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罠に嵌まる狼



どれくらい走ったのだろうか


「ハァ・・・ハァ・・」


点々と偏在している脇道の街灯が地面と俺を照らし出す。古く錆びた風格は俺の姿を明るみにさせた。



ーーーーーーーーーーーー血塗られた姿を








『探せ!草の根を分けても探し出せ!』


『奴は殺人犯だ!一刻も早く捕まえろ!』


雨天の闇が月明かりに照らされ、雨粒がダイヤモンドダストのようにキラキラと点滅していた。

そこに警官たちが懐中電灯片手に辺りを見回している。


狙いは俺。そんなの分かりきったことだ。


「ハァ・・・ハァ・・・。まだいるのか」


察しの通り、警察に追われていた。はたから見れば俺の風貌は血塗れ。どこぞの殺人犯にしか見えない


なんとか追手をかわし、陸橋の下に隠れた。どうやらここは死角となり、警察の目は届かないようだ。


しばらくしてか、警察は移動していった。ここを選んで正解だったな。


だが俺は無実だ。というより、嵌められたのだ。


俺は暗殺者として裏で仕事をしてたが、任務以外の人を殺したことはない。むしろ、殺しは嫌いなほうだ。

だが、1度人を殺してしまったら2度と前の自分には戻れない。暗殺者というのはそういうものだ。


今日もいつもと同じように依頼人のところへ行ったら真っ暗な部屋だった。

停電か?と思ったが突然電気が点き、目の前には老人の死体があった。


そこでようやく気づいた。俺は嵌められたのだと。


そこへ突然の銃撃。俺を嵌めた奴等の仕業だろう。俺が入ってきたドアから数人の男たちが一斉射撃してきた。


回避行動が遅れ、身体に何発か被弾してしまった。


元々、鍛練された身体なので咄嗟の回避で急所は免れた。

だが、被弾したことに変わりはない。銃創からはドクドクと血が流れ、患部を腐らせていく。


なんとか武器で応戦し、逃げてきたものの警察の標的にされた。

おそらく、内部で組んでいる輩がいるのだろう。でなければ、あんなに早く到着するはずがないからだ。


そして、 現状へと至る。


「くそ!早く手当てしなければ・・・」


撃たれてから数時間は経った。すでに化膿しかけており、見るものを吐き気に誘う異見だ。


懐のショルダーバッグから緊急用の医療道具を取り出した。

これには怪我した際の包帯や軟膏、絆創膏などの家庭医療道具はもちろんのこと、縫合用針や縫合糸や局部麻酔薬などが入ってる。


これは病院があったとしても素性が明らかにさせることを恐れているので極力、他人には関わらないようにしてる。

怪我を負ったときは自分で処置できるよう、こうしてつねに持ち歩いているのだ。


撃たれたのは肩と脇腹だ。

至近距離から撃たれれば誰だって重症だ。弾丸は体内で止まってしまっているので緊急切開による摘出手術を行うほかあるまい。


ピンセットを2本使って弾丸の摘出する。

痛みを堪えるために歯にハンカチを噛んで精神を落ち着かせる。


「ええい、ままよ!」


そのハンカチに強く歯が食い込んだのは当然のことだった。










???サイド



「雨が降ってきましたね、お嬢様。」


「うむ!だが、我は雨も好きだぞ!雨音を聞いてると気分が落ち着くのでな」


私、十六夜 凛はお嬢様の散歩に付き合ってる。

お嬢様はほんと散歩が好きなお方だ。休日は大抵、散歩を欠かさない。

たとえ、雨や雪が降ろうと散歩を欠かしたことはない。


だが、今日は朝から曇り模様。天気予報でも降水確率が高かった。

思ってた通り、雨が降り始めている。


お嬢様を濡らすわけにはいかない。すぐに部下に連絡して車を手配してもらったところだ。


それまでの間、近くの屋根付きのバス停で雨宿りさせてもらうことにした。


「お嬢様、しばらくの間だけお待ちください。すぐに車が来ます」


「ええー!!散歩はどうするのだ!まだ半分も歩いてないではないか!」


