あなたのことを知っていこう?①
俺が恋愛分かってないって?そんなわけないじゃん!
天気は快晴。ぷかぷか浮かぶは白い雲。空は今日も平和ですねー。
ボーッとしながら教室の窓から空を眺める。俺は窓際の後ろから二番目の席、かなりいい席だと思う。一週間前の席替えでゲットしたけど、いいね、やっぱり。
黒板から遠い、イコール、先生との距離も遠い。だから上手くやれば授業中寝てられるし、早弁するのもバレにくい。まあたまに後ろまで歩いてくる先生もいるけど、一番後ろよりはいいでしょ?
何より暇だったら外を眺めてられるし、天気が良ければぽかぽか気持ちいいし。夏とかは日光で暑すぎるかもでちょっと勘弁。だけど静かだし…やっぱ気に入ってます。
あーヤベ…眠くなってきた。昼休みの後が古典とか無いわ。先生の言ってることがまるで子守唄で心地いい。
俺の首は次第に力を失うかのように下に下がってはちょっと上がり、下がっては上がりを繰り返す。
…昨日ゲームやってて寝るの遅かったのが効いた…いいかな、このまま…あとで…ノート見せて貰えば…。
意識が遠退く。眠りの女神が俺を誘う。ほら、手を振って名前を呼んでる。
『ほら、おいで……君、…の君…。』
待って待って、ちょっと聞こえない。今そっちに行くから。あははは♪
俺は女神に向かって走り出した…。
「遠野君!!」
「ふぇいっ!?」
うたた寝中に耳元で大声を出されて思わず俺は飛び起きた。しかも奇声まで発して…ふぇいって何?
そして恐る恐る横に視線を移すと、古典の女教師、紗由理先生が涙を浮かべて俺を見ていた。
あちゃー。
「…遠野君は…先生の話が嫌いですか?そんなにつまんないですか?…うぅー!」
しまった。紗由理先生は嫌なことがあると直ぐに泣く困った先生だ。この先生はうちのクラスの受持ちじゃないけど、いつもの先生は部活の試合の引率だかで今日は紗由理先生だったんだっけ…。
皆がやっちまったなって顔でこっちを見ている。そして事の成り行きを見守る体勢だ。そりゃ誰も助けてくれませんよね…仕方がない。
「先生だって一生懸命やってるんですっ…それなのにぃ…ふぇーん、遠野君が!」
「違うんです、先生!」
俺は先生の両手を掴んでじっと瞳を見詰めた。先生はビックリして泣くのを止める。
よし!俺は少し目を潤ませて、キラキラとした瞳をして先生をロックオン。更にちょっと甘えた声色で先生に迫る。
「先生の声があまりにも素敵で心地好くて…まるで女神が歌を歌っているかのようでつい…。でも、だからと言って寝てしまうなんて失礼ですよね…本当にすみませんでした!」
「めっ…女神って…――――きゃあああ!」
先生はパッと俺の手を振り払って顔を隠す。…失敗したかな?やっぱ言い過ぎたか。
そう思っていると、手を下げた先生の顔はニッコリと微笑んでいた。
「――――そんなこと、言ってくれたの遠野君だけよ。…もう、仕方ないわね♪今回は許してあげるけど、次はその言い訳は通じないわよ?うふっ、じゃあ授業を再開するわねー!私の美声で♪やだん♪」
自分で言って照れているが、満更でもなさそうだ。取り合えず…危機は回避出来てホッとする。
「ぶわははははは!!女神だって!!うひゃひゃひゃひゃひゃ!!」
「うるさいバカ鶴村。黙れアホ、あっち行け。」
古典の授業が無事に終わると、俺の机に吹っ飛んできていきなり笑い始めたこの男、鶴村大。お調子者で失礼極まりなくて、人をイラッとさせる天才だ。
「なんだよひっでー!!ちょ、も一回やれよあのキラキラビーム、先生は僕の女神ですーって!!ウハハハハハ!!」
あーもう、本当にウザい。こんなんが野球部のキャプテンっていうんだから部員たちは本当に可哀想だと思う。俺だったら即辞めるね。マジでバットとメット叩き付けてマウンドの上に頭擦り付けてやる。
「もう止めなよ、鶴村笑いすぎ。でもよかったね、先生も嬉しそうに帰って行ったし、大事にならなかったんだからさ。」
にこりと優しい笑顔で癒してくれるのは駒野修司。見た目は背が高くてスラッとしているのに、中身はしっかりした体つきをしている。剣道部主将で、男女分け隔てなく優しいし、おっとりした性格で皆を和ませてくれる。
「修司~だよね、だよね!?俺頑張ったと思わない!?」
「うん、頑張ったよ。でも居眠りはしちゃ駄目だよ?」
おっとー、真面目なとこは相変わらずだ。
「まあ、あんなこと出来るのはお前くらいだけどな。」
素っ気ない態度の眼鏡キャラは寺石操、女みたいな名前だけど男です。俺と幼稚園からの付き合いで親友である彼は、基本何事も無関心無表情に見える。けど、ちゃんと熱いところはあるんですよ、これが。
「馬鹿にしか出来ない芸当で恐れ入る。」
正し口は辛口だ。しょぼん。
「ぶー!操ちゃんのイジワル~。」
「本当のこと言って何が悪い。ちゃんは止めろ、空良。」
「ふぇーい。」
あ、申し遅れました。俺の名前は遠野空良。空良って書いて、アオって読むんだよね。ややこしいけどなかなか無くて俺的には結構気に入ってます。
現在高校二年生になったばかりです。ただいま春、桜の綺麗な季節ーって言いたいけど…もう殆ど散っちゃって葉桜っすね。
さて、鶴村にバカにされたのは癪に障るけど…皆が俺の行動に対してあんまり騒いでいないことにはお気づきでしょうか?
