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あなたのことを知っていこう?②





「むー…。そこまで言うなら読んでみるよ、じゃあ秋穂、借りるね。ありがとう。」


「どういたしましたー♪」


満面の笑みを浮かべて…ほんと操の妹とは思えない可愛さだよ。仕方がない、秋穂の好意はちゃんと受け取っとこう。


「…勉強ねえ?」


不満げに漫画を鞄に入れて、そのあとは他愛ない(クダラナイ)話をしたあとブラブラと家に帰り、ベッドの上に鞄を放り投げて部屋着に着替えた。


「あー…今日は疲れた。」


項垂れながらベッドにごろんと身を任せて片手で鞄の中を漁る。秋穂に借りた漫画…やっぱり読むのには若干抵抗があった。


漫画は好きだけどほぼ少年漫画しか読んだことがないし、ラブストーリーなんて読む機会が殆どなかった。姉妹もいないし、従姉も歳が離れてるから滅多に会ったりはしない(もう社会人だし)。俺自身も別に興味も持たなかったからなあ…。


「君のすべてが知りたい…とか、そんなの無理じゃね?って思うけど…。キュンキュンねぇ…。」


寝転がってぶつぶつ一人言を言いながら、取り敢えずページを開いていく。やはり絵がキラキラしてるな…それが第一印象だった。


物語はこうだ。――――――…突然父親が転勤になり、家族皆で引っ越した主人公(平凡な女の子)が、転校先の学校のイケメンに目をつけられる。最初の印象は最悪な二人だけど、色々ハプニングあってお互いに惹かれていく。


うん、ありがちだね。


だけど途中にライバルが出現して思い悩んだ末、主人公がイケメンのことを諦めようとする…けど。




西條(イケメン)がめちゃ男前なんだけど!!何あれ、『お前が俺を諦めるなんて認めない、俺だけを見ろ、俺だけを信じろ。』とか!!ヤバくない!?」


「ああ、ヤバイな。どっぷりハマりすぎじゃないか、空良。」


次の日の学校、操の机に走って第一声から漫画の感想をグワーッと吐き出す。操は淡々とした態度で聞いていたが、俺が話し終わると冷静な返答が返ってきた。


「や、俺もそんなハマらないとは思ってたんだよ!?だけどさ、主人公、平凡って言いながら可愛いし、イケメンマジイケメン過ぎてね!?ってかあのライバル女ほんと腹立つけどなんか切なくなるくらい一途…だからお願い、続き貸してー!!めっちゃ気になって眠れねーよ!!」


見事にハマってしまった。もう何にも否定しません、僕は単純な人間です。


借りたのは最初の一巻だけだけど、この漫画は既に十冊出ているらしい。昨日読み終わってからネットで調べた。ああー、主人公どうすんのかな、イケメンは?ライバルは?ヤバイほんと気になり過ぎる。


「家に帰らないとないんだから今は諦めろ。それに秋穂にちゃんと許可とれ。…で?」


「…?で、って何?」


キョトンとした顔で俺は操を見つめた。


「だから、恋愛っていうのがどういうものなのか分かったのかって聞いてるんだ。」


「…ああ。」


そうだ…その為に借りた漫画だった。


「…えーと、俺…真由香ちゃんと付き合ってみて…こんな感じにキュンキュンしたりはしてないデス。」


「つまりは?」


操の言葉に喉が詰まる。けど、むーっと苦い顔をしながら答えた。





「付き合ったけど…俺の好きは恋愛の好きとは…違い、 ました。ゴメンナサイ。」


昼休み、俺は真由香ちゃんを呼んで謝った。


まさか漫画で教えられるとは思わなかったけど、真由香ちゃんの気持ちを無下にしてたことが今ならよく分かる…と思う。


いきなり謝られた真由香ちゃんはキョトンとして俺を見ている。俺は居たたまれなくて縮こまる。


「…空良君…もしかしてやっと気づいたの?からかってるんじゃなくて?」


「へ!?違うよ、その…俺、今まで恋愛話とかしたことなくて…普通に皆好きだし…その…。」


「…―――――ぷっ!」


ウジウジと言葉を濁していると、真由香ちゃんは突然笑い始めた。ちょっとショックだけど、仕方がないことで…わ、分かってるよ。


「あははは!空良君、おかしー!こんなにピュアだとは思わなかったよ、うふふ。」


ピュア!?って…俺のこと?