可愛らしくプクーと頬を膨らませるお嬢様。かなりレアショットだ。


「残念ですが、今日はもうお帰りになったほうがいいかと。辺りもパトカーがウヨウヨしてます。なにか、あったのは間違いないでしょう。」


「仕方ない。ならこの埋め合わせはいつかしてもらうぞ!」


「ええ、もちろんですとも。ーーーーーーーー!!」


血の匂い。

この近くからだ。


「? どうしたのだ?」


「・・・お嬢様、私の側を離れないでください」


長年の経験か、血の匂いがわかるようになった。護衛も兼ねてるのだ。血を嗅ぐ機会などいくらでもある。


お嬢様へ手を出そうとする不逞の輩をこの手で染めてきたのだ。

たとえ私の手が黒で染まろうと、お嬢様だけは白のままでいて欲しいがゆえに。


太もものレッグホルスターから取り出した拳銃を構える。

ただの犯罪者ならこれで充分だ。わざわざ相棒を使うまでもない。


ガサガサ


河川敷の葦を踏みながらゆっくりとした足並みで降りていく。

向かうのは陸橋の下だ。匂いはあそこからしている。


獣ならいいが・・・


怪我した動物ならこんなに緊張しなくていい。しかし、不安はとれない。

もし血塗られた包丁をもつ犯人ならば?

そんな妄想が頭の中を埋め尽くすばかりだ。


「凛・・・なにがいるのだ?」


「お嬢様、お静かに・・・」


おそるおそる陸橋の下に向かう。それに伴い血の匂いがより一層強くなっていく。


雨で匂いが消されかけてるとはいえ、長い時間そこに匂いが留まっていたようだ。

おかげで、微かな匂いが鼻を歪ませる。


(ここか!)


影になって薄暗い陸橋の下に銃口を向けた。だが、そこに居たのは血塗られた包丁をもつ犯人でも怪我した動物でもなかった。


「これは!」


お嬢様も声をあらげた。無理もない。眼前に広がるのは上半身裸で気絶している男がいた。

しかも、手にはピンセットと赤い塊のようなものを置き、縫合糸と縫合用針が散乱してる。


「怪我をしてるぞ!大丈夫か!」


「ダメです!素人が触っては二次感染を起こします!」


おもわずお嬢様に怒鳴ってしまった。だが、人の命が危機に晒されている。

馴れないお嬢様が触ってしまっては悪化させてしまうだけだ。


「ここは私がやります。」


その男の状態を調べる。

傷口の縫合からするとかなりの手慣れのようだ。殺菌から二次感染予防までしっかりと施されており、まるで外科医が治療したようだ。


(なにか身柄を証明するものは・・・)


調べるが、運転免許などは持ち合わせておらず、身分を証明するものはない。

だが、気になるのを見つけた。





ナイフだ。


だが、そのナイフはアウトドアなどに使うための万能ナイフではなく、殺人用の特殊ナイフ。

かなりきれいにされていることから察するとかなりの腕のいいようだ。


まさかここで自分と同じ出身の者に出会すとは思わなかった。


「凛、どうするのだ?」


「放っておきましょう。身分は分かりませんが、暗殺者かと思われます。」


「放っておくのか!?怪我をしてるのだぞ!」


「ですが・・・貴女や奥方様に危害が及びます。残酷ではありますが・・・ここは」


「ならば!さっきの埋め合わせだ!約束したではないか!」


お嬢様はどうしてもこの男を助けたいようだ。しかもこの状態のお嬢様は手がつけられない。

下手に騒ぎを大きくしたくないので、ここは情けをかこるか。


「わかりました。ですが、この男を治療した後、警察に引き渡します。それでもいいですか?」


「わかった。その男の命が助かるなら・・・」


仕方ない。部下に手配させるとしようか。

ほんとにお嬢様は慈悲深い方だ。


だがこの男、何者だろうか?


その疑惑のみが雨天の空に掻き消されるように溶け込んでいった。





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