普通の人なら恥ずかしいようなことも、俺はそこまでじゃない。何故かって?
自慢じゃないけど、俺ってば昔から皆に可愛いっていわれてます。背も156センチで他の男子に比べれば高くないし、目も大きいし、顔も普通より小さめ。
ジャ〇ーズに応募すればってよく言われるんだけど…アイドルって大変そうだし興味がないからやらない。でも、言われるとやっぱちょっと嬉しいよね。
そんなんだから人に甘えたりするのは得意だし、他人の感情に合わせて話を盛り上げることだって苦手じゃない。ぶっちゃけた話、俺ってば結構人気者の部類に入るんじゃないかなって時々思う。
…あれ?これ自慢?
「あ、そろそろ教室移動しなきゃね。」
修司の言葉で時計を見ると、次の授業開始三分前。確かに移動時間考えると動いた方がいい時間。
次は社会…俺はバカ鶴村と同じ地理なんだよねーウザー。修司達と同じ世界史や日本史にしとけばよかった。
「それじゃ先に行くね。」
それぞれ勉強道具を取りに解散。さて、俺も移動しますか。机の中をごそごそと漁っている、その時だった。
「空良君。」
ふと名前を呼ばれて顔を上げると、目の前にいつの間にか一人の女子が立っている。
「?なにー?真由香ちゃん。」
俺は名前を呼んでにっこり微笑む。実はこの子、俺の彼女です。少しタレ目でセミロングのフワフワした髪で、学校の中でも可愛い子ランキング(男子だけの内緒のランキング)でも上位に入る。
二週間前、告白されてカレカノになったんだけど…なんだろ?やけに深刻そうな顔をしている気がする。
「空良君…放課後、ちょっと時間ある?話したいことがあるの…。」
話したいこと?今言えばいいじゃん…って言うのを抑えて俺は分かったって返事を返す。真由香ちゃんが去ったあと、鶴村が教科書片手にまた俺の所にやって来た。
「何々?彼女からの呼び出しかよ、これフラグじゃね?」
ニヤニヤとムカつく顔をしながら鶴村が言った。
「はあ?フラグってなんの…。」
「さあねー。あ、あとで話聞かせろよ♪」
余裕ぶった態度が更にムカつく。
んでまあ…授業にはギリギリ間に合ってホッと一息。何でか知らないけど遠いんだよ、この教室。しかも俺の席は先生の目の前だし…。
それで無事に居眠りせずに終わりまして、掃除とか色々あって――――――放課後です。
「お待たせ…。」
真由香ちゃんが友達との会話を終わるのを待って、二人で下駄箱に向かう。本当に女子ってお喋り好きだよねー。
操ちゃん達には用事があるって言ったけど、鶴村は相変わらずニヤニヤしていたから若干気分が悪い。
…なんだ。ただの放課後デートってこと?それならそれで言えばいいのに。鶴村がフラグだとかなんとか言ってたけど別に何にもないじゃん。アホらし!
なんて思ってたら真由香ちゃんは下駄箱手前でピタッと歩みを止めた。
「?どうしたの?」
俺が首を傾げて彼女の顔を覗きこむと、真由香ちゃんは今にも泣きそうな表情をしていた。
――――なんで!?俺の脳内がパニックになる。
「えっ!?ちょっと、どうしたの!?」
確かにムスッとしていたのは悪かったかもしれないけど、それだけで泣く!?それとも俺何かした…?