今度は俺がキョトンとしていると、真由香ちゃんは昨日とは違ってにっこりと微笑んだ。


「私こそ…昨日はゴメンナサイ。いきなり過ぎて吃驚したよね…酷いことも言っちゃったし、反省してる。」


「いや、だって俺が悪いんだし…。」


「ううん、私もいけなかったの。空良君に告白してOKを貰えたときスッゴク嬉しくて浮かれてたんだ。色々一人で期待して、一人でガッカリして…バカみたいだよね。エヘヘ。」


恥ずかしそうに笑う彼女の表情に、心臓が跳ねる。キュンッ…て、あれ?


「―――…げ、幻滅した?」


「ええ!?あはは、しないよー♪言ったでしょ?私も悪かったの!!まさか空良君が恋愛下手だとは思ってなかったし…そりゃあ、折角彼女になれたんだからやりたいこととかあったよ?でも、私が空良君に恋愛ってどんなものか教えてあげられなかったってことだもんね…。」


「や、えっと…。」


「いいの。ちょっとだけ分かってたんだ。私じゃ空良君の一番にはなれないって…。だからね、おあいこだよ。もう謝るのはなし!ね?」


そう言う真由香ちゃんはウインクしながら人差し指で合図した。キュンッ…おいおい。


「…うん、わかった。ありがとう。」


「ふふ、私もありがとう。ねえ空良君、私達、別れちゃったけど…これからも友達でいてくれる?」


「―――もちろんだよ!」


エヘヘってお互いに笑い合ったあと、真由香ちゃんは女友達に呼ばれて教室に戻って行った。俺もちょっと間を空けてからとぼとぼと自分の席に戻った。


すると、すかさず鶴村が俺の所へやって来た。イラつくようなニマニマ顔で。


「おい、アオー!!どうだった、どうだった?うまく謝れたのか?ヨリを戻せた?それともまた修羅場に―――…?」


「…。」


「え、ちょっとアオ?どした?」


座るなり机に突っ伏す俺を見て鶴村はキョトーンとしている。項垂れながら俺は視線を上げた。


「…今さらになって、恋って切ないもんなんだなって実感。はあ…。」


「あ?お前本当にどうしたの?」


分かってるよ、これは恋じゃないって。でもさっきの真由香ちゃんの表情にときめいたのは本当なんだ。多分、あれが恋の始まりなんだろうな。


真由香ちゃんは俺に対してずっとあんな気持ちだったと思うと凄く申し訳なくて…自分が至らなすぎて恥ずかしい。


失恋って…多分この何倍も痛いんだろうな。ごめんね、真由香ちゃん…笑ってくれてありがとう。


―――…そう言えば、漫画を読んでて気づいたことがあるんだ。昨日の、操の言葉。俺はじっと鶴村を見つめて言った。


「ごめんな、鶴村。お前も辛いんだよな、万年片想い…。」


「うぎゃああああー!!」


やっぱりそうなんだ…。あの鶴村でさえこんな気持ちを持ってたのか。からかって悪かった。


「鶴村五月蝿い。ほら、空良。差し入れ。」


絶叫する鶴村の頭を叩いて操が俺に何かを差し出してきた。…俺の好きな甘いカフェオレだ。


「み、みさおちゃ~ん!」


この男前め、惚れてまうやろー!!


