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番外編 山脈を駆ける狼と毘沙門天

気分で番外編書きたくなって書いてしまいました

駄文になってるかもと不安げです





これは斗真が桜花達と出会う2年前の話である




ミャンマー北部のカチン州と中国の努江に聳えるカカボラジ山

植物が生え茂った山ではなく、岩や岩壁の帯重なる荒れた山脈だ。そのために動物はおろか、人間も立ち寄らない荒んだ地帯なのだ。


それに関わらず一人の男が山を踏破しようとしていた。彼は黒を強調しているタイツのようなスーツと銃にナイフ、さらには山で寝泊まりするためのテントなども持ち込んでいる。


南から北、つまりはタイから中国の方角へと足を運んでいる。

彼は亡命してるわけでも不法入国してるわけでもない。役目が終わったらすぐにここから帰るつもりでいるからだ。

斗真は懐の封筒から写真を取りだし、改めて任務を再確認した。


そして右耳に差し込んだインカムに話しかける。


『おい、生きてるかハゲ。生きてんならさっさと応答しな』


『.........うぅ、人の気にしてるところをずべこべ言うなんて.........馬に蹴られて死んじまえ!』


「悪いがここには馬はいない。お前が徒歩で行けって命じただろうが」


インカム越しの相手に軽口叩きながら足を止めることはない。

通信相手はバックアップしてくれる凄腕ハッカーだ。名をバカルと言うが、それさえもユーザーネームなので本名は知らない

画面がないので相手の顔をパッとは思い出せないが、唯一覚えるのはハゲであること。

それに加え、


『おい斗真。この仕事終わったら約束の物はくれるんだよな?』


「対価だからな。出さないわけにはいかないだろ?今回は『世界のロリっ子図鑑』をプレゼントしてやる」


『よっしゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!さっさと敵ぶっ殺そうぜぇぇぇえ!!』


重度のロリコンだ。10才以上はババア呼ばわりし、若い命を恵むのは紳士の志だと訳の分からんことを常々口にしている。頭がイカれてんなら精神病院行くように薦めたが拒否されてしまった。


「バカル、あとどのくらいだ?」


『待ってくれ、衛星写真を拾うから........お前がいるのはまもなく国境の麓だ。あと10キロもすれば敵地が見えてくるよ』


「.........だろうな。見張りがいる」


前方30メートル先に巡回兵がウロウロしている。山脈に溶け込むように山岳迷彩服を着て安価で高性能のAK47を携えていた。

あれが今回壊滅させなければいけない組織の一員だ。


『そいつが例のタイ軍隊に目を付けられてる組織だ。東南アジアや中国は麻薬の宝庫だからな。そのルートを通れば簡単に密輸出来るってわけだ』


「で?そいつらはここでなにしてんだ?」


『密輸の護衛だ。俺が調べた情報だとここで中国マフィアのお偉いさんと密売人の極秘デートだ。いい趣味してんな』


「ご託はいい。ターゲットは二人だな?」


『おうよ。お前さんに渡したら封筒の中の写真を見な。脂ギッシュな中国人と目に傷があるタイ人が標的だ。懸賞金数百万ドルの大物だぜ』


「そんなら爆弾一つで殺してやれよ。俺の手を煩うな」


『悪いがここ最近 国防軍の機嫌が悪いんだよ。軍人と一緒にお部屋でランデブーしたくないなら頑張って仕事しな』


「ちっ.......幼女趣味は頭が冴えねぇな」


『それはハゲかぁぁぁぁあ!?この頭のことかぁぁぁぁ』ブツッ


あまりに大声で耳鳴りがしたためにインカムを切ってやる。まあ、どうせすぐに通信を回復させることが出来るけどな


現地ガイドと落ち合うはずだがまだ合流出来ていない。殺られたか、単に迷ってるのか、わからないが先を急いだほうがいい。ここらは夜になると腹を空かせた野良犬どもがウジャウジャ湧いてきやがるからな


素早く巡回兵の後ろへと潜り込み、首を囲んで喉を一閃。

その兵は力なく崩れた


その先50メートル先にも一人巡回兵がいる。耳に手を当ててるために通信しているのだろう。


「こちらメルマだ。異常はない」


おやおや、異常な奴が後ろに立ってますよお兄さん。まあ気配を消してるから気づいてないだけだしな


「.........了解。引き続き監視を続ける。........通信修了(アウト)