どうすることも出来なくて固まっていると、真由香ちゃんから唐突に告げられた。
「空良君…私達、別れよ?」
…はい!?
今…なんて言いました?
俺は真由香ちゃんの正面に立って、困惑した表情で訊ねた。
「えと…どうして?俺、酷いことしたっけ?」
すると、真由香ちゃんはキッと睨むように俺を見つめてきた。おおう…そんな怒った顔初めて見たよ。
「空良君…今日、紗由理先生に言ったよね…女神様って!」
「え…あ、あれは先生に泣かれそうだったから誤魔化そうと思って…。」
「なんで誤魔化すだけなのに女神様とか言えちゃうの!?彼女の私がいるのにっ…私、何にも言ってもらったことないのに…。」
…それって拗ねてるの!?ただ女神とか言っただけなのに!?えー…?
「いや、言ってなかっただけで、俺真由香ちゃんのことちゃんと可愛いって思ってるよ?ちょっとタレ目なとことか、フワフワした髪とか…。」
「それ、見た目ばっかりだし…!ねえ、私のどこが好き?」
「ぅえ!?と…だから…可愛いとことか…?」
いきなりそんなこと言われてもパッといい答えが浮かばない。すごくシドロモドロに顔を歪ませると、真由香ちゃんは更に顔を真っ赤にして怒り始める。
「――――空良君っていっつもそう!!私の見た目しか見てないし、付き合えて嬉しかったのに全然私のこと見てくれないし、キスとか…手だって私からじゃないと繋いでくれないし!!」
いやあ…だっていつしたいとか分かんないからしないだけで、言ってくれれば応えてたよ?
「彼女って言葉だけで、他の女子と変わんないじゃん!!特別なことも何にもないし、いつもニコニコしてるだけで…もうウンザリなの!!」
ガーンッ!!
俺はその場で固まってしまった。まさかこの子からそんなことを言われるなんて…。
っていうか、ウンザリって言われてすごいショックなのはこっちなんですけど!?何でそんなこと言われなきゃいけないんだ!?
「ちょっと、真由香ちゃん…落ち着いて…。」
「やだ!!もう空良君なんて知らない!!バカバカ、空良君の大バカ―――――!!」
そう言って彼女は外に出る訳でもなく、バタバタと廊下を走り去って行きました。
残された俺…追いかけることも出来ずにポカーンと呆けて突っ立っていた。
っていうか帰るんじゃないんかい!?―――まあ…多分さっきお喋りしてた子のところで泣いて愚痴を吐くとか、そんなとこだろうとは思うけどさ…。
一部始終を見ていた野次馬が騒ぎ始める。そりゃあ下駄箱だもん、人は来るよね…。
なにこれ、俺、見世物みたいじゃん!!
俺は靴箱から自分の靴を取り出してわざとらしく床に叩きつけよう…かと思ったけど、なんかそれじゃあ俺が虚しく見えるだけだから止めといた。
溜め息を吐きつつスタスタと家に向かって歩きだす。野次馬は可哀想とか色々言ってるけど、もういいや。
人の噂も七十五日。だっけ?
とかいいつつ、そんなに話題に上ることもないだろうな…噂なんて一週間もあれば新しいものが出ては消えての繰り返し。七十五日なんて残る方がすごいよ。
…でもやっぱり、あれは無いんじゃない?じわじわと虚しさと苛立ちが沸き上がってくる。こんなときは…。
ピンポーン♪ピンポンピンポンピンポンピンポンピンポーン!!
連打したチャイムが鳴り響いたあと、ガチャリと玄関の扉が開いた。扉の向こうに居たのは…親友、寺石操だ。
「五月蝿い、迷惑、何用だ?」
明らかに面倒臭そうに俺を見てるけど、そんなの無視。
「みさおちゃーん!!」
扉を開けた操目掛けて俺は両手を広げて飛び掛かった。だけどするりと躱されてスカした俺は玄関から彼の家に上がり込む。
「おっ邪魔しまーす!」
「おい、入っていいとは一言も…。」
俺の首根っこを掴んで、操は呆れた様子だ。でもやっぱり無視!
「聞いてよ操ー!!マジで俺、今ヘコんでんの!!泣いていい!?ねえ、泣いちゃうんだけど!!」
「俺の話も聞けよ、バカ空良。」
「み゛ゃー!!皆して俺をバカバカってー!!」
ギャンギャン喚いて騒ぐ俺を見て、操はくいっと眼鏡のズレを直して溜め息を漏らした。
「…はあ。とりあえず部屋に入ってろ。」
「はーい♪」
待ってましたと言わんばかりに俺はにっこりと笑みを浮かべた。脱いだ靴をちゃんと揃えて、再び元気よく挨拶する。
「お邪魔しまーす!」
…あれ?