ズコーッ!ってカフェオレを一気に飲み干して、その甘さの余韻に浸る。いつもよりちょっぴりだけしょっぱく感じたのは多分気のせい。


「ま、いい経験になったんじゃねーの?今度誰かと付き合うときはちゃんと相手のこと考えてやれよ。」


…普段の鶴村だとイラァッとしかしないけど、恋愛については先輩なんだなって認めるしかない。こんちくしょう。


「ふぅ…肝に命じとく。」


そんな会話をしながら昼休みは終わった。



放課後、昼に部活の集まりでいなかった修司にも事情を説明したけど、謝って偉いって逆に誉められた。皆して優しいな…泣けてくるぜ。


そしてちょっと心にぽっかり穴が空いたような気分になりつつ、また操の家に上がり込む。勿論目的は漫画です。もうね、続きが気になりすぎてね、我慢出来なかった。


「はい、これ♪おもしろいよー!」


「ありがとう秋穂ー!!ありがたく借りるなー♪」


受け取った漫画を見て早く読みたくて堪らない。その気持ちを察して、操はハアと溜め息をついた。


「…お前は本当に傷ついたのか?」


う゛…そんなこと言われても。操の言葉に喉が詰まったみたいに返事が返せない。


やっぱり本気の恋をしたら…漫画よりも優先されるよね。うん、本当にごめん。心の中でまた真由香ちゃんに謝った。


「ねえ、操ちゃん…俺が、本気の恋…出来ると思う?」


操は少し考えて、さあ?って言った。しかも動作付で。うおい、なんか悲しいんだけど!?出来ないって…こと?


「バーカ、なにヘコんだ顔してんだよ。…なるようにしかならないってことだよ。俺が恋しろって言って出来るもんでもないし、全てはお前の気持ち次第だろ。」


「んん…それは、そうだけどさ…。」


「逆に聞くけど、お前は好きなタイプとかあるのか?」


好きなタイプ…。そう言われれば考えたことあんまりないかも。そりゃバカな男子高校生だけならそういう話も出るけど、いつも話を合わせて適当に答えて終わってた。


「そういう操は?あんまり聞いたこと無かったけど、好みとかあるの?」


「俺?…まあ、一緒にいても別に苦じゃなかったらいいな。」


「え?なにそれ。」


「好きになること自体面倒臭いのに一緒にいてあれこれ考えるのは嫌なんだよ。空気だな、俺は空気と結婚する。」


まさかの答えにブフーッと噴き出して笑った。


「あははははは!!そんなのアリ!?操ウケるっはははは!!」


「うっせ。ほら、俺は答えたぞ。」


次はお前の番、そう言うように俺を見つめてくるので、俺は笑うのを止めて黙って考える。


好きなタイプ…か。女の子は皆好きなんだけどな。一人一人違うのは当たり前だけど、それぞれ良いとこがあって…人間ってそういうもんでしょ?


それでも…それ以上、好きって気持ちが生まれるとしたら…。


「…どんな人だろう。」


やっぱり答えは出なかった。そりゃそうだ。それが分かってたなら苦労しないよ。


はあっと溜め息をついてうなだれた俺を秋穂がポンポンと叩いてにっこりと笑う。


「青春だねえー!」


漫画の影響でしょうか…秋穂さん、若干おっさん臭い台詞ですよ?



そのあと少し借りた漫画を読みながらダベっていたが、時計を見てあることを思い出した。


「あ、やべ!ケンタの散歩行かなきゃ!」


ケンタとは家で飼っている犬の名前だ。白くてふわふわした毛並みの愛犬、俺の友達。


「おーおー、早く行ってやれ。ケンタにも愛想尽かされないようにしろよ。」


「尽かされませんー!」


読みかけの漫画を持って操の家をあとにした。俺の家は歩いて十五分位の場所にある。急いで漫画を部屋に置いて、庭に向かって彼を呼んだ。


「ケンター!散歩行くぞー!」


「わふんっ!」


尻尾を嬉しそうに振りながらリードを咥えてケンタが待っていた。俺が近づくと二本足で立ち上がって抱きついてくる。可愛いやつめ!


サモエドって種類で人懐っこくて遊ぶのが大好きだ。ただし、あんまりほっとくと吠えたり穴掘ったり忙しなくなるから注意だよ!


