を証明するものもないんだ。だけど俺を引き取ってくれたのは近くに住んでたホームレスのじいちゃんなんだ。」


「そ、それで?どうなったんだ?」


「10歳の頃に病気で死んじまってな。そこからは暗殺業さ。まあ、その国は治安がヨーロッパのなかでも悪く、安全に子供が職につけることも出来なかった。安い賃金の仕事より暗殺業のほうが報酬が高くてな。」


「10歳でか・・・たくましいな」


「そうでもないな。命の殺り取りしてるんだ。誇れるもんなんてないさ。」


桜花が可哀想な目でこちらを見てくる。

こんな大企業のお嬢様には少し残酷な話だったようだ。

顔を青くしてこちらと目を合わせてくる。同情されてるのか。


「今日はもう自分の部屋に帰りな。もう8時だ。良い子はねんねしな」


「私は15歳だ!子供扱いするな!」


桜花はプンスカと怒ってそのまま出ていった。


そして俺は寝ることにした。まだ傷は塞がらないし、追いかけられて身体もつ疲れたしな。


しかし・・・これからどうするか。


あのメイドに『脱け出してやるさ』とか啖呵切ったけど全然案が思い付かない


この手錠、かなり頑丈なダイヤモンドで作られてるな。糸ノコで切ろうかと思ってたけどこれ、無理だな


なら鍵しかないか。だが鍵はあの恐いメイドが常に持ち歩いているはずだ。

それを易々と盗れるとは到底思えない。


どうするかと悩んでいるときにまぶたが重くなるのを感じた





▼△▼△▼△▼△▼△





朝陽が昇ると同時に目が覚めた。

そして明朝から手錠解除に奮闘していた。


「ふん!ぐぎぎぎぎ・・・・!」


無理矢理破壊してみようと試みたがダイヤモンド製の手錠なゆえに素手だけで破壊出来るわけない。

無駄に体力を消耗するだけで意味なかった


「ん?」


窓を見れば門へ向かって立ち並んだメイド達の間を堂々と胸を張って通過している桜花がいた。


学校へ登校するのだろう。しかしすごいリムジンだな。


「起きてましたか。寝てるなら殺して存在を隠滅しようかと思いましたのに」


するといつの間にか後ろに凛がいた。その手には俺の朝食を運ぶためにキッチンワゴンがあり、一つずつ台に皿を乗せる。

しかも会うなり罵倒してきた。


「傷の具合は順調ですし、食欲も充分ならば今日警察に引き渡してもいいですね。これで害虫ともおさらばです。」


害虫ね・・・。ひどい罵倒だな


「本来この屋敷へ入れるはずのない貴方がお嬢様の慈悲により、特別に入れたのですよ。それをお忘れずに」


「はいはい。けど、警察になんかは行きたくないね。その前に脱出してやらぁ。」


「ただの人殺し風情が成せる業だと?無理も承知で命を賭けようとしているとは、本物の馬鹿ですね。」


うわー、口から罵倒しか出てこねぇ。なんていやな女だ。


プルルルルル


すると室内に携帯のメロディーが鳴り響いた。

俺は携帯を持たない。今のメロディーが俺のじゃないなら、凛のものだろう。


「はい、なんでしょう?」


やはり凛の物のようだ。だけど今どこから出した?


「なんです?まさか道に迷ったわけでは・・・なんですって!?」


突如、電話に怒鳴るように声を荒げた。

なにか、あったのだろうか?


「・・・わかりました。こちらも尽力を注ぎます。貴女達はその行方を追ってください。では・・・」


苦々しい口調と声のトーンで電話を切った。凛の顔は落胆としている。間違いなくなにか遭ったようだ。


「おい、なにがあった。」


「・・・お嬢様が・・・誘拐されました」


「なんだと!?」


あのミニロリお嬢様が!?たしかに大企業のお嬢様となると財産目当てだろう。

だが、手を出すとなるとこの従者部隊によって殺され兼ねない。

一体どうやって誘拐を?


「どうやら、学校の清掃員を装い、お嬢様に近づいたようです。お嬢様の通う白鴎学園は学園長の許諾無しでは敷地内には入れません。犯人はおそらくそれを利用し、従者部隊からお嬢様を遠ざけたのかと・・・」


護衛の一人や二人入れてもいいだろうがよ。頭の固い学園長だな


「食事は一人で済ましてください。私はすぐに救出作戦を指揮しますので。」


そう言うなりバタバタと慌てて部屋を後にした。


俺は・・・・どうするかな?










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