普段なら奥から操の妹が来るはずなのに、今日は返事すらない。友達と遊びに行ってるのかな?まあいいか、とにかく操の部屋に行こーっと。
が、妹が来ない理由はすぐに分かった。
玄関から入って階段で二階に上がり右側の扉、そこが操の部屋…なのだが。
ガチャリ。
「おー来た来た!!どーだったよ、フラグの結果は!?」
バタンッ。
…。
あれ、幻聴?幻覚?俺いつの間にか眠ってて夢みてんのかな?あのバカ鶴村が出るなんて、なんて最悪な夢なんだろ…。
すると部屋の扉が開いてニュッとアイツの顔が現れた。
「お前っ、何で人の顔見て閉めるんだよ!!」
「チッ、夢ならよかったのに…。」
「舌打ちかよ!?」
一気にテンションダウン。何で居るんだ!?鶴村が何か怒って騒いでるけどイライラし過ぎてどうでもいい。
「あー、あおくんだぁ!!いらっしゃいませえ♪」
鶴村の前をくぐり抜けるように部屋から出てきたのは、操の妹の秋穂だ。操とは正反対にコロコロと表情を変える可愛いやつ。因みに今年小学生になったばかりだ。
「秋穂ー!ダメだろ、こんなバカといたら!!お前までバカになっちゃうから、めっ、だぞ♪」
「あい!分かったあ♪」
「おいこら、そこー!!何酷いこと吹き込んでんだよ!?」
やー、秋穂は素直で可愛いなあ。癒される…と、そう言えば部屋の中にもう一人癒しキャラが見えた気がしたんだけど?
「あはは、とりあえず皆部屋に入って静かにしてよう?ここは寺石の家なんだから、迷惑になるだろ?」
修司だ。床に座って手招きしていて、秋穂がてててと走って膝にちょこんと座った。最近の秋穂のお気に入りの場所らしい。
俺は鶴村を押し退けて部屋の中に入る。
「修司も来てたの?」
「うん、鶴村が面白いことがあるって引っ張って来てさ…ごめんね?」
「ううん、修司は全然いいよ。寧ろ話聞いてよー!」
修司の前に滑り込むようにして座ると、後ろでアイツが目を細めて肩を落としていた。
「お前ら…俺の扱い酷すぎね?」
「いつもふざけすぎてるお前が悪いんだろ?入らないなら帰れ、邪魔。」
いつの間にか操がジュースを御盆に乗せて運んできていた。
「わあったよ!!だから居させて、持つから!!」
操から御盆を受け取って、鶴村も部屋に入る。なんだかんだ言って、いつものメンバーが集まった。聞けばたまたま皆、部活が早く終わったんだって。都合いいなー。
余計な物がないシンプルな部屋に男四人に少女が一人…なんか秋穂、逆ハーレムじゃね?(笑)
ジュースをゴクリと飲みながら、俺は放課後あった経緯を説明した。秋穂は何を言っているのか分かってはいないだろうが、ウンウン頷いてリズムをとっている。可愛いな、こんにゃろう。
「ふはははは!!だから俺の言った通りだったじゃん?失恋フラグー。ウンザリって…ふくくっ!!」
「フラグってそういう意味かよ!?言えよ!!分かってたら俺だって…。」
何か変わったかも…しれない?
「何も変わんねえよ。あっちがもう別れるって決めてんだから。そんなことも解かんねえの?罪な男だねえ?ぶふっ!!」
「ムキー!!喧嘩売ってんのかこの野郎!!」
鶴村に殴りかかろうかと思って膝で立ったところで修司が止めに入る。
「鶴村ー…何でそんなに笑えるんだよ?大丈夫、空良?」
「修司ー!!大丈夫じゃないよー!!俺スゴく傷付いてんだからー!!」
「そうだよね…何の相談もなくいきなり別れるって言われても受け入れられないよね。」
「そうなんだよー…唐突に、しかもあんな人目につくとこで言わなくてもよくない!?俺完璧にヒドイ男に見えるじゃん!!俺だけ悪いみたいにさー!!」
「え?いや、そうじゃなくて…好きだったならもう少し話し合って解決策を探ればよかったのにって。」
「へ?」
「え、あれ?」
何となく俺と修司の会話が噛み合わず、お互いに首をかしげる。すると、操が溜め息を吐きつつ眼鏡を上げながら言った。
「空良、お前さ…別れを告げられて何が一番ショックだった?」
何が、一番、ショックだった…?