「よっし、公園いくぞー!」


夕方に近所にある大きい公園で散歩するのが日課。そこまで体は大きくはないけど引く力が強いから歩くってより走るって方が合ってる気がする。


家から五分くらいで目的地に到着、ここは俺にとってもお気に入りの場所だ。小さい頃から遊び場にはお世話になったし、植物園並に色んな花があるからこんな町中でも自然が感じられて落ち着く。


ケンタが来てから毎日通ってるけど、やっぱりその気持ちは変わらない。知ってる人も沢山いるし、声を掛けてくれるから元気も貰える。


俺的パワースポットだ。


公園に入って外側の道をぐるっと一周、そんで芝生のところでボール遊び。いつものコースで行きますか。


「ケンタ、あんまり引っ張るなって!」


張り切り過ぎてぴょんぴょん跳ねている。どうした、今日は元気だなー!


男の俺でも油断したら思わずリード放しちゃうくらいのパワーがあるので気を付けなきゃ。別に咬んだりはしないんだけど、結構な勢いで懐きに行くからね。本人は襲ってるつもりはないだろうけど…特に女の子のとこに行くのは誰に似た?


「あふんっ!!」


はいはい、行きますか!


軽くジョギングのつもりで一緒に走る。嬉しそうに駆けるケンタを見てると思わず笑みが溢れる。


いいなあ、ケンタは。こうやって走ってるだけで幸せそうで…。


下を向いて走って、タイルを見つめて考える。恋愛って…恋って何だろう?今まで俺普通に生きてたけど、もしかして初恋すらしたことないのかな?


だって皆、平等にって訳じゃないけど好きだよ。それは偽りなんてない本当のこと。


でも――――…一番って誰?って言われると、言葉が出ない。順序づけしなきゃ駄目?って思っちゃう自分がいる。


…高校生になってからこんなに恋愛で悩むなんてな。付き合うとか、まだ先だろうけど結婚とか、普通に生活してるうちに出来るもんだと思ってた。けど…。


『ちょっとだけ分かってたんだ。私じゃ空良君の一番にはなれないって…。』


真由香ちゃんの言葉が胸にチクリと刺さる。


ねぇ、もしかして真由香ちゃんはこんな俺を一番に想っててくれた…ってことなのかな?


そんな君に―――俺は気づくことなく、傷付けてばっかりだったんだね…。


『これからも友達でいてくれる?』


ごめんね、本当にありがとう…真由香ちゃんのあのときの笑顔…忘れない。忘れられないものになったよ…。



なんて、らしくもなくしんみりした表情でナイーブになっていた。ら?


「わんっわふっ!!」


いきなりケンタがスピードを上げてグンッと手が引っ張られた。


「えっ、ちょ、ケンタ!?」


ヤバい!!指絡まってるから!!リードで締め付けられた指をほどこうとして…油断した。


「わんっ!!」


ここぞとばかりにケンタは跳び跳ねて暴れだし、遂に俺の手から逃れるように走り出した。リードは地面をズルズルと這うように滑っていく。


「しまったー!!」


急いで後を追いかけるも、ケンタは追い駆けっこでもしているかのように物凄い速さで尻尾を振っている。違う、楽しそうだけど遊びじゃないんだって!!


「ケンタ、止まれー!!」


大声で叫んでは見るものの、指示に従う様子もない。元々言うこと聞く方じゃないから…お手ぐらいしか出来ないし。


とか思ってる間にも誰かに襲いかかったら大変だ。幸いにもあんまり人がいないし、ケンタも飽きやすい性格だからそう長くは走らないだろう。


自慢じゃないけど俺だって足は速い方だからね、追いつく追いつく!と、思ってたら…。


「わんっわんっ!!」


ケンタが何かに向かって走っていく。まるで狙いを定めたかのように…――――って!ひ、人がいる!?


ケンタの向かう先に人影が見える。後ろ姿しか見えないけど、多分女の人だ。ヤバいよ、このままじゃ――――!!


「すみませんー!!犬に気をつけてくださいー!!」


俺は出来る限りの大声で叫ぶと、その人は反応してクルッと振り返った。帽子を深く被っていて顔がよく見えない。でもケンタの方に視線がいっている気がする。よかった、気づいてくれて。


とにかく逃げてくれるか、ケンタがスピードを落とすかしてくれないと…。


―――って!?あれ、あの人逃げない…ってか、動じてない!?嘘でしょ、ケンタ全速力で向かってますけど!?


振り返った女の人は何も言わずに突っ立っている。もしかして固まってる!?怖くて動けなかったりして―――お願いだ、止まってくれ、ケンター!!


女の人とケンタの距離がすぐそこになり、俺は間に合わないことを悟って目を瞑った。


その時だ。



カシャッ!カシャッカシャッ!!


いきなり変な音が耳から入ってきた。と、思ったら。


「きゃうんっ!?」


ケンタがその音に驚いて急に飛び上がって方向転換する。それを見て俺はケンタに対して声を張り上げる。


「ケンタ!!ダメだろ!!」


俺の怒った声に気づいたのか、ケンタは走るのを止めて漸く大人しくなった。追い付いた俺はリードを拾って握りしめる。


「勝手に行くな!!分かったな!!」


わざと大声で叱りつける。悪いことだと思ってもらうために。じゃないと同じことを繰り返すからね。そこはちゃんとしないと…。


「きゅうぅん…。」


悲しそうに鳴くケンタに、めっ、って言いながら軽く頭を叩いた。どうやら反省したようだ。ふう…一安心。


あ、そういえばあの人は?


俺は顔を上げて女の人に目をやると、彼女はちょうど立ち去ろうとしていたところだった。


「ウチの犬がすみませんでした!」


そう言うと、彼女は小さく頭を下げてスタスタと歩いて行ってしまった。もう姿は見えない…って歩くの早っ!ちょっとしか見えなかったけど、凄く無表情だった…。


お、怒ってた…のかな?


そしてさっきの変な音、あの人が持っていたカメラのシャッター音だったらしい。立ち去る時にチラッと見えたけど、重たそうなカメラを抱えてたから、多分間違いない。


にしても―――…あの状況でよく冷静にシャッターを切れたもんだなって思う。万が一、襲われてしまったらとか考えなかったのかな?


それに、全然顔色変えなかったように見えた。何て言うか…その、失礼だけど、さ。



「…変な人。」


ぽつりと呟いて俺も散歩に戻る。


初めて見た人だったな。知らない顔だった。今思うと帽子を深く被ってるし、カーディガンにパンツ姿でスッゴク普通の人って感じ…あんまり女らしくなかったなあ。


…ま、とにかく、何にも無かったし俺には関係無い…か。






関係無い…んだけどね。


その日から暫く経ちますが、実はあの人を見たのはあれが最後じゃなかった。


あの日を境に彼女がたまに公園に来ていたのを見た。毎日じゃないけど、四日に一回は必ずいる。


そして彼女の手には毎回、重そうなカメラが握られていた。


別に話し掛けたりはしない。だってずっとカメラ構えて写真をカシャカシャッて撮ってるんだよ。そんなに撮るものあるのかな?…何て言うかよく飽きないなー、って思う。


俺にはそこまで夢中になれるものがないからかもしれない。だけど、やっぱり変な人だなぁ。


だってさ、夢中で撮ってるのに――――毎回、無表情なんだもん。笑ってる顔なんて見たことない。


そりゃケンタの散歩中だからジッと見てる訳じゃない。今日もいるなーってチラリと横目で見るだけ。あんなことがあったからつい目が行ってしまう…そう、それだけなんだ。


ただ…一個だけ思ったことがある。


よく帽子を被っているし、やっぱりあんまり可愛らしい格好とかしてるの見たことないし、無表情だけどさ――――。


笑ったら、多分可愛いんじゃないかな?



…ちょっと思っただけだよ。






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