通信を終えたようでインカムから手を離し、辺りをキョロキョロし始める。


そいつを拘束する。


「がっ!?.........ぐぎぎぎぎ.........」


「落ち着きな。殺しやしないからさ」


後ろから首に手を回して膝を折る。こうすることで正座に近い体制になるために率直な行動がとれなくなり、背中を取ることが出来る


ナイフを忍ばせ、首にヒタヒタとくっつけて恐怖に染め上がる。


「Fear of death afflict humans than death,意味わかるか?」


「し、知らぬ......」


「"死の恐怖は死よりも人を苦しめる".........恐怖以上に人を狂わせる物は存在しない。さあ、それをふまえたところでどうしてくれようか?」


「た、助けて.........」


「なら言うべきことがあるじゃないのか?上司の勤め先とかね」


少し茶化してやり、吐かせる。


「こ、ここから10キロ先に廃れた石油プラントがある。そこで俺らのボスは取引をする気なんだ」


「こいつのことかい?」


写真を取りだし、兵士の目の前でヒラヒラと振る。兵士はその写真を見て豹変した


「そ、そうだ........」


「そうか。ならいいや」


ゴッ、と頭へ一撃入れて気絶させる。ここで殺してもいいんだが密着した状態で血飛沫を受けたら血でベットリになっちまう。

それはゴメンだ


さて...嫌な奴を呼び起こすか


ピッ


インカムの電源を入れてバカルを呼び出す


『......へへへへ........やっぱりゴスロリ衣装のメグちゃんは可愛いなぁ.........』


ブツッ


再び切る。もうこいつを頼るのはよそう。俺の精神がもたない


仕方なく現地ガイドと待ち合わせの場所へ行く。待ち合わせ場所はこの先にある清川だったはずだ。


気絶している兵士をその場に放置し、先を急ぐ。





▼△▼△▼△▼△▼△




「ここが清川か........現地ガイドはどこだ?」


来たものの数分経ってもまったく来る気配のない現地ガイド。この清川は崖の麓にあるために上から見下ろせば直ぐに見つかってしまう。

そのために一刻も早く合流して暗殺へ向かわなければならない。


なのに現地ガイドは何してるのだろうか。いつ見つかるか終始ビクビクしながら待っている。


仕方ないので精神異常者に通信を入れる


「おい、バカル。現地ガイドが来ないぞ。どうなってんだ?」


『おかしいな.........たしかその辺りをのはずなんだが.......』


「まさか敵に捕まったんじゃあるまいな?そうなれば救出は難しくなるぞ」


『いや、それはありえない。そのガイドの資料を見るとかなり腕が立つらしい。以前 アフガニスタンで駐在中の米軍 一個小隊を一人で片付けたらしい。それも瞬殺でね。まあ、殺しちゃいないけどな』


「そいつは逸材だな。だけど待ち合わせにはルーズなんだな。写真はあるか?」


『写真はない。本人が写真嫌いでね。もし撮ってる者がいたら二度と日の光を浴びることはないと思うな』


「そんな奴をなんでガイドに寄越した。もっとマシな奴はいなかったのか」


『仕方ないだろ!他にタイにいる奴はいなかったし、何より!お昼に新しく買ったロリっ子 大全集DVD を見なきゃならんのだ!』


「うるせぇ!人の任務投げ出してそんなもんに夢中になってんのか!さっさとガイドを.............」


『ギャアアアアアアアァァァァァァ...............!』


突然の悲鳴。悲鳴の度合いから察するに近くで発せられたかと思われる。

急いでその声のした方へと走る。


石などの砂利を踏み、尖った岩肌を越え、辿り着いたのは少し広くなった地帯だ。


AK47、M10などの銃と共に、血塗られた男の死体が数個。遺体を個として数えるのはいささか不謹慎だが、それどころではない。

どれも強い力でねじ伏せられたかのように腕や足が嫌な方向へと曲がっており、使い物にならなくなっている。


棍棒、あるいは斧などの重量を利用した武器に殺られたのだろう。


「誰がこんなことを.........」


ジャリ........


「っ!後ろか!」


蚊の鳴くような音が後ろから発せられた。人影であると確信した俺は懐に忍ばせておいたマチェットで防いだ。


今のは向こうの方が先攻だ。少なくともこちらが攻撃してたら向こうが勝っていたことになる。


ではその元凶となる相手は誰だろうか


「ありゃ?塞がれちったか」


女だ。微かに匂う汗の臭いとアルコールに近い臭いがしていた。

天パと癖っ毛の中間のようなボブにゆったりとした目付き。胸は一回り成長しており、男性なら鼻がのばすのは間違いない。


カッターシャツにジーンズというこの環境にふさわしくない格好をしている。明らかに観光客でもない。


そして、もっとも目が向くのは彼女が使っている武器......錫杖だ。

錫杖とは遊行僧が携帯する道具 比丘十八物の一つである杖。鉄や銅などで造られた頭部の輪形に遊環が6個または12個が通してあり、音が鳴る仕組みになっている。


仏教の戒律をまとめた『四分律』などによれば、この音は僧が山野遊行の際、禽獣や毒蛇の害から身を守る効果があり、托鉢の際に門前で来訪を知らせる意味もあるという。

仏教の教義的には煩悩を除去し智慧を得る効果があるとされる。


少林寺拳法でも錫杖を用いた錫杖伝 (金剛伝)とも呼ばれる武術があるがそれとは根本的に違う。


形や武などは無形のもの。少林寺拳法の部類ではなさそうなので我流だろう。


だが、これほどの怪力ならば拳法を有さないだろう。拳法なくとも圧勝できる業と体を持ち合わせている


「.......ただの女じゃねぇようだな。何者だ?」


「人を知る前に貴方のことを知りたいな~。私の錫杖防いだんだもの」


「五月雨 斗真。ここではとある人物と待ち合わせでな。デートの約束を守らない奴がいるんだよ」


「ん?それは私のことかい?」


「ん?ということは.........あんたが現地ガイドか?」


「そうだよ。わかったらその剣を退いてもらっていいかい?」


攻撃は誤解と解けたのでマチェットを退ける。くそっ、まだ腕が痺れてる。どんだけ力が強いんだ。


女はそこら辺に角出てる岩に腰掛け、腰に掛けられていた竹筒のような容器の栓を開けてゴクゴクッと飲み干した。


「なんだそれは?」


「お酒。私はお酒をこうして飲まないとイライラすんだよね。ああ、大丈夫。任務に支障はでないから」


「そうかよ。じゃ、俺の名前を教えたんだからお前の名を教えな」


「ラヴァナだよ。年は16。送った資料に書いてないかい?」


「だとよ。合ってるか?」


『ああ、確かにな。ババアだから興味が湧かなかったが経歴がスゴいな。』


「経歴?」


『タイと日本のハーフで両親が病死。その後は見かねたナン・ヤップ院という寺の和尚が彼女を引き取り、錫杖を教え込んだ』


だからか、あの腕の強さは。


『しかし14才の頃、偶々近くを通りかかった時、子供が暴漢に襲われていたんだ。その際に逆上して禁じられていた殺人を犯してしまい、破門された。それからは破戒僧として裏手の仕事をしてるんだ』


「律に背いた僧ってか........中々面白そうだな」


『たくっ、物好きな野郎だな。そんなババアなんて俺の嗜好には合わないぜ』


「誰がお前の私欲を優先するんだ」


「話は終わった?」


酒を飲み終えたラヴァナが錫杖片手に話しかけてきた。こんなゆったりとしてるくせに、かなり過酷な幼少期を過ごしてきたんだな


「さて、あんたの任務は石油プラントまでの案内だ。よろしく頼むよ」


「ありゃ?案内だけかい?もし良かったらだけど私も参戦させてくれてもいい?」


「.........まあいいだろう。精々、足を引っ張らんようにな」






▼△▼△▼△▼△▼△




「あれが石油プラントか?でっかいな」


なぜだか知らんが、腕を組んだままデート気分で古錆びた石油プラントまで移動し、現在その様子を崖の上から覗いている。

『ここはニューヨークタイムズじゃないんだぞ』と茶化したら『照れなくていいんだよ~』と返された。この手の人間はあの馬鹿医者(セシール)を思い出す。


そんなアホのことを頭の隅に置いといて、監視を続ける。


「あれは世界大戦中に日本軍が石油確保のために建てたプラントなんだよ。終戦後、撤退した日本軍に代わってタイ政府が手を伸ばしたけど微少しか採れないことからプラントの役目は終わったんだ」


「あんなところで会合してんだ。少なくとも奴等にとって役目は残ってるさ。さて行くか」


「気をつけて。この辺りは奴等がウジャウジャいる。下手に戦闘は避けたいね」


確かにプラントとの距離が縮まる度に敵の数が増えていくように見える。

それに加え、武装も重度の装備だ。防弾ベスト、M249やM2を搭載した改造車が遍在している。


GPSだとまもなく中国との国境間際だ。下手に侵入してしまえば国防軍に撃たれる可能性もある。


「あの改造車を奪おう。あれなら移動しやすいし、不審に思われない」


「賛成~」


人目付かないところまで来たところをサプレッサー付きの拳銃で後方から荷台に乗る男を射殺。

仲間の異常に気づいた運転手に素早く駆け寄り切り刻む。さながらジャック・ザ・リッパーのような動きだ。


ラヴァナを助手席に乗せて出発する。帽子を被ってるために顔を認識されることはなく、易々と移動出来る。


プラントは岩山に合わせて建設されてるので出口は一ヶ所にしかない。

しかも門番がいる。重装備が四人。


「どうする?突破する?」


「いいや、騒ぎを大きくしたくない。どうするか....」


「おい、そこ」


後ろから声をかけられた。男が数人囲んでいた。そのうちの一人が窓から話しかける。


「.........なんだ?」


「お前、見ない顔だな。新入りか?にしちゃ、そんな連絡もらった覚えはないな。」


「確かにな。もしかして中国の商人じゃないのか?先に中に入ったから遅れて来たのかもな」


しめた。すでに中国マフィアのお偉いさんと密売人の傷男はすでに交渉しているようだ。

しかも出入り口はここのみ。ここを閉鎖してしまえば袋のネズミだ。


「........ラヴァナ、作戦を変更する。暴れるのは好きか?」


「もちろん好きだよ。それがどうしたの?」


「こいつらをやっちまえ。俺は先に向かってる」


その言葉に驚いたの後、ニコッと笑い、車を降りた。極上の女がいると辺りでざわつき、兵士が集まってきた。


「5分で戻ってくる。それまであいつらを足止め出来るか?」


「頑張ってね~」


これはイエスと言いたいのだろう。不審に思った重装備の門番が近寄ってきた。

ここからは入れないとか言うが、そんなのお構いなしに突破した。去り際に門番を撃ち殺す


「な、何しやがる!」


「まさか刺客か!?撃ち殺せ!」


おー、怖い怖い。だが、今叫んだ男二人は二度と口を開くことはない。


なぜならば頭蓋骨が粉砕されたからだ。前歯が数本折れ、顎も外れてるし、脳に強力な一撃を食らったせいで脳に骨の破片が突き刺さってるだろう。死と見て間違いない。


殺したのは破戒僧であるラヴァナだ。豪快に振り回した錫杖で次々と撲殺していく。


「ギャアア!!」


「ぐわぁ!?あ、足が.........」


「た、助けて助けて助けて助けてぇぇぇぇぇぇ...........!!」


新たに判明したことがある。あの錫杖は仕込み刀のように胴が割れ、そこからは刀身が覗いている。


座頭市のような抜刀術を魅せ、人を数人切り殺す。首や腕が宙に舞い、黄土色の地面が真っ赤に染まった。


「ふふ..........次はだ~れだ?」


「ひぃっ!?」


バッサリと袈裟斬りにした男をどかしてニタニタ妖笑しながら前進していく。

さすがはラヴァナ。名の由来とされるヴァイシュラヴァナ(毘沙門天)にふさわしい戦いぶりだ。



あいつは心配ないな。俺はさっさとターゲットのところへ行こう。


すでに騒ぎを聞きつけたらしく、奥の奥から増援が出てくる。そのほとんどは中国マフィアの部下でスーツに.M 1911ガバメントなどの拳銃のみだ。

この距離なら一瞬で側まで移動し、撃たせる暇を与えないことが可能だ。


それを実行し、増援を無力化に計る。


「撃て撃てぇ!ボスのところへ近づけるな。なんとしても足止めしろ!」


ガガガガと手のAK47などを撃ち込んでくる。絶えず放たれる弾丸の雨に車の後ろへと隠れるしかない。


「森羅術 鬼門!」


ラヴァナは香港アクションの棒術のような武勇で輪形部分を激突させる。金属で造られる頭部は凶器同様の殺傷力を生み出すがために人を傷つけるのは当たり前だ。

しかも、彼女ほどの強さになれば殺人はなおさらのことだ。


こちらも撃たれる前に近づき、マチェットで切り伏せていく。


「何事だ!我らの会合を邪魔するとはどこの者だ!」


ラッキー。中国マフィアのボスとタイの密売人があまりの騒ぎに顔を出した。写真で見た通りの顔だ。中国側は脂ギッシュ、タイは傷あり。

あとはあの二人だ


バンッバンッ!


「ひっ!?」


敵から奪い取ったガバメントで射殺を計るが距離があるために弾丸は外れた。


「や、楊さん、会合はまた今度にしましょう。あやつらに命をあげるくらいならその方がマシかと」


「う、うむ........あい、わかった。またの機会に.......」


ヤバイ。二人は逃げる気だ。中国に逃げられたら手も足も出せなくなる。何としても阻止しなければ


ここは一か八か突撃を!


「うおぉおぉぉぉぉ!!」


辺りの敵兵を切り殺しながら突進する。逃げようとしていた者も、撃とうとしていた者も、誰だろうと構わず切りながら二人の元へと走った。

同時にガバメントも火を吹いた。走りながらのために命中はしないが、彼らの心を乱すには十分だった。


「や、奴を止めろ!私の元へ近づけるな!」


「はい!」


「どけやこの糞がぁぁぁぁぁ!!」


護衛の発砲と斗真の剣撃が同時に触発した。しかしながら寸分の差で斗真の勝ち。

弾丸は外れ、刀身が護衛の体へ食い込んで絶命させた。


「さて、あとはあんただ」


「う.......ま、待て!助けてくれ、金ならやる!麻薬も買わない。だから私の命は助けてくれ!」


「残念だな。お前の私欲にまみれた悲願なんていらないね。こっちも商売なんだ」


「ぬ、ぬかせ!金を貰って人を殺してる奴が商売を語るな!」


「確かにな。だが、欲で人を殺してる奴等が儀徳を講するんじゃねぇ!」


ひぃっ..........!?


「じゃあな」


「ま、待て!話を.......」


これ以上話してる時間も余裕もない。人の話に耳を貸すのも疲れるのでさっさと引き金を引いて片付けた。


あっ、そういえばタイ人の方も殺らなくちゃな。


あれ?発砲音が止んだな。もしやあいつのせいか?



▼△▼△▼△▼△▼△



斗真がマフィアのボス、楊を殺してる間、間一髪で逃げれた麻薬の密売人 ティアンは一人で石油プラントの中をさまよっていた。


彼は部下とはぐれ、合流を試みるが初めて来た石油プラントの道がわからいのでウロウロするだけだった。


「ハアハア.........なんだってんだ奴は..........くそ!さっさとずらかるか」


「そうはさせないよ」


呟きに答えを返す謎の声。声のしたほうを見れば白のカッターシャツを血で真っ赤に染め上げたラヴァナが立っていた。


「誰だ!?」


「ただの仏教徒さ。それより逃げれないよ。私の錫杖からね」


「黙れ!よくも一斉一代の会合を邪魔したな!この屈辱はいつか......」ドスッ!


『返してやる!』と言う前に口はゴミとなった。なぜならば熟したトマトを杭で刺したようにラヴァナの錫杖が顔を貫通していたからである。


顔の臓府がほぼ壊滅しており、錫杖が後ろの壁に突き刺さり、キリストが磔にされたような光景を生み出した


ラヴァナはその光景に口元を三日月に歪めると錫杖を抜き、とある男の方へと歩き出した。




▼△▼△▼△▼△▼△




「やっほ~、斗真」


「終わったようだな。おかげで助かったよ」


ラヴァナが片付けた敵の死体を踏まないように気を配りながら帰途する。

任務が終わったことをバカルに教えたら車を寄越してくれた。『ラヴァナも乗ったらどうだ?』と言ったら『歩いていくよ』と断れてしまった。なんでも、破門されても仏教に心残りはあるらしく、まだ修行は止めてないとか。


熱心なことだなと思ったが、殺生してる時点で仏教なんか本末転倒だな。


「ねっ、斗真はこの後時間ある?バンコクを案内してあげる」


「いや、悪いがハゲにバイトの報酬をわたせにゃならんのだ。時間もないしな」


「ぶ~。浮気者~」


なにが浮気者だ。付き合ってもないのに。

腕を組んで胸を密着してくるから早く離れたい。ただでさえ、黒のブラが透けてるのだから俺の目に毒で仕方ない。


「.......車が来たようだ。ここでお別れだな」


「寂しいな、またタイに来てね。いつでも駆けつけるから」


「よぉ、斗真。デートの約束をするとは中々の......ぶへ!?」


車の運転手はバカル。変なことを言うので顔を一殴りしてやった。


「ふふ.......デートか.......それもいいね」


「ん?なんだ?」


「ううん。なんでもない」


何を呟いたのかと首を傾げながら車に乗り、窓から握手する。

去り際にじっと見つめてくるのがどうも気になる。


釈然としないまま車は急発進した。




▼△▼△▼△▼△▼△




「斗真か........私、面食いじゃないのに........こうなるとはね.........」


斗真たちが去った後、何かと不思議なことを呟くラヴァナ。発言から察するに自分の性格を否定したのち、熱を孕んだ眼差しで岩の谷を見つめている。


相変わらず周りには死体が散乱している。それを抜けると一番近い都市まで歩き始めた


「また、会えるといいな..........」


その小声は突風に掻き消され、風の音に混じり込んだ


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