…なんだろう。だってまだ付き合って一ヶ月経ってないし、デートらしいこともしてなかったけど、一人で勝手に別れるって決められて、俺がそれに従わなきゃいけないこの状況…かな?
俺が答えを言おうとした瞬間に操が手を突き出してきて制止する。
「仮にも付き合ってたってことは、お互いに好き同士だったってことで、普通なら別れを告げられたらアッサリ受け入れられないんじゃないのか?」
「―――…ほえ?」
どゆこと?キョトンとしていると今度は鶴村が付け足してきた。
「だからぁ、別れるって言われて悲しくないのかってことだよ。もう真由香ちゃんとは一緒にいられないんだからなー?」
カナシイ…?
「…そりゃあ、可愛い子とギクシャクした関係になるのは…悲しいとは、思うけど?」
俺の言葉を聞いた瞬間、皆が揃ってガックリと肩を落とす。
「はあー…ダメだこりゃ。」
「まあ、空良には早かったってことだよな。分かってたけど。」
「空良…可哀想だから明日一言謝ってきた方がいいと思うよ?朝倉さんに。」
朝倉って、真由香ちゃんに?謝る?俺が?なんで!?
「ええっ!?ちょっと皆して真由香ちゃんの味方なわけ!?俺の方が可哀想じゃない!?」
「お前…どこまで鈍いの!?おい、寺石、こいつの育て方間違えたんじゃない!?」
「育てたの俺じゃないし。まあ親も天然記念物みたいな人達だからな…仕方ないんじゃないか?」
なんか皆言いたい放題言ってくれるじゃないですか…。ねえ、本当に悲しくなってきたんですけど。
すると修司が心配そうに俺を見てこう言った。
「空良、どうして朝倉さんに告白されて付き合おうって思ったの?ちゃんと彼女のこと好きだった?」
…好き?
「―――――…好きだったとは…思うけど…?告白されて、嫌じゃなかったし…真由香ちゃんも嬉しそうだったし?」
「いや、ええと…。」
修司が困ったように頭を掻いていると鶴村が呆れた顔で首を振った。
「駒野ぉ、何言ってもムダだって。恋愛面はお子ちゃまなんだよ、こいつは。」
カチーンッ!お子ちゃまって…俺のことか!?
「んなにぃー!?じゃあ鶴村はどうなんだよ!!誰かと付き合ったことあんのか!?告白とかさあ!?」
するとピクッと身体を揺らしたあと、鶴村は視線を逸らしてそっぽを向いた。
「ふーんだ!なんだよ、無いのか!?だったら俺の方が…。」
自信を取り戻して笑みを浮かべた俺。だけど操が静かに呟く。
「…いや、空良よりは分かってんだろ。何しろ万年片お」「オアアアアアアー!!」
顔を真っ赤にしながら操のセリフに被せて、鶴村は奇声を上げた。
「万年かた…?何、五十肩よりヒドイ肩凝りなの?」
「…お前…。」
俺の言葉に皆がスゴく残念そうな表情をしてくるので、なんだか居たたまれなくなってきたよ。え、俺何か変なの?
すると、黙って話を聞いていた秋穂がてててと部屋から出ていって、何かを持って走ってきた。
「あおくん、これ、貸してあげるー!」
そう言って差し出されたのは…一冊のコミック、しかも少女漫画だ。受け取ってタイトルを見ると…『キュンキュン物語~君のすべてが知りたい~』だと…?
いかにもベタなラブストーリーっぽいですね。絵とか目がキラキラしてるんですけど。
「っぶ、ははははははは!!いいぞ秋穂ちゃん!!アオ、それで恋愛勉強しろって!!」
鶴村は突然笑い出して秋穂の頭を撫でた。
「勉強!?なんで…。」
こんな少女漫画参考にしないといけないくらいダメってこと?え、冗談だよね?
「いや、でも効果はあるかもな。」
「操まで…!?」
「ほらお前、ガキのとき柔道漫画にハマって実際に習い始めただろ?単純だからこういう分かりやすいものから色々学んだ方がいいんじゃないか?」
単純って…いや、ほんとに柔道は習ったけどさ。主人公カッコ良すぎて憧れたけどさ。ええ、ええ、単純ですとも。
「それに秋穂が折角お気に入りの漫画貸すって言ってるんだから受け取らないわけないよな?」
出たよ、シスコンめ!!そっちが本音